トップリーグは3月23日、新型コロナウィルス感染拡大などの影響で第6節以降の試合を延期していた今シーズンの大会中止を発表した。ただ、5月下旬に予定されている日本選手権は行なう方向で、6月〜7月の日本代表戦も予定されている。田村優の4つ年下…

 トップリーグは3月23日、新型コロナウィルス感染拡大などの影響で第6節以降の試合を延期していた今シーズンの大会中止を発表した。ただ、5月下旬に予定されている日本選手権は行なう方向で、6月〜7月の日本代表戦も予定されている。



田村優の4つ年下の弟でサントリー所属の田村熙

 ワールドカップ以来となる日本代表戦には、果たしてどんなメンバーが選ばれるだろうか。なかでも注目は、中核としてチームを牽引するSO(スタンドオフ)10番のポジションだ。

 ワールドカップで田村優(キヤノン)が担った役目を、誰が背負うことになるのか。中堅・若手の日本人選手、さらには外国人選手も含めて占っていきたい。

 まずは前提として、なぜ10番というSO(ポジション)は重要なのか——。

 それは、9番のSH(スクラムハーフ)の次にボールタッチ回数が多く、相手との間合いが狭くプレッシャーがあるなか、パス、キック、ランの判断を瞬時に行なう「司令塔」だからだ。そのため、トップリーグでは神戸製鋼の世界的SOダン・カーターのように、レベルの高い外国人選手が多く務めるポジションでもある。

 2019年ワールドカップに続いて日本代表は、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)とトニー・ブラウンコーチ体制が継続されることになった。よって、次の日本代表メンバーの選考でも、スペース感覚に長けてキックのスキルの高い選手が好まれることは間違いない。

 田村は31歳という年齢も考慮し、一時は代表引退を示唆したこともあった。だが、今は「(2023年は考えられないが)40歳まではプレーしたい」とも語っている。再びジェイミー・ジャパンに選出される可能性もあるが、ほかの選手の台頭も今後の必須課題である。

 次世代の10番・最右翼は、2019年ワールドカップで控えながら4試合に出場した松田力也(パナソニック)だろう。

 伏見工業時代は主にFB(フルバック)だったが、帝京大ではSOをメインでプレーするようになった。パナソニックでは1年目からインサイドCTB(センター)としてベスト15にも輝いたが、ジョセフHCは一貫してSOとして起用し続けている。

 2019年ワールドカップは先発として10番を背負うことはできなかったが、2023年に向けて松田はこう意気込む。

「(田村)優さんとの差は、ゲームコントロールの部分。もっと10番としてプレーして経験値を上げていかなければならない。(2023年は)10番を着て、日本代表を勝たせられる選手になりたい」

 その言葉どおり、松田は今シーズンのトップリーグで6試合中3試合を10番として出場し、パナソニックの6連勝に大きく貢献した。プレースキックも正確で、身長181cm・体重92kgという体格を生かしてタックルもいとわない。強気なランも大きな武器であり、次の10番に最も近い存在のひとりだ。

 さらにもうひとり、今シーズンのトップリーグで10番として好調だったのが、田村優の弟・熙(ひかる/サントリー)だ。國學院栃木→明治大と兄と同じルートで東芝に入り、そのプレーはルーキー時代から光っていた。

 だが、プロ2年目にサントリーへ移籍したものの、前所属チームからリリースレター(移籍承諾書)が出なかったので、規定によって試合に出ることは叶わなかった。サンウルブズの一員としてスーパーラグビーには出場したものの、アピール不足もあり、まだ日本代表でのプレーはない。

 サントリーの同ポジションには、元オーストラリア代表の世界的SO/CTBマット・ギタウと、2015年ワールドカップで日本代表の3勝に貢献した小野晃征がいる。彼らにもまれながら、今シーズンは開幕からSOとして安定感あるプレーを見せていた。

 かつて、熙は「兄と同じくらいやらないとダメですね」と話していた。だが、今シーズンは兄と遜色ないプレーを披露しており、国際レベルでも通用する選手に成長してきたと言えよう。日本代表で兄弟同士、高いレベルで切磋琢磨する姿も見てみたい。

 さらに次世代の10番として有力なのは、パナソニックで松田と定位置を争っている山沢拓也だ。元日本代表指揮官のエディー・ジョーンズHC(現イングランド代表指揮官)から「ビジョンを持っている」と高く評価され、高校生ながら日本代表合宿に招集された逸材である。キックを含めたスキルが高く、ステップも鋭い。

 それでも、その独創的なプレーはジェイミーHCにあまり評価されることはなく、サンウルブズでもプレーしたものの、日本代表に定着することは叶わなかった。「ゲームコントロールの部分を伸ばさないといけない」と山沢自身が話すように、司令塔としての成長が日本代表定着への近道となろう。

 また、ほかの国で代表経験がなく、日本代表になり得る特別枠としてプレーする外国人SOも挙げておきたい。豊田自動織機を経て現在ヤマハ発動機でプレーをしているオーストラリア出身のSO/FBサム・グリーンが日本で4年目、トヨタ自動車の南アフリカ出身のSOライオネル・クロニエが3シーズン目を迎えている。

 ふたりとも3年居住で、基準をクリアしている。ただ、3年居住の厳格化の流れもあり(※2020年末から5年居住となる)、最終的にはワールドラグビーの判断が必要になるが、将来は日本代表入りする可能性も大いにある。

 一方、大学生や高校生にも、能力の高いSOが揃っている。

 早稲田大の大学選手権の優勝に貢献した岸岡智樹(4月からクボタ)、U20日本代表経験のある中央大3年の侭田洋翔(ままだ・ひろと)、東海大2年の丸山凜太朗、そして、昨年度の花園で高校3冠に輝いた伊藤大祐(桐蔭学園/4月から早稲田大)……など。

 なかでも注目したいのが、山沢拓也の弟で明治大3年の山沢京平だ。深谷高から明治大に進学し、大学2年までFBだったが、元日本代表SHの田中澄憲監督の勧めもあり、昨シーズンから兄と同じスタンドオフとしてプレーしている。

 タックルはもっと向上させなければいけないが、ランやキックといったスキルは一級品だ。「はっきり(2023年を目指しているとは)今は言えない。先を見る前に、目の前の目標をクリアして、1試合ずつ(経験を)積み上げていきたい」と本人は語る。

 4月から大学4年生となり、来年はトップリーグでプレーすることになるだろう。今後の伸びしろ次第では、次のワールドカップも十分に視野に入ってくるはずだ。

 松田、田村兄弟、山沢兄弟、外国人選手、もしくは……。日本代表の10番を背負い、チームの司令塔として2023年に臨むのは、果たして誰だ。