ラグビー日本代表が誇る快足ランナー、松島幸太朗——。 現在はサントリーサンゴリアスの一員としてトップリーグでプレーしているが、「自分のスタンダードを下げず、厳しい環境に身を置きたい」と、今夏からのフランス挑戦を決めた。松島幸太朗がいよいよ…

 ラグビー日本代表が誇る快足ランナー、松島幸太朗——。

 現在はサントリーサンゴリアスの一員としてトップリーグでプレーしているが、「自分のスタンダードを下げず、厳しい環境に身を置きたい」と、今夏からのフランス挑戦を決めた。



松島幸太朗がいよいよフランスリーグに挑戦する

 WTB(ウィング)やFB(フルバック)のポジションを務める松島は、スーパーラグビーで3チームに在籍し、2017−18シーズンにはトップリーグMVPにも輝いた。過去2大会のワールドカップでは9試合すべてに先発し、ロシア戦では日本代表として初めてハットトリックも達成している。

 次のワールドカップに向けてモチベーションを高めるため、さらに険しい環境でプレーしたいと思うのは自然な欲求なのだろう。

 松島と並ぶ「ダブルフェラーリ」の相方WTB福岡堅樹(パナソニック)のように、セブンズ(7人制ラグビー)で東京五輪にチャレンジすることにも「興味はあった」と話す。

 ただ、「過去にほとんど(セブンズは)やったことがない」というように、現実的な選択肢ではなかった。「時期もかぶっていたし、タイミングもある」。松島は15人制ラグビーでの海外移籍を選んだ。

 今夏から2シーズン在籍することになるチームは、フランスのプロリーグ「トップ14」に所属するASMクレルモン・オーヴェルニュ(クレルモン)だ。

「サントリーのように、キックよりもパスが多いチームがいい」

 クレルモンへの移籍を決めた理由を、松島はこう語る。また、2023年ワールドカップがフランスで行なわれることを考えれば、松島がフランスでプレーすることは日本代表にとってもプラスとなるだろう。

 クレルモンは1911年、世界的なタイヤメーカー「ミシュラン」のラグビークラブとして誕生した歴史を持つ。リーグ戦での優勝は2回、欧州カップ戦でも3度の準優勝を誇る、フランスの強豪クラブのひとつだ。かつて、日本代表WTB大畑大介が挑戦したクラブとしても知られる。

 ジンバブエ人の父と日本人の母の間に生まれた松島の目は、常に海外を向いていた。桐蔭学園高で花園を制した松島は、「スーパーラグビーでプレーしたい」と大学に進学せず、南アフリカのシャークスアカデミーなどで3年間研鑽を積んだ。トップチームにこそ上がることはできなかったが、U20南アフリカ代表候補の合宿メンバーに選出されるなど、異国の地で大きな成長を遂げた。

 2013年秋に日本代表やサントリーでプレーするために帰国したが、その後もトップリーグでプレーすると同時に、ワラターズ、レベルズ、サンウルブズといったスーパーラグビーチームにも席を置き、常に自分を鍛え続けた。それが、ワールドカップの活躍にもつながったのは間違いない。

 昨秋のワールドカップを、松島はこう振り返る。

「試合をするごとにマークは厳しくなったが、スコットランド代表戦ではラインブレイクができたし、前を見て相手の弱い部分にボールキャリーができていた。また、5試合とも安定したプレーができ、ステップで前に出られることも多かったので、自信になった」

 日本代表は予選プールを全勝で1位通過したが、準々決勝で南アフリカ代表に敗れた。対峙した相手チームには、松島がシャークスアカデミー時代に対戦したFL(フランカー)シヤ・コリシ主将やWTBチェスリン・コルビがいた。南アフリカ代表はそのまま勝ち進み、決勝でイングランド代表を下して「ウェブ・エリス・カップ」を掲げた。

