ヴィッセル神戸インタビュー特集(2)FW古橋亨梧 ヴィッセル神戸のFW古橋亨梧にとって、昨シーズンは大きな飛躍の年になった。 初めて1シーズンを通して戦ったJ1では、チームで2番目となる31試合に出場し、FWダビド・ビジャに次ぐ、10得点を…

ヴィッセル神戸インタビュー特集(2)
FW古橋亨梧

 ヴィッセル神戸のFW古橋亨梧にとって、昨シーズンは大きな飛躍の年になった。

 初めて1シーズンを通して戦ったJ1では、チームで2番目となる31試合に出場し、FWダビド・ビジャに次ぐ、10得点をマーク。しかも、11月には日本代表に初選出される。サッカー人生で初めてつけた日の丸だった。



今季J1開幕戦でもゴールを決めた古橋亨梧

 そんな古橋のことを、チームを率いるトルステン・フィンク監督は、「小柄な体に秘めた強いメンタリティは、どんな時も諦めることを知らない。並外れた度胸の持ち主」だと賞賛する。シーズン中、肩を痛めても、膝を痛めても、彼から返ってくるのは、いつも同じ答えだった、と。

「大丈夫、いけます」

 元日の天皇杯決勝も然りだ。

 実は、準決勝で左膝の靭帯を痛める大ケガを負い、全治1カ月と診断されたにもかかわらず、彼は約10日後の決勝に、強行で先発出場。初タイトルの瞬間をピッチで迎えている。

 のちに理由を尋ねると、サラリと言ってのけた。

「どうしても(試合に)出たかった。出て、チームの力になりたかった。ただ、それだけです」

 そして、こうも続けた。

「去年、初めて1年を通してヴィッセルの一員として戦って、本当にいろんな経験をさせてもらい、すごく楽しかった。すばらしい選手に囲まれてサッカーができる毎日が楽しくて、練習するのが楽しくて、試合の日が来るのが楽しみでした。勝てない時期や2度の監督交代もありましたけど、それをみんなで乗り越えられたのは、自信になった。

 その自信を、本当の意味で自分のものにするために、あの決勝はピッチで戦いたいと思いました。情けないことに、プレーはイマイチでしたけど(苦笑)。その分は、今シーズンの戦いでしっかり晴らしていきたい。その覚悟をしっかりと持つことができた元日でした」

 昨シーズンの戦いにおいて、何よりも刺激になったのは、FWダビド・ビジャの存在だ。昨年限りでユニフォームを脱いだサッカー界のレジェンドは、古橋に多くの刺激を与え、成長を促した。

「世界的にも名の知れたダビドのプレーを間近で見るチャンスをもらえたことで、自分に置き換えていろんなことを考えました。ゴール前でのアイデア、動き出し、少しの隙さえ見逃さずに結果につなげる嗅覚。彼のプレーから盗んだことは数え切れないほどたくさんあります。

 今年も、それを意識しながらプレーすれば、自ずと点は取れると思うので、とにかくゴールに向かって走り、ゴールに向かってドリブルして、ゴールに向かって仕掛け続けたい。

 この神戸に来て、すばらしい選手に囲まれて毎日練習をすることで、自分としては、技術的にも成長できたと思っているし、メンタル的にも伸びた気もする。ただ、僕が決めていたら勝てていた試合、引き分けに持ち込めた試合は、去年も何試合もあったので、今年はそういうところで確実に決められる選手にならなくちゃいけないと思っています」

 目標に描くのは、J1での”ふた桁ゴール・ふた桁アシスト”だ。昨年の活躍を考えれば、今シーズンは当然、一段とマークが厳しくなるはずで、決して簡単な数字ではない。

 それでも、本人はあえて強い言葉で、自身にプレッシャーをかける。プロへの道を切り拓いた、あの時のように。

「大学4年生の時、監督の計らいもあって、湘南ベルマーレや松本山雅FC、モンテディオ山形、水戸ホーリーホックなどの練習に参加したんですが、なかなか決まらなくて……。そのプレッシャーもあって、練習参加のたびに、ホテルに戻って吐いていたんです(苦笑)。

 そんな状態だから(プロ入りは)もう諦めようかなって思って、親にも伝えたら『やめたいなら、やめればいいよ』とあっさり。でもそのあとに、ぼそっと『ま、今までやってきた努力は無駄になるからね』と言われて、自分に後悔しないように、最後までやれることは全部やって、答えを出そうと思い直しました。結果、Jクラブへの練習参加を続けていたら、最後の最後でFC岐阜からオファーいただくことができました」

 苦しみ、もがいて、やっとのことで乗り越えた先にあった”新しい世界”。その楽しさを知っているから、今年も目の前に立ちはだかる壁には、真っ向から勝負を挑む。

「目の前にできた壁は、壊すか、越えないと次には進めない。人はその繰り返しの中で、成長していけるんだと思っています。この先、壁はどんどん高く、大きくなっていくかもしれないけど、ぶつかって、壊して、乗り越えていける自分でいたいと思っています。

 もちろん、僕にはゴールやアシストだけではなく、チームを助ける前線からの守備も求められています。そのことを考えれば、簡単な目標ではないと思うけど、リーグ戦では”ふた桁(ゴール)・ふた桁(アシスト)”を目指しながら、初めてのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)でも、チームがアジアナンバーワンになるための、ゴールやアシストをできるだけたくさん決められる自分でいたいと思っています」

 その思いを体現するように、今年最初の公式戦、富士ゼロックススーパーカップでは、前からのプレッシングで相手守備陣のミスを誘って、今季初ゴールを奪った古橋。続く、ACLの初戦、ジョホール・ダルル・タクジム戦でも相手に同点ゴールを許した直後、強烈なミドルシュートで追加点を奪った。

 ゼロックスでは2トップを組み、システムを変えて臨んだACLでも、ともに前線を預かった新加入選手、FWドウグラスと奏でる攻撃のハーモニーは、相手に脅威を与える大きな武器になりそうだ。

「ドウグラスはシュートもうまいし、前を向いた時の迫力もすごくある。ポストプレーや周りを使うプレーもうまいですしね。何より僕にはない”高さ”という武器も持っているので、本当に万能だなと。彼のいいところを生かしながら、また、僕を含めた周りの選手のいいところも知ってもらって、お互いがいい”効果”になっていけばいいなと思っています」

 その背中には、今年から新たにつけた『11番』が刻まれている。FC岐阜に入って、プロ1年目に初めてつけた背番号だ。自ら志願し、胸にある覚悟を表明した。

「岐阜に加入した1年目に『11番』をつけてから、自分にとって『11番』は特別な番号になった。岐阜での時間があったから、ヴィッセルにも加入することができたし、今もこうしてプロサッカー選手としてサッカーができている。そのことへの感謝を忘れず、かつヴィッセルでもすばらしい選手がつけてきた『11番』を背負うことで、この番号に値する選手になって、その人たちを超える活躍を見せたいと思っています」

 目の前に立ちはだかる新たな壁を飛び越えた時、さらにパワーアップした古橋亨梧に会えるに違いない。