「東京五輪出場のチャンスがあるのは奇跡的」と語る野中 スポーツクライミングで日本トップクラスの実力を誇る野中生萌。東京オリンピックの出場権をめぐっては、国際スポーツクライミング連盟と日本山岳・スポーツクライミング協会の解釈の違いで混乱に巻き…



「東京五輪出場のチャンスがあるのは奇跡的」と語る野中

 スポーツクライミングで日本トップクラスの実力を誇る野中生萌。東京オリンピックの出場権をめぐっては、国際スポーツクライミング連盟と日本山岳・スポーツクライミング協会の解釈の違いで混乱に巻き込まれ、判断がスポーツ仲裁裁判所(CAS)に委ねられるなど、騒がしい日々を送っていた。3月24日の東京オリンピック延期の発表にともない、今後の選考方式や選考基準も現時点では不透明な状況だが、野中が世界で戦える実力を持っていることに関しては、疑いの余地はない。

 この混乱のなかにあっても、野中の意識は変わらない。自身がクライミングを始めたときから掲げた目標に向けて、鍛錬の日々を送っている。そんな彼女に今の心境を聞いた。

--東京オリンピックが延期になりましたが、これまで東京オリンピックをどう捉え、どんな想いを持っているのか教えてください。

「オリンピックに出られるかもしれない。そういう機会を自分の人生の中で得られていることが、まず奇跡的だなと思っています。しかも私は東京出身で、オリンピックが東京で開催されるので、特別な想いがあります」

--その東京オリンピックではボルダリング、スピード、リードの3種目からなるコンバイド種目でメダルを争うことになります。野中選手はその3種目の中でボルダリングをメインに活動されてきました。ボルダリングへのこだわりを聞かせてください。

「私がボルダリングにシフトしたのは17歳のころで、そこからずっとボルダリングに絞って活動してきました。そのボルダリングに対する想いや熱量は、ほかの2種目(スピード、リード)と比べるとかなり大きいと思いますね」

--ボルダリングに絞ろうと思ったきっかけは何ですか。

「私のクライミングの強みは、パワフルな動きにあります。持久力が必要となるリードよりも、自分の強みである爆発的なパワーや動きを活かせるのがボルダリングだろうなと思ったのが絞ったきっかけでした」

--ボルダリングの魅力をどんなところに感じていますか。

「これはボルダリングに限ったことではありませんが、クライミングには限界がなくて常に新しい課題が存在して、常に上を目指していけるのが大きな魅力だと思っています」

--コンバインドではほかの2種目も重要になってきますが、その2種目に関しては今どのような課題をもって取り組んでいますか。

「スピード種目に関しては(スポーツクライミングが)オリンピック種目に決まってから取り組み始めました。最初は深く考えずにとにかく速く登ればいい、数をこなせばいいと思っていましたが、実際にやっていくとスピード種目の奥深さに気づかされましたね。

 体のポジションが少し違うだけで、下に蹴り出す力の加減が変わったりとか、それによってスピードが変わったりとか、メンタルの状態が登りに影響したりとか……。シンプルなようで複雑というか、シビアなところがたくさんあります。やればやるほどいろんな課題が出てきて、やっていてすごく面白いです。

 リード種目も持久力を上げる意味では登り込むこと、数をこなすことが重要です。リードはルート自体が長いのですが、そのなかで大事にしているのがテンポです。持久力が課題の私にとって、登っている間に迷ったりして無駄な時間を使ってしまうと、余計に体力を消耗して辛くなってしまいます。余計な体力を使わないように、どこでレスト(休憩)を入れたほうがいいのかとか、いかにムーブ(登り方や登る動作)を迷わないようにするかなどを、すごく考えてやっています」

--野中選手は9歳からクライミングをやってきていますが、そのクライミングから学んだことは何ですか。

「私は生まれてから、ほとんどクライミングと共に成長してきました。その中で一つの問題にしっかりと向き合って、その問題にどうアプローチすれば解けるのかという姿勢を一番学んだと思います。グライミングを通してメンタルの部分でもすごく強くなったと思いますし、クライミング以外のことにもポジティブに向き合ってあきらめずに取り組むことができるようになったと思います」

--その姿勢はいろんな面に応用できるものですね。

「クライミングはトライ&エラーのスポーツだと思っています。失敗してももう一度挑戦して、どうやったらできるのかを考え続ける。その姿勢はクライミングだけではなくて、世の中の多くのことに応用できると思います」

--クライミングの試合や練習、ふだんの生活でも、共通して大切にしていることはありますか。

「やっぱり楽しむことです。それは絶対に忘れてはいけないと思っています。練習がうまくいかないときや自分が思っているように物事が進まないときに、イライラしてしまったり、葛藤したりすることがあります。でもそれもその先の成功のためと思うと楽しいと感じることができると思うんです。それが自分の成長につながると思うと苦ではない。だからどんな状況も楽しむことを大切にしています」

--最後に今後の目標を教えてください。

「世界で一番強いクライマーになりたいというのが、この競技を始めたときからの目標です。その目標に向かってこの先もずっとクライミングを極めていく姿勢は変わらないと思います」

Profile
野中生萌
のなか・みほう 1997年5月21日生まれ、東京都出身。9歳からクラミングを始める。16歳で日本代表入りし、リードワールドカップに出場。16年にボルダリングワールドカップ・ムンバイ大会で初優勝。同年の世界選手権で銀メダルを獲得する。東京オリンピックでの金メダルを目指しトレーニングに励む