新型コロナウイルスの影響によって、スポーツの取材に行く機会も減っている。セッティングされたインタビュー以外、あちこち顔を出して「ぶらり取材」することもない。

 自宅で作業する時間がやたらと長くなった。電話でのインタビューに切り替えたり、作業と言っても、本棚にしまってあった本を読んだり、過去のスポーツ動画をもう一度見たり、などなど含めて。

 原稿を書く、または本や資料を読む際は、シーンと静かな環境で作業するほうが個人的には、はかどる。

 とはいえ学校が休みになっているため、家で有り余る元気を発散する子供たちの騒ぎ声とも戦わなければならない。「静かにして!」とお願いしたところで3分と持たない。ウーン、困ったと窮余の策として実行に移したのが「BGM作戦」。

 小さな音量で音楽を流してみると、子供たちの声もそんなに気にならなくなった。

 シャッフルもあれば、1曲だけのリピートもある。

シャビでもなく、メッシでもない。

 作業を進めてくれるマイフェイバリットソングが、森山直太朗の『そしてイニエスタ』である。

 Number997号の「響け!音楽とスポーツ」特集の企画で森山さんにこの曲について聞いたという背景もあるのだが。

 そしてイニエスタ シャビでもなくて
 そしてイニエスタ メッシでもない
 そしてイニエスタ 白い小さいマタドール
           『そしてイニエスタ』(作詞・作曲:森山直太朗&御徒町凧)

 2011年の東日本大震災がきっかけになって生まれている。

普段と変わらない姿勢でいることの大切さ。

 心に残った森山さんの言葉がある。

「打ちひしがれながらふとテレビをつけるとバルサの試合がやっていました。カンプノウにいつものようにイムノ(バルセロナの応援歌)が響き渡る。

 試合開始直前に震災に遭った日本に対し1分間の黙祷があって、ピッチ、そしてスタンドが凛とした静寂に包まれました。レフェリーが笛を吹くと歓声が沸き上がり、さっきまでの静けさが嘘のようにピッチ上で選手たちが躍動しサポーターが熱狂しているんです。

 変わらないその光景を見てどれだけ勇気づけられたことか。そこには遠い海の向こうの試合に興奮するいつもの日常があった。普段と変わらない姿勢でいることが誰かを勇気づけるんだよなって改めて感じました。

 後に御徒町から『「そしてイニエスタ」はある意味で俺たちにとっての復興ソングなんだよ』っていう話をされて妙に腑に落ちたのを覚えてます」(997号から抜粋)

 単にバルサを愛する歌ではない。そこに「サッカーのある日常」いや「あるべきものがある日常」の尊さをさりげなく、そっと手を差し伸べるように語ってくれている。

 ゆったりとしたメロディーと森山さんの優しい歌声が、あるべき日常を感じさせてくれる。

スポーツは日常であり、希望。

 今、世界は新型コロナウイルスに揺れている。

 感染拡大防止の観点に立てば世界中のスポーツが開催中止、延期となるのは致し方ないことだ。人々の健康が最優先されなければならない。

 F-1も、NBAも、欧州サッカーも止まった。カンプノウでイムノが響くこともなくなった。感染の急激な拡大によって世界中の人々は不安に包まれている。

 スポーツは日常であり、希望。不安をやわらげる効果もあるだろう。免疫力を高めるにはストレスを減らすこと、楽しむことがとても大切だと聞く。

相撲が開催されているだけで何だか安心。

 こんなにも大相撲中継をゆったりと見たのは初めてかもしれない。

 無観客だろうが、雰囲気が寂しかろうが、相撲が開催されているだけで何だか安心できる。

 横綱・白鵬はかち上げがどうだ、張り手がどうだと批判もされているが「これが俺の相撲」とばかりにやり切ろうとする姿を見ると、そこに「日常」を感じる。

 ほかのスポーツがなかなか動いていない現状、テレビをつければ大相撲があるのは有難い。

イニエスタなら世界に希望を与えられる。

 4月3日からの再開を目指しているJリーグは25日をメドに今後の方針を決定するという。感染拡大にストップが掛かっている状況だとは言えないため、観客を入れての通常開催は極めて難しいと思われる。

 村井満チェアマンは無観客開催を「最終手段」としているため、再延期が次の選択肢となるだろうか。

 筆者は感染拡大の状況にもよるが、「無観客開催」の可能性も探ってほしいという考えだ。

 もちろん入場料収入を手にできないクラブへの救済策とセットになる話とはいえ、「日常にサッカーがある」ことは希望にもつながる。

 サッカーは世界中にファンを持つ世界最大のスポーツ。プレミアもラ・リーガもセリエもブンデスも中断に追い込まれ、サッカーが動いていない。

 世界のサッカーファンはJリーグを知らなくても、アンドレス・イニエスタなら知っている。

 もし無観客開催でもイニエスタがヴィッセル神戸のユニフォームを着て、華麗なテクニックを見せてくれたら、国内のみならず、世界に希望を与えるのではないかとも思うのだ。

無観客開催は、日常に戻るその第一歩。

 日常とは無論、観客も一体となったサッカーである。森山さんが語る「いつもの日常」はそこを指していると解釈している。

 無観客開催は、日常に戻るその第一歩。

 そこにサッカーがあれば、ちょっとでも不安を忘れることができる。ストレスをやわらげてくれる。

 スポーツニュースを含めて多くの人が目にできる環境があれば、「次のJリーグの試合が楽しみだな」と思うだけで希望につながるような気がしている。

 チームには移動というリスクも伴うため、難しい判断にはなる。チームの誰かが罹患してしまえばさらなる延期となってしまう可能性もあるからだ。

 政府の方針と拡大の状況を見ながらではあるが、無観客という条件で再開にGOが出せる状況になるのであれば、検討の余地はあるのではないだろうか。

 東京五輪開催中にJ2、J3を実施するのなら、規模縮小の観点から「J1」限定で無観客から再開させるという考え方だってあるだろう。

 小さな部屋にリピートする『そしてイニエスタ』。

 希望を感じて、希望を信じて--。

(「サムライブルーの原材料」二宮寿朗 = 文)