いま欧州サッカー界では、4-3-3という戦術システムがひとつの潮流になっている。特徴的なのは中盤が逆三角形になること。アンカーと呼ばれる選手が、インサイドハーフと言われる2人のMFの支点となる格好か。 世界最高峰のチャンピオンズリーグ(C…

 いま欧州サッカー界では、4-3-3という戦術システムがひとつの潮流になっている。特徴的なのは中盤が逆三角形になること。アンカーと呼ばれる選手が、インサイドハーフと言われる2人のMFの支点となる格好か。

 世界最高峰のチャンピオンズリーグ(CL)でも、ベスト16に進んだチームの多くが、4-3-3をオプションとして採用している。欧州王者であるリバプールを筆頭に、プレミアリーグ王者のマンチェスター・シティ、リーガ・エスパニョーラ王者のバルセロナ、ブンデスリーガ王者のバイエルンなどだ。リーガでダークホースになっているレアル・ソシエダも、このシステムを用いている。



チャンピオンズリーグでナポリと引き分けたバルセロナのリオネル・メッシ

 自分たちがボールを保持し、高いラインを保って、攻め手を多く持ち、ディフェンスを崩す。ボールを失っても、高い位置で奪い返し、攻め続ける。高い水準で運用することができれば、魅力的な戦いを生み出すことができる。

 今シーズンはJリーグでも採用するチームが出てきた。川崎フロンターレ、FC東京、さらにサガン鳥栖。実に野心的な戦いに取り組んでいる。4-3-3は模範となるべきシステムなのか。

 4-3-3は運用が極めて難しいシステムと言える。相当に技術・戦術レベルの高い選手と、連係の精度が求められる。

 2月25日、ナポリ。CLラウンド16で、バルセロナは守りを固めたナポリを相手に、ボールを握って優位に戦っている。しかし前半30分、自陣でジュニオール・フィルポがボールを失い、裏を取られてカウンターを浴び、あえなく先制を許す。ボールをつなぐという意思がミスに転じた。

 一方、下部組織から一貫してこの戦いをしているバルサは、攻撃力も見せつける。後半12分、セルヒオ・ブスケッツがリオネル・メッシとパス交換でリズムを作り、くさびの戻しをダイレクトで右サイドへ。ボールの出し入れで防御線を突破し、折り返しをアントワーヌ・グリーズマンが決めた。

 4-3-3で戦う短所と長所が出たゲームと言える。

 ボールをつなぐことは攻撃に直結する一方、難しい行為だけにスキが生まれる。そこを手ぐすねを引いて待つ守備に狙われる。ハイラインでボールを失った瞬間、丸裸にされてしまうだけに、”ボールを失わない”技量が必要なのだ。

「ボールを持っている限り、失点しない」

 そう言って弱気を叱咤したのが、バルサの始祖とも言えるヨハン・クライフだった。攻撃は最大の防御なり。常に攻め続ける気概が、プレーモデルの土台にある。

 ただし必然的に、それを可能にする傑出した人材が欠かせない。

 前線の選手は、相手をノックアウトできる得点力が必須になる。特に両サイドのアタッカーは”逆足”で中に入って点が取れるか、あるいはファーで待ち受け、打ち抜けるか。たとえばリバプールは昨シーズン、モハメド・サラー、サディオ・マネがどちらも22得点を挙げた。バルサのメッシはシーズントータルで、50得点以上を記録している。システム上、1トップに近くなるため、サイドアタッカーの重要性が増すのだ。

 インサイドハーフの存在も、重要度が高い。バルサはシャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタという稀代のボールプレーヤー2人が退団すると、パスサッカーが急速に衰退した。一時、MSN(メッシ、ルイス・スアレス、ネイマール)が評判となったが、実状は3トップ任せのカウンターだった。キケ・セティエン監督になって、フレンキー・デ・ヨング、アルトゥール、イヴァン・ラキティッチがその役割を託され、改善が見られる。

 そして、4-3-3の戦術システムにおける最大のポイントはアンカーにある。

 優れたアンカーは、攻撃スピードを司る。シンプルに適切にボールをつなげることで、味方は時間的猶予を得て、優位にプレーできる。相手にインターセプトを狙われるなか、”絶対にボールを失わない”という信頼を与え、前線の選手が動き出せる。それだけに、もしボールを失えば、背後を取られ、失点することを意味する。その要求を満たせる選手は、ブスケッツ、ロドリ(マンチェスター・シティ)など数えるほどだ。

 たとえば、レアル・マドリードも4-3-3をオプションに使うが、バルサやシティとはタイプが異なる。それは、アンカーのカゼミーロの主な役割が、ディフェンスラインの前の”番人”になることだからだ。チームをソリッドにし、カウンターを有効にするための起用なのだ。

 つまり、ボールプレーに重点を置いた4-3-3で成功を収めたチームは、世界でも少数しかない。人材をそろえるのが、至難の業なのだ。

「私の理想とするサッカーをできる選手がいなかったからだよ」

 クライフはバルサの監督を解任されたあと、他クラブからのオファーを断った理由を、そう簡潔に説明している。

 ただ、もし実現することができたなら--。攻撃サッカーの宴が開かれるはずだ。