2020年は勝負の年——。 レッドブル・ホンダにとって、間もなく開幕する2020年シーズンは勝負の年になる。勝負とはもちろん、タイトル獲得を賭けた勝負だ。テスト前半の3日間はトラブルなく走り込んだレッドブル・ホ…
2020年は勝負の年——。
レッドブル・ホンダにとって、間もなく開幕する2020年シーズンは勝負の年になる。勝負とはもちろん、タイトル獲得を賭けた勝負だ。
テスト前半の3日間はトラブルなく走り込んだレッドブル・ホンダ
レッドブルはホンダとのタッグ2年目となる今季、アグレッシブなマシンを完成させてきた。ホンダも昨年以上にパワーと信頼性を向上させたパワーユニットを用意し、レッドブルと一体となってマシンパッケージを作りあげてきた。
2月19日〜21日に行なわれたバルセロナ合同テスト前半の3日間では、計471周2192kmを走り込んだ。
「RB16の初期フィードバックは、とてもポジティブだ。このオフの間に改善したかった空力的な部分も、しっかりと改善できていた。RB15でもう少し改善したかった全体的なスタビリティ(安定性)も、昨年メルセデスAMGが非常に優れていた低速域のパフォーマンスも、ともに前進している」
ドライバーたちはいつものようにメディアに対して当たり障りのないコメントに徹していたが、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表はRB16の仕上がりに満足している様子だった。
ベストタイムで言えば、メルセデスAMGが1分15秒732を記録したのに対し、レッドブルはマックス・フェルスタッペンの1分17秒516が自己ベストで9番手。
しかし、メルセデスAMGはC5という最も柔らかいタイヤを履いて記録したもので、レッドブルはC2。そのタイヤ差を差し引けば、両者の差は0.384秒ほどになる。
もちろん、両者ともテスト後半にマシンの速さを引き出すため、テスト前半は基礎学習のデータ収集に徹しており、タイムを狙った走行は行なっていない。このラップタイムは3〜4周のランで記録されたものだが、燃料は多量に搭載しており、実力は明かさないようにしている。
しかし、メルセデスAMGが2日目、レッドブルが3日目に行なったレースシミュレーションを比較すると、両者の間には0.2〜0.3秒ほどのタイム差があった。メルセデスAMGに対して、わずかに遅れを取っているという現状に違いはないようだ。
スリムなノーズやコンパクトに絞り込んだサイドポッドなど、レッドブルは極めてアグレッシブにマシンを作り上げてきた。だが、メルセデスAMGはパワーユニットの作動温度領域を上げてラジエターとサイドポッドをさらにコンパクトにしたり、「DAS」と呼ばれる画期的なシステムを投入することで、マシンコンセプトはそのままに大幅な性能向上を果たしてきているようだ。
それでも、レッドブルはテスト前半の3日間、主にC2という硬いタイヤで走り続け、タイヤのグリップレベルが変化しないなかで、徹底的にマシンデータを収集し続けた。テスト前半はデータ収集に徹し、そのデータを解析することで、マシンのパフォーマンスを引き出す最適なセットアップの基盤を作りあげるわけだ。
そのため、テストは極めて順調で、これまでのレッドブルに時折見られたようなトラブルや想定外の挙動に苦しむといったことも起きていない。チーム内は非常に明るい雰囲気だという。
「かなり走り込んで、レースシミュレーションも1回やった。新車について多くを学ぶことができたし、実際、そのフィーリングはとてもよかったよ。たくさんの周回数をこなすことができた。初回テストの現段階で最も重要なのは、そこだからね。
このマシンへの理解を深めていっている段階だよ。クルマのフィーリングはいいし、信頼性もいい。現時点ではそれが一番重要だ。今の段階では、ラップタイムは何の意味もない。来週もテストは続くし、来週はさらに他の局面にも目を向けてテストを続けていくつもりだよ」(フェルスタッペン)
テスト後半の3日間には、空力面のアップデートが持ち込まれる。
「来週のテストに開幕戦仕様のパッケージを持ち込む予定だ。開幕戦に向けてマシンをアップデートするし、その後もレースごとに継続的に新パーツを投入していくつもりだ」(ホーナー代表)
メルセデスAMGは昨年、テスト2週目に大幅なアップデートを施し、マシンを大きく改良して世間を驚かせたが、今年はその予定はないという。
