6日間のテスト日程をすべて終え、バルセロナ・カタルーニャ・サーキットを後にするマックス・フェルスタッペンの表情は、とても晴れやかだった。 2020年は8日間から6日間に、プレシーズンテストの日程は25%も削減された。それにもかかわらず、レ…

 6日間のテスト日程をすべて終え、バルセロナ・カタルーニャ・サーキットを後にするマックス・フェルスタッペンの表情は、とても晴れやかだった。

 2020年は8日間から6日間に、プレシーズンテストの日程は25%も削減された。それにもかかわらず、レッドブル・ホンダはここ数年で最も好調な開幕前の準備を整えた。



6日間のテストで好感触を掴んだ今季のレッドブル・ホンダ

 テスト前半は新車RB16の学習に徹し、硬いC2タイヤで淡々とデータ収集の走行を続けた。テスト後半になってもそれは続き、リアサスペンションのアンチロールバーやマウント、フロントブレーキにトラブルが起きたり、フェルスタッペンがスピンオフをしたりと、周回数は伸び悩んだ。

 しかし、残り2日となったところで開幕戦仕様の空力パッケージを投入し、フロントウイングやバージボード(※)周辺を刷新。まずは慎重にそのデータ収集と新旧フロントウイングの比較走行を行ない、最終日の残り2時間を切ったところでついにタイムアタックを敢行すると、トップのバルテリ・ボッタス(メルセデスAMG)から0.073秒差の2番手タイムを記録した。

※バージボード=ノーズの横やコクピットの横に取り付けられたエアロパーツ。

 最もソフトなC5タイヤを履いたボッタスに対し、フェルスタッペンは1段階硬いC4タイヤ。C4とC5には0.4〜0.5秒のタイム差があるということを考えれば、実質的にフェルスタッペンのほうが速い。また、C3タイヤで記録した1分16秒384から換算すれば1分15秒584相当になり、フェルスタッペンはボッタスがテスト前週に記録した1分15秒732と同等か、それ以上の速さがあったということになる。

 もちろん、上位チームは実力を隠すために、ある程度の燃料を搭載して重い状態で走るのが定石である。それぞれがどのくらいの”重り”を積んでいたのかは、チーム自身にしかわからない。10kgで0.2〜0.5秒もタイムに差が出るのだから、単純な最速タイムの比較だけで物事を語ることはできない。

 それでもレッドブルにとって大きかったのは、空力をアップデートし、セットアップを煮詰め切った最終日の最後2時間のマシンが、極めてフィーリングのいい状態に仕上がっていたということだ。

 フェルスタッペンは晴れ晴れとした表情で、その感触を話した。

「ハッピーだ。それはもうこれ以上、マシンの開発をプッシュしなくてもいいという意味ではなくて、(現時点で)マシンのフィーリングがとてもいいからだよ。開幕に向けて、いい準備ができたと思う。やりたかったことはすべてトライできたし、クルマのフィーリングもいい。最後に6日間のテストのすべてをまとめ上げることもできたしね」

 フェルスタッペンは中速のターン13やターン5で何度もスピンを喫し、最終日はアレクサンダー・アルボンもターン12でスピンオフを演じた。それだけに、RB16は昨年型と同じようにリアのスタビリティ(安定性)や風に対するセンシティブさの問題を抱えているのではないか、という声もパドックで囁かれた。

 もちろん、フェルスタッペンはこれを否定。スピンはバルセロナに吹き荒れていた突風のせいであり、空力に強く依存している今のF1マシンなら誰にも起こり得ることだと説明した。

「このマシンをドライブしたわけでもないのに、何がわかるんだろうね。たまたま運が悪く風の影響を受けてコントロールを失うこともあるし、プッシュをしていればなおさらだ。僕はテストのうちにクルマの限界を確かめておきたかったんだ。開幕戦を迎えてからプッシュして、さらなる速さを見つけることはしたくないからね」

 アタックラップではストレートエンドで常に312km/hを記録し、全10チームのなかで上位につけた。22秒間のうちターン1のS字コーナー入口以外は全開という、ストレート主体のセクター1でも速さを見せた。

 ホンダのパワーユニットはテスト前週の2日目午後を除いて5日半を1基のICE(エンジン本体)で走破し、アルファタウリは6日間を1基で走破。メルセデスAMGやフェラーリのパワーユニットに次々とトラブルが発生する一方で、ホンダの信頼性は極めて高く、ストレートでライバル以上の速さをもたらすパワーも感じさせた。

 そして何より、テスト前半ではレース週末のあらゆる状況を考慮した各種モードのチェックが終わり、テスト後半ではそのファインチューニングを進めた。

 毎年1カ月ずつ前倒ししてきた開発スケジュールは、マクラーレン・ホンダ時代と比べればすでに3カ月も早い。万全の態勢で開幕戦仕様のRA620Hスペック1を完成させている。それが開幕前テストに投入され、6日間を難なく走り切ったのだ。

 これまでで最も順調な開幕前テスト。それはレッドブルのみならず、ホンダにとっても明確に言えることだった。

 田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「やりたかったことは、ほぼすべてできたと思います。このサーキットのコースレイアウトで、午前中が少し寒くて午後は暖かいというコンディションで見ることができる我々のパワーユニットの振る舞いは、ほぼ掴むことができました」

 これからホンダは開幕戦のオーストラリアGPまでにデータを見直し、さらにセッティングの最適化を進めていく。それと同時にハードウェア面も、実走で確認できたカウルとの接触や擦れなどに対応すべく、小さなモディファイを抜かりなくやるという。

 そして当然、その視野にはタイトルへの挑戦が見えている。

「去年はレッドブルとともに優勝を経験し、トロロッソとも表彰台を獲得できましたので、今年はその上を行けるように目指したい。昨年は年間使用基数を上回ってペナルティを取ってしまいましたけど、今年はペナルティなく1年間戦えるように準備してきましたので、それをきっちりと運営していきたいと思います。

 パワーユニットの持てるパフォーマンスを最大限に発揮しながら、きちんとしたオペレーションをしていくのが今年の目標です。そして、その走った結果を開発側に上げて、年間を通してパフォーマンスを押し上げていきたいと思います」

 レッドブル・ホンダとして、今、自分たちの手にあるマシンとパワーユニットのすべてを引き出すことができた。その結果は、王者メルセデスAMGに勝るとも劣らないものだ。

 タイトル獲得という悲願をかけた勝負の年のスタートに向けて、やれるだけのことはやれた。この6日間の開幕前テストの結果に、レッドブルもホンダもフェルスタッペンも大きな手応えを掴んで、開幕の地メルボルンへと向かう。