今シーズンも優勝候補筆頭のメルセデス 今シーズンのF1も、メルセデスが「最強」であることはほぼ間違いない。テストでのラップタイムを分析する限り、最速のマシンは明らかにメルセデスW11であり、このマシンとオールラウンドに強い「最速ドライバ…



今シーズンも優勝候補筆頭のメルセデス

 今シーズンのF1も、メルセデスが「最強」であることはほぼ間違いない。テストでのラップタイムを分析する限り、最速のマシンは明らかにメルセデスW11であり、このマシンとオールラウンドに強い「最速ドライバー」ルイス・ハミルトンのコンビネーションは「ほぼ無敵」にすら感じる。

 しかも、今季のメルセデスW11ステアリングホイールに新機能を加え、走行中にフロントタイヤのキャンバー角(タイヤ・ホイールが車体に対して取り付けられる角度)を変えられる、革新的な新機構「DAS」(デュアル・アクシス・ステアリング)を搭載し、ライバルたちを大いに驚かせた。

 このDASが生み出す性能向上の幅は小さいかもしれないが、確実に期待できそうであり、その一方で、DASの非常に複雑な機構を他チームがコピーするのは容易ではない。昨年、すでに最強のマシンであったメルセデスが、さらなる技術的チャレンジでライバルを引き離しにかかった形だ。

 現時点で彼らに唯一の不安があるとすれば、テスト中にも何度かトラブルを起こしていた新型パワーユニットの信頼性だけだろう。この問題を開幕前にどれだけ解決できたかが、彼らのスタートダッシュの鍵を握ることになりそうだ。

 そして、トップ争いの後方に目を移すと、そこには今シーズン最大の「予測不能」が待っている。ただでさえ戦闘力が接近していた中団グループの戦いは、ここ数年で最も激しくなっており、大混戦必至と言っていいだろう。そこでまず注目したいのは、ルノーとレーシングポイントの2チームだ。

 このうち、ルノーは昨年のマシンをベースに大幅な改良を加えた「キープコンセプト」の戦略で2020年用のマシンを仕上げており、その「継続性」がシーズン序盤では有利に働く可能性がある。ただし、シーズン後半に向けた「進化の幅」には限界を抱える恐れがある。

 一方、メルセデスエンジンを搭載するレーシングポイントは、驚くべきことに「2019年最強のマシン」だったメルセデスW10をほぼ丸々コピーしたといってもいい「ピンクのメルセデス」RP20を開発。開幕前のテストでも、驚くほどの速さを見せており、その「コピー&ペースト」的なアプローチが物議をかもしている。

 少なくともシーズン序盤に関していえば、トップ3の後ろを脅かしかねないほどの速さがある。それが「コピーマシン」の是非や合法性に関する議論を加熱させる可能性もありそうだ。



ピンクのメルセデスと言われているレーシングポイントの新マシン

 ただし、「リバースエンジニアリング」の手法でメルセデスのマシンをコピーできたとしても、シーズン中のマシン開発能力までは「コピー&ペースト」とはいかず、徐々にそのポジションを後退させることになるだろう。

 最悪のシナリオはシーズン途中で「ピンクのメルセデス」の合法性が問題となり、チームがこのマシンを使用できなくなることだが、その場合は昨年型のRP19を使わざるを得ないだけに、その影響は深刻なものになるはずだ。

 ちなみに、大混戦の中団グループでは、昨年から組織改革に着手し、今季、新設計のマシンを投入するマクラーレンに注目している。

 テストでのパフォーマンスも良く、新体制となった技術部門やチームが持つ充実した技術リソースを活かせば、シーズン中の開発能力も期待できる。今季は、長年苦しんできた名門チームが復活し、混戦のミッドフィールドを引っ張る存在となりそうな予感がある。※マクラーレンは開幕戦の開催地メルボルンでチームスタッフが新型コロナウイルス陽性であることが判明。オーストラリアGP参戦を取りやめた。

 そのマクラーレンに続くのはアルファタウリとハース。この2チームも、レーシングポイントほどの「コピー&ペースト」ではないのもの、アルファタウリはレッドブル、ハースはフェラーリからの技術支援を受けている。いずれも、開幕前のテストで課題を抱えていた印象があるが、今後の開発による「伸びしろ」は期待できそうだ。アルファタウリに関しては、前述したホンダ製パワーユニットの性能アップが好材料だ。

 やや厳しそうなのがアルファロメオで、今季のマシンは時折「速さ」を見せるものの、ラップタイムが安定せず、状況次第で「トップ10」を争う可能性がないとは言えないが、シーズンを通してグリッド後方に沈む可能性もありそうだ。

 ウイリアムズに関しては、昨年よりわずかに「マシ」だとしても、正直多くは期待できないだろう。仮に、マクラーレンと並ぶこのイギリスの名門チームに復活のチャンスがあるとすれば、F1のレギュレーションが大きく変わる2021年シーズンのマシン開発にリソースを集中するほうが、より現実的と言えるかもしれない。

 まさにこの点に混戦のミッドフィールドの今季を占う、もうひとつの重要な「鍵」が隠されている。つまり、混戦のシーズンを戦う中団グループで、どのチームが先に今シーズンに見切りをつけ、レギュレーションが大きく変わる2021年用マシン開発に軸足を置くのか……という点だ。

 彼らは1年後の「F1大変革」を見据えながら、2020年シーズンを戦わなくてはならない。多くの「予測不能」な要素に溢れた2020年のF1は、その先に待つ「新時代」ともシームレスにつながるシーズンなのである。(川喜田研●翻訳 translation by Kawakita Ken)