フロントウイング新規定が導入された昨年は、テスト前半でその学習を行なったうえでマシンを改良した。しかし今季はレギュレーションが変わっておらず、昨年1年間のデータに基づいてマシンを開発しているため、テスト1週目から完成版を仕上げてより長い時間をそのデータ収集に充てる計画だ。
レッドブルとメルセデスAMGのこのアプローチの違いが最終的にどう出るのか、興味深いところだ。
ホンダのパワーユニットRA620Hも、レッドブルだけでなく、アルファタウリに搭載された個体も含めてノートラブルで順調に距離を重ね、3日間で計855周3980kmを走破している。
2日目には、HRD Sakuraのテストベンチで起きた問題が発生していないか確認するため、半日だけパワーユニットを下ろす必要に迫られた。だが、その間は即座にスペアパワーユニットに交換し走らせることでロスタイムを短縮し、テストプログラムへの影響は最小限に抑えられた。
ホンダはテスト後半の3日間も同じパワーユニットで走行を継続し、1基で可能な限り走り込んで耐久性の確認を行なう予定だ。
ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。
「2020年最初のテストでパワーユニットを下ろすような場面もありましたけど、基本的なところの問題は一切なく、チームとのプログラムも順調にこなせました。距離的にもけっこう伸びましたし、十分にいろんなデータが得られました。これから解析しなければならないことや、次のテストに向けてやることはまだまだあるんですが、そのネタも仕入れられたので、実りあるテストだったと思っています」
すでに、レース週末のフリー走行、予選、決勝と、あらゆる場面で使うことが想定されるモードの確認も完了した。インターバル4日間の間にそのデータをさらに煮詰めて、開幕へ向けた最終確認を行なうことになる。
レッドブル・ホンダとしては、予選シミュレーションのフルアタックを行なわなかった。だが、パワーユニットの信頼性を確保したうえで出せるフルパワーの限界値がどこにあるのか、その確認作業は進めたという。
「フルフルパワーでどこまで行けるのか、という最高値の一歩手前の崖っぷちを探りながら、パフォーマンスと信頼性のバランスを見ながら、そういう(予選用の)モードの確認はしています。そこで、それが最適値なのか、もう少しいけるのか、もうちょっと下げなきゃいけないのか……というのを、もう一度データを見ながら来週また確認します」
開発責任者である浅木泰昭HRD Sakuraセンター長も、開発とテストは順調だと話す。
「予定通りの性能が出ています。ライバル(がどこまで伸びるか)はよくわからないですが、今年は1年を通して(どのサーキットでも)本当の意味で同等か、できれば同等以上の戦いができるようにしたいと思っています。
去年は『かなり近いところまで来てはいるけど、まだ追い越していない』という印象でしたから、まずは追いつき、シャシーが五分五分なら勝率が五分五分になるようなパワーユニットにすることが目標です」
昨年は本来の開幕仕様と想定していたスペックが間に合わず、暫定的な仕様で開幕を迎え、本来のスペックは第4戦・アゼルバイジャンGPまで待たなければならなかった。
しかし、今年はコンセプトの策定から最終確認までのプロセスがさらに前倒しされたので、昨年のような時間切れにはならないと、浅木責任者は言う。
「マクラーレンと一緒にやっていた頃はそういったことがギリギリの間際になっていたのを、(2018年型の開発から)1年ごと段々前にできるようにやってきたんです。去年ももう1カ月あったら、スペック2が開幕当初から使えてスペック1になっていました。だから少しずつ確認時期を早めていっていますし、今年は去年よりも1カ月くらい早く確認しているので、去年のようなことはないつもりです」
テスト前半の3日間は、まだどのチームも爪を隠している。テスト後半でマシンパッケージとセットアップを仕上げ、本格的なレースシミュレーションを行なったところで、本当の実力が見えてくる。それまでは、タイムシートの順位に一喜一憂することはない。
いずれにしても、レッドブル・ホンダがテスト前半を順調に走り切り、2020年の「勝負」に向けて好発進を切ったことは間違いなさそうだ。