新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、世界経済にも影響が出ている。スポーツ界も例外ではない。グランドスラムに次ぐ規模の「ATP1000 インディアンウェルズ/BNPパリバ・オープン」が開催中…

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、世界経済にも影響が出ている。スポーツ界も例外ではない。グランドスラムに次ぐ規模の「ATP1000 インディアンウェルズ/BNPパリバ・オープン」が開催中止を決めると、その後ATPは6週間の大会取り止めを決めた。英Metro紙が伝えている。

どのような判断を下す時にも、当然のことながら安全性を優先事項とすることは正しい。大会を開催するか否かを判断する上で、選手、ファン、そして裏で大会を支える人々の健康が最も重要だ。テニスの場合でも、国際的に大会が開催される他のすべてのスポーツにおいても、これは特に難しい問題である。選手やコーチ、大会スタッフは、毎週のように世界各国から旅をしてくるからだ。

テニス選手は、週ごとに大陸から大陸へ移動することもざら。そして「ATP1000 マイアミ」から「全仏オープン」(フランス・パリ/5月24日~6月7日/クレーコート)までの2ヶ月間に至っては、もし選手が毎週ATPツアーレベルの大会に出るとしたら、最大9つの国を次から次へと移動することになる。

またプロテニスのツアーは、たとえばサッカーなどのリーグとは全く異なる。例えばシーズンも終盤に差し掛かかってきたプレミアリーグの場合、今後の試合数も相手も決まっている。だが、テニスは全く異なる方式だ。

トップ選手が参加しなければならない大会数のめどはあるが、1年にプレーしなければならない最低試合数もなく、特定の選手と何回対戦するといった決まり事もない。トップレベルの大会は、ATPやWTAツアーの一部ではありつつも、それ自体は独立した存在であり、もし大会が開催されないとしてもツアーは続けられる。

もしプレミアリーグで、予定されていたすべての試合を行わずにチームを降格したりすれば、訴訟が起きるだろう。だがもしテニスのシーズンが今日終了になったとしても、プレミアリーグの順位表に当たるテニスの年末世界ランキングは、現時点の順位で有効とされる可能性が高い。なぜなら、試合数や大会数の規定がないからだ。しかし、1つ2つの大会ではなくシーズンの大半が影響を受けるとなると、どうだろうか。現在までに前例はない。

「ATP500 ロンドン」(イギリス・ロンドン/6月15日~6月21日/グラスコート)のトーナメントディレクターStephen Farrow氏は、先日イギリステニス協会(LTA)の代表としてデジタル・文化・メディア・スポーツ省とイギリスのメディア及びスポーツ団体との会議に出席した。

参加したその他のスポーツ団体は財政状態、特に利益幅の小さい状態で運営しなければならないことについて心配をしていたようだが、最悪のシナリオとして「ウィンブルドン」が中止になったとしても、全般的にテニスの現状に関しては楽観視だったいう。この夏イギリスで行われるテニスの大会については、中止の際の返金について心配することはない。「ウィンブルドン」を始めとするイギリスで開催される大会すべてには保険が掛けられており、チケット購入者に返金が可能だという。

しかし、イギリスのテニスシーズンはまだ先だ。最初に行われるのは5月31日より開催されるチャレンジャー大会の「サービトン・トロフィー」で、まだ時間に余裕がある。だがヨーロッパのクレーコートシーズンは、より大きな影響を受けるだろう。ATPの6週間の大会中止で、ツアーレベルだけでも既にインディアンウェルズ、マイアミ、ヒューストン、マラケシュ、モンテカルロ、バルセロナ、ブダペストの各大会が中止となっているのだ。

それぞれの大会は独立して運営され、異なる国で開催されるため、基本的にそれ以降の各大会の実施については各国の地元公衆衛生当局の指導に従うことになる。例えば、「ATP1000 ローマ」(イタリア・ローマ/5月10日~5月17日/クレーコート)が5月ではなく今週開催予定だったとしたら、即刻開催中止となっていただろう。イタリアのジュゼッペ・コンテ首相が公共の場での集まりを禁じたからだ。

既に中止となった6週間以降のことを現時点で確信を持って断言することは困難だ。ヨーロッパのクレーコートシーズンが(そしてそれ以降も)すべて消滅する可能性がないわけではない。そうなると、ATPツアーもWTAツアーも難しい判断を迫られることになる。

ランキングも大いに影響を受けるだろう。もしクレーコートシーズンの大会がすべてキャンセルされると、ラファエル・ナダル(スペイン)は現在保有するポイントの約40%(3900/9850)を失い、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)は約25%(2500/10220)を失う。この時期に年間ポイントの大半を稼ぐクレーコートのスペシャリストたちは、大きくランキングが降下することもあり得る。

その他の選手、例えば現在イギリスでトップのダニエル・エバンズ(イギリス)の場合は、2019年のクレーシーズンに獲得したポイント数は51ポイント(全ポイントの3%)と少ないため、世界ランキングでの地位をより確固たるものにすることができる。膨大な数の選手が影響を受けるため、長期の怪我に苦しめられた選手によく利用されるプロテクトランキング制度を活用するのも難しいだろう。選手はただ自分の運命を受け入れるしかなくなる、というのが、厳しい現実となってしまうのかもしれない。

もちろん、ジョコビッチやナダルのような選手は今回のことの最大の犠牲者ではない。努力を重ねてランキングを少しずつ上げ、最近やっと大きな大会の本戦に出られるようになったヘザー・ワトソン(イギリス)のような選手は、こういった大会の初戦に出場するだけで獲得できる賞金やポイントを得られないことになり、大きな打撃を感じるに違いない。

本質的に、選手らは自営業である。テニスの食物連鎖の下位にいくほど、臨時やフリーランスで裏方に雇われる人々も含め、収入に大きく響くことになる。つまり、これらの問題に対するシンプルな解決法というのは存在しない。大会が中止になって既に大きな損失に直面している主催者側から、選手や雇用者へお金を払わせることは難しいだろう。それにそれらの問題は、テニス大会で人が集まることにより人命が失われるリスクと比較されると、かすんでしまうのだ。

スポーツ界全体が、そして特に国際的なスポーツであるテニスは、大きな課題に直面している。

(テニスデイリー編集部)

※写真は2020年「ATP1000インディアンウエルズ」会場

(Photo by Al Bello/Getty Images)