かつてプロ野球で統一球の導入により年間本塁打数が激減したように、使用する用具やルールの変化は選手のプレーに大きな変化を与える。そのような現象はeスポーツであっても例外ではない。むしろeスポーツの方が環境の変化は早いように思う。
3月29日から4月5日にかけて、開幕が延期となっているプロ野球の実際に予定されていた開幕カードと次のカードをパワプロで対戦する「プロ野球“バーチャル”開幕戦2020」の配信が行われた。
ここで使用したのはeBASEBALLプロリーグで使用した「実況パワフルプロ野球2018」ではなく、7月に発売が発表された「eBASEBALLパワフルプロ野球2020」の開発版だ。見た目はほぼ変わらないが、パワーカーブやシンキングファストといった新変化球が導入されていたり、打球がスライスしやすくなっていたりとこれまでの作品とは操作感がやや変わっている。今までならホームランになっていたような当たりが外野フライになる場面では、出場したプレイヤーの少し驚いたような表情が見えた。私を含め、各プレイヤーは操作感を確かめながらバーチャル開幕戦に臨んでいた。
新作を待ちわびるパワプロファンにとってはそうしたゲームの仕様の変化を楽しむことができた企画だったと思うが、プロ野球のファンも置き去りにしていなかったのがバーチャル開幕戦のニクいところだ。マリーンズの佐々木朗希投手やスワローズの奥川恭伸投手といった注目の大型ルーキーの一足早い“実戦デビュー”を堪能できたはずだ。
マリーンズの佐々木朗希投手はゲーム内最速の163km/hの速球を投じることができる。コントロールやスタミナの能力を表す指標はSからGまでの8段階の中でFだったが、マリーンズ代表の下山(プレイヤーネーム:スンスケ)選手は第1節で先発に起用。バレンティン外野手の加入によりさらに厚みの増したホークス打線を相手に、常人離れした速球を交えながら5回1/3を4安打1失点に抑える好投を披露し、「令和の怪物」っぷりを見せつけた。
甲子園で活躍したスワローズの奥川投手は球速154km/hコントロールCスタミナD、大きく曲がるスラーブと縦のスライダーでゲーム上でも即ローテーション入りできそうな能力で、視聴者からも期待の声が上がっていた。第2節のカープ戦で先発したが、第1節から打撃好調のカープ代表伊勢家(泉川れい)選手の前に4回6安打4失点と、こちらはややほろ苦いデビュー戦となった。
奥川投手と投げ合ったのは、六大学野球で活躍したカープのドラ1ルーキー森下暢仁投手だ。即戦力右腕の呼び声どおり、155km/hの速球にカットボール、ドロップカーブ、チェンジアップを投げ分けられる新人らしからぬ能力でゲーム内でも7回4安打1失点の好投。カープのバーチャル開幕戦2連勝に貢献した。
私が操作したドラゴンズはドラフトで指名された6選手のうち5選手をバーチャル開幕戦で起用した。オープン戦や練習試合での活躍を見て、多めに起用させてもらったが、どの選手にもそれぞれ見せ場を作ることができたので、プレイヤーとしても一ファンとしても嬉しく思っている。
オリンピックをはじめとして様々なスポーツが延期や中止が決まり、再開の見通しが立たない状況だが、こうした状況でeスポーツの新しい楽しみ方を示すことができたと感じている。バーチャル開幕戦を観て、プロ野球の開幕を待ち遠しく感じた方は多かったはずだ。1日でも早く平穏な日々が訪れて、またプロ野球を楽しむことができる日が来ることを心から願う。
文・菅原翔太(eBASEBALLプロリーグ2019シーズン中日ドラゴンズ代表選手・キャプテン)