開幕を目前に、問題が残っているフェラーリ F1史上かつてないほど「予想不能」なシーズンが、いよいよその幕を開けようとしている。唯一の例外は、今年もメルセデスとルイス・ハミルトンがチャンピオンの最有力候補であることだろう。 だが、それ以外…



開幕を目前に、問題が残っているフェラーリ

 F1史上かつてないほど「予想不能」なシーズンが、いよいよその幕を開けようとしている。唯一の例外は、今年もメルセデスとルイス・ハミルトンがチャンピオンの最有力候補であることだろう。

 だが、それ以外の部分は、ふたを開けてみるまでまだわからない。何しろ、今年のF1が全レース開催されるのか、現時点でわかっていないからだ。新型コロナウイルスの影響で、今週末に予定されている開幕戦オーストラリアGPは中止が濃厚とも言われており、開催が危ぶまれている(その後、中止が決定)。また、中国GPは早々に延期が決定。3月22日のバーレーンGPは「無観客レース」として開催される予定だ。さらに、今年初開催のベトナムGPは「開催にむけて準備が進められている」が、パドックでそれを信じている人はわずかだろう。

 また、COVID-19の影響は感染が広がるイタリアに本拠地を置く2チームにも深刻な影響を及ぼしている。フェラーリとアルファタウリ(旧トロロッソ)は、何とかオーストラリアへの入国禁止措置を免れたが、検疫でブロックされるリスクを回避するため、開幕戦後はイタリアに戻らず、次の開催地へ向かう可能性が高い。

 その場合、今後ファクトリーからアップグレードパーツや、スペアパーツの供給に支障が出ることが予想され、仮に2戦目以降の改良ができずにパーツのストックが足りなくなれば、パフォーマンスが低下することも考えられる。

 特に開幕前のテストで苦しんでいたフェラーリにとって、これは非常に厳しい状況と言えるだろう。セバスチャン・ベッテルとシャルル・ルクレール、ふたりのドライバーは共にニューマシンSF1000のハンドリング問題を訴えており、チーム代表のマッティア・ビノットも「現時点で我々のマシンは最速とは言い難く、ラップタイムでもライバルたちに後れを取っている」と認めている。

「昨年のマシンは直線に対してコーナーで遅すぎるという問題があったので、今季のマシンではより多くのダウンフォースを得ることで、コーナーリングスピードを改善することを狙った。だが、その結果、ストレートスピードと低速コーナーでのバランスに問題を抱えることになり、大きな課題となっている」と、テストで語っていたビノット。

 新型コロナウイルスの影響に加えて、問題を抱えたニューマシン……。難問だらけのフェラーリだが、イタリアの名門チームを襲う問題はそれだけではない。ここにきて、昨年のフェラーリがエンジンに関して重大な「ルール違反」をしていた可能性が高まり、FIAやライバルチームも巻き込んで、新たな問題を引き起こし始めているのだ。

「フェラーリがエンジンの燃料供給に関して、何らかのインチキをしているのではないか?」という疑惑については、昨年から何度か話題になっていたが、これに関して今シーズン開幕を前にFIA(国際自動車連盟)とフェラーリの両社は、「合意」に至ったことを発表していた。だが、その内容は「非公開」とされ、フェラーリが実際に違反行為を行なっていたか否かを明らかにしないまま「政治的な幕引き」が図られた。

 フェラーリエンジンの供給を受けるアルファロメオとハース以外の全チームは、この「合意」に対して強い不満を示しており、彼らは「今後、法的措置も検討する」との共同声明を出している。そのため、今後の動向次第ではチーム代表のビノットの首も怪しくなってくる。

 ちなみに、今季はセバスチャン・ベッテルにとってフェラーリとの契約の最終年にあたるため、多くの問題を抱えたフェラーリが不本意なシーズンを送ることになれば、今季を最後にベッテルがフェラーリを、あるいはF1から去る可能性すらありそうだ。

 2度のバルセロナテストを踏まえて、開幕前の現時点での今シーズンの上位陣の「戦力地図」を整理しておこう。

 メルセデスを追うフェラーリ、レッドブルだが、今年もメルセデスの優位は揺るがないものの、フェラーリが多くの問題を抱えるなか、昨年、ナンバー3的ポジションだったレッドブルが、2020年シーズンはメルセデスに次ぐ第2のポジションで開幕に臨むと見ていいだろう。

 日本の研究所で開発されたホンダの新しいパワーユニット、RA620Hが大きな進化を遂げていることは間違いない。テストでも、その「独特なサウンド」は非常に印象的で、ホンダは技術的なブレイクスルーを見つけたようだ。

 一方、そのホンダ製パワーユニットを搭載するレッドブルの車体は間違いなく「速さ」を持っているが、限界領域でのトリッキーさがあるらしく、マックス・フェルスタッペンとアレクサンダー・アルボンの両ドライバーがテストで何度かスピンを喫していた。

 ドライバーに関しては、エースのフェルスタッペンに大きな期待が集まる一方で、昨シーズン途中からチームに加入したアルボンの2年目にも注目したい。アルボンは経験こそ少ないものの、生まれ持った「速さ」は確実にある。正直で穏やかな性格から、チームのエンジニアやメカニックたちの評判も上々だ。今季のレッドブルがメルセデスにどこまで迫れるかは、現時点でまだ判断できないが、状況次第ではアルボンも「隠れたタイトルチャレンジャー」となり得るかもしれない。(川喜田研●翻訳 translation by Kawakita Ken)