 決勝戦を横浜で観戦した松島は、それを目の当たりにしてこう思った。

「自分たちに勝った南アフリカ代表が優勝したことはうれしかったですが、優勝シーンを目の前で見て、次のワールドカップでいい結果を残したいという気持ちになった。日本代表と南アフリカ代表に大きな差があるとは思わなかったし、日本代表の実力も世界がわかったと思う」

 2023年ワールドカップでベスト4以上の成績を残すために、どうすればいいか。個々のレベルアップが必要なのは、松島だけでなく多くの日本代表選手が痛感している。

 ただ、2021年からサンウルブズがリーグから除外されるため、そう簡単にスーパーラグビーでプレーすることは叶わない。より高いレベルでプレーするためには、海外移籍はその選択肢のひとつ。当然、ワールドカップで活躍した日本代表選手には、海外チームからさまざまなオファーがあるという。

 ワールドカップ後に松島は、日本人選手の海外移籍についてこう言っていた。

「世界の見る目も変わってくると思うし、(日本代表には)海外で活躍できる選手もいるので、経験を積むために海外でプレーしてほしい。自分もスーパーラグビーを経験してきたので、いい話があれば、ヨーロッパのチームでできれば。レベルアップのために、厳しい環境に身を置きたい」

 海外からいくつもオファーがあったなか、松島は最も熱心に誘ってくれたクレルモンを選んだ。

「電話でGMと話したが、シンプルに『来てくれ』と。熱意が感じられた。(自分は)チームにアタックで勢いを与えられる選手という認識だったので、求められるところに行ったほうがモチベーションになる」

 サントリーの同僚で、かつてフランスの強豪トゥーロンで活躍した元オーストラリア代表CTB(センター)マット・ギタウにも、いろいろと相談したという。サントリーは来季以降も松島との契約を残していたが、「日本代表、日本ラグビーのため」と、7シーズン在籍してタイトル奪取にも貢献してきた松島の背中を後押しした。

 また、2023年ワールドカップまで日本代表の指揮官として続投が決まったジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)も、松島のクレルモン移籍を歓迎している。

「昨年のワールドカップを足がかりに海外に移籍する日本代表選手が出てくる。適切な選手が適切なタイミングで、そういった機会を得て(海外に)出て行くことは、選手のスキルを磨く。今までと違うラグビーや違うコーチングの下で経験することは、選手を成長させる」

 現在のところ、ほかの日本代表選手の海外移籍の話はまだ現実化していない。松島は「サンウルブズがなくなる分、(ほかの選手も)海外に行けばプラスになる。もし対戦相手として(フランスに移籍する選手が)増えれば楽しみが増しますし、日本代表にとってもいい」と期待している。

 松島は今季のトップリーグ終了後、6月〜7月の日本代表のテストマッチを終えてから渡仏する。

 クレルモンではどんなプレーをしたいか、聞いてみた。

「ステップワークとスピードでしっかり勝負したい。1年目からチームでどういう存在になるかが重要なので、意識高くやっていきたい。FBで出ることがあれば、ほかの選手を使う立場になるので、チームメイトの使い方を学んでいかないといけない」

 2015年ワールドカップ後、FB五郎丸歩(ヤマハ発動機)がトゥーロンに在籍するも、残念ながら活躍したとは言いがたい。ほかにも過去に日本人選手が海外でプレーしたが、フランスを含めてヨーロッパ1部リーグでは思うような結果を残せていない。

「(日本人選手の)ネガティブなイメージをなくしたい。勢いをつけたい」

 松島はそう意気込む。彼がヨーロッパで活躍すれば、ほかの日本人も続くことができるはずだ。

クレルモンでフランス王者、そしてヨーロッパ制覇、さらにはワールドラグビー世界最優秀選手賞にノミネートされるような選手へ——。松島は目標を高く掲げる。

「世界で通用する選手になって、そういった賞を狙えるようになっていきたい」

 27歳の松島の夢は、大きく膨らむばかりだ。