サッカーの醍醐味のひとつとも言える「番狂わせ」が減少して久しいチャンピオンズリーグ(CL)だが、今シーズンのラウンド16では下馬評を覆す試合が続いている。優勝候補の一角ユベントスがアウェーに乗り込んだリヨンとの一戦も、例外ではなかった。決…

 サッカーの醍醐味のひとつとも言える「番狂わせ」が減少して久しいチャンピオンズリーグ(CL)だが、今シーズンのラウンド16では下馬評を覆す試合が続いている。優勝候補の一角ユベントスがアウェーに乗り込んだリヨンとの一戦も、例外ではなかった。



決定的チャンスを逃して悔しがるクリスティアーノ・ロナウド

 選手個々のクオリティ、選手層、経験値、監督の手腕、クラブの財政規模……。それらどれをとってもユベントスがリヨンを上回っているのは、誰もが認めるところだ。とりわけ、CLに勝つための重要なファクターであるビッグネーム、つまりクリスティアーノ・ロナウドの存在がユベントス有利を決定づける要素になっていることは間違いないだろう。

 しかも、35歳になったロナウドは今シーズンも衰え知らずの活躍ぶりで、現在国内リーグ戦ではセリエAタイ記録となる11試合連続ゴールを更新中。今季のCLではまだ2ゴールではあるが、ここ数年はシーズン後半戦からコンディションがトップギアに入る傾向があるだけに、当然ながらこのリヨン戦でも最大のキーマンとして注目された。

 ところが、そのロナウドはチーム唯一の枠内シュート1本を含むチーム最多5本のシュートを放つなど上々のパフォーマンスを見せたものの、結果はそれに伴わず。終わってみれば、0−1のスコアでユベントスが第1戦を落とすこととなった。

 試合後、マウリツィオ・サッリ監督が自らの選手たちのパフォーマンスを酷評したように、この試合のユベントスは決勝トーナメントの試合とは思えないようなインテンシティの低さで、随所にスローかつ緩慢なプレーが目立っていた。勝利を義務づけられたユベントスにとって、それが最大の敗因だったと言っても過言ではない。

 しかしその一方で、格上相手に金星を挙げたリヨンの戦いぶりを称賛せずにはいられない試合でもあった。戦術のオーガナイズも選手のチョイスも、ほぼパーフェクト。今シーズン途中から指揮を執るルディ・ガルシア監督にとっては、自身のキャリアでも五指に入る会心の勝利だったに違いない。

 最大のポイントとなったのは、この試合でガルシア監督が採用した可変式の3−4−1−2(3−5−2)だった。直近の国内リーグ戦(対メス戦)で初めてテストしたその布陣は、ある意味、ガルシア監督にとってイチかバチかの賭けでもあった。

 これまでガルシア監督が愛用してきた布陣は、2010−2011シーズンに国内二冠(リーグアン優勝、フランスカップ優勝)を達成したエデン・アザール(現レアル・マドリード)擁するリール時代に採用していた4−3−3だ。当時最強と評されていたバルセロナをモデルに作り上げたその攻撃サッカーは”プティ・バルサ(小さなバルサ)”と呼ばれ、ガルシア監督のステイタスを一気に高めるきっかけとなった布陣である。

 以降、2013年から率いたローマでも、2016年から指揮を執ったマルセイユでも、基本的には4−3−3をベースに攻撃的スタイルを標榜し続けてきた。それは、前任者シウヴィーニョの解任を受けて昨年10月に就任したリヨンでも同じ。時に4−2−3−1や4−4−2を使うことはあるが、基本的には自身愛用の布陣でチームの立て直しに成功している。

 しかし、エースのメンフィス・デパイを筆頭に戦線離脱者が増えたことも影響して、年明けからは成績が下降。とくに2月に入ってからは国内リーグ戦で4戦勝利なしという状態が続いていたことで、メディアから指揮官に対する逆風が吹き始めていたなか、ユベントスとの大一番を迎えようとしていた。

 崖っぷちに立たされたガルシア監督は、直前のメス戦で冬に加入したばかりのMFブルーノ・ギマランイス(U−23ブラジル代表)を中盤に抜擢し、3バック(5バック)をテスト。2−0で勝利を収めてある程度の感触を得たことにより、大一番でその新布陣の採用に踏み切ったのだった。

 秀逸だったのは、トップ下に入ったフセム・アワールの役割だった。

 リヨンのエースナンバー8番を背負う21歳の天才は、状況に応じて2トップ下と左ウイングの位置を動き回り、それによって全体の布陣は3−4−1−2から3−4−2−1に可変。ユベントスの右インサイドハーフのロドリゴ・ベンタンクールとアンカーポジションのミラレム・ピャニッチの不出来も手伝って、自由に動き回って相手を混乱に陥れた。かつてリヨンで8番を背負っていた先輩ピャニッチも、後輩のプレーぶりに圧倒されたに違いない。

 さらなる驚きは、まだ加入して2試合目のブルーノ・ギマランイスのプレークオリティと戦術理解能力の高さだった。

 中盤センターでコンビを組むリュカ・トゥザールが前に出て攻守両面にわたって活躍できたのも、その背後を管理するブルーノ・ギマランイスに対する信頼があったからこそ。アワールが左サイドをえぐってから生まれたトゥザールの決勝ゴール(前半31分)は、そういう点でも必然から生まれたゴールだった。

 守備面では、3バックと両ウイングバックがつるべ式の動きでスムーズに左右にスライドし、とくに3バックの右に入ったジェイソン・デナイヤーと、故障から復帰したばかりのレオ・デュボワによる抜群の受け渡しで、クリスティアーノ・ロナウドを封じ込めることに成功。守備時には全体がコンパクトな3−4−2−1に可変したことで、押し込まれた終盤になっても相手にスペースを与えることはなかった。

 いずれにしても、こうして伸るか反るかの大博打に成功したリヨンは、数字上はベスト8に向かって一歩前進した格好だ。

 とはいえ、3月17日にユベントスのホームで行なわれる第2戦を展望した場合、先勝したリヨンが必ずしも有利とは言えないのが実際のところだろう。ホームで圧倒的な強さを誇るユベントスがこのまま眠り続けて敗退するとは考えにくく、逆にリヨンはチャレンジャー精神を保ちにくい状況で格上に挑まなければならないからだ。

 思い出されるのは、昨シーズンのCLラウンド16。アトレティコ・マドリードと対戦したユベントスが、アウェーでの第1戦を0−2で落としたあとのホームでの第2戦で、クリスティアーノ・ロナウドがハットトリックを記録して3−2で逆転勝利を収めた戦いである。

 果たして、千両役者は再びユベントスを逆転勝利に導くのか。そして、大番狂わせを狙うリヨンのガルシア監督は、次にどんな一手を打つのか。約3週間後の第2ラウンドは、見逃せない一戦となる。