“走る芸術品”とは、かつていすゞ『117クーペ』の広告にあったコピー。単にクルマとして格好がいい……を超えて、息をのむようなアートを感じさせたクーペたちを今回は思い出してみた。◆プジョー406クーペプジョーとイタリアン・カロッツェリアのピニ…

“走る芸術品”とは、かつていすゞ『117クーペ』の広告にあったコピー。単にクルマとして格好がいい……を超えて、息をのむようなアートを感じさせたクーペたちを今回は思い出してみた。

◆プジョー406クーペ

プジョーとイタリアン・カロッツェリアのピニンファリーナの関係は、1955年の最初のセダン『403』以降、長く続いた。『406クーペ』は1996年のパリオートサロンで登場しやモデルで、当時のセダンとはまったく別物の流麗なスタイリングが特徴だった。

ピニンファリーナはスタイリングのみならず組み立て、塗装等も受け持ち、当初は70台/日の生産体制を敷いていたという。リヤウインドゥよりもCピラーを寝かせ、その後部をフィン状にした処理は特徴のひとつ。工業製品的だった後継モデルの『407クーペ』よりも、しなやかでキレイなデザインだった。

◆プジョーRCZ

もう1台、プジョーの個性的なスポーツクーペの『RCZ』も挙げておこう。日本での発表は2010年だったから比較的“最近”のモデルだが、『406クーペ』がエレガント路線だったのに対し、見るからにアヴァンギャルドなスタイリングが印象的だった。

“アルミナム・アーチ”と呼ぶ、前から後ろまで繋がるピラー(アルミ製だった)や“ダブルバブルルーフ”始め、ディテールは凝ったもの。後席は完全な+2レイアウトで、ATTのほかMTも設定し、1.6リットルターボの気骨のある走りを披露した。

◆オペル カリブラ

折しも2021年に日本市場への再々参入が明らかになったオペル。過去に欧州では乗るコトができても日本では叶わなかったモデルも数多かったが、『カリブラ』はヤナセ時代に奇跡的に導入された1台。

最大の見せ場はもちろんスタイリングで、量産車としては当時世界最小のCd値0.26(ターボは0.29)を達成した、いわば文字通り空気の流れが作った流麗なスタイリングが特徴。当時の資料によればこの空力開発には、エアバスA320も試験を行なった風洞が使われたという。ノッチ付きのハッチバックをもつ。

◆アルファロメオGTV

1996年1月、セダン中心だったラインアップに2シーターの『スパイダー』とともに登場。ボディを上下に分断するかのように後方へ一気に跳ね上がるキャラクターラインは強烈そのもの。

小さな丸4灯のヘッドランプ(内側のユニットは一体)の“穴”が開けられたエンジンフートは、ポリエステル樹脂とガラス繊維を主原料とした複合素材製。エンジンは当初はV6の2リットルターボを搭載し、後に同じV6の3リットルNAに切り替えられた。

◆クーペフィアット

日本導入は1995年。当時はマルチパーパスカーの『ムルティプラ』など攻めたデザインのフィアット車が見られたが、このクルマもそんな1台。

カタログにある“新・形状記憶クーペ”のコピーは意味不明な気がしなくもなかったが、丸みを帯びたボディに前後フェンダーアーチ上のナイフで切り裂いたようなウエッジ上のキャラクターライン、深海魚の目を思わすヘッドランプなどユニークの極地といった感じ。ボディ色をインパネ、ドアトリムに引き込んだインテリアもまさにイタリア車らしかった。

◆BMW 635CSi

E24型『6シリーズクーペ』は、当時の『5シリーズ』をベースに仕立てられた、当時のBMWのフラッグシップモデルだった。手元には当時の日本総代理店だったバルコムトレイディング時代のパンフレットもあるが、この時のモデルは最初の直6の3.2リットルを載せた“633CSiA”。

写真のカタログはBMW Japan発足後のもので、モデルはエンジン排気量を3340ccに上げた“635CSi”。細いピラーが特徴のクラシカルさとモダンさが共存する美しさ、優雅さは魅力に溢れていた。

◆日産シルビア

1965年の初代から数えて『シルビア』としては通算4世代目にあたるのが、1988年登場のこのS13シルビアだった。ART FORCE SILVIAのコピーとプロコル・ハルムの「青い影」を使ったCMは、まさしくこのクルマの美しいスタイルを引き立てていた。

写真のカタログはマイナーチェンジで2リットル(SR20DE、SR20DET)エンジン搭載車の時のもので、ウイング状のリヤスポイラーがついている。ライバルのホンダ『プレリュード』を負かした当時の人気デートカー。

◆日産スカイラインクーペ

2001年にフルモデルチェンジしたV35型・11代目『スカイライン』のクーペ版として2003年に登場。セダンとはホイールベースは共通ながらまったく異なるデザインが与えられた。

金属の塊をスリークに削り出したようなスタイリングは後継のV36型よりもキレイで、今見ても魅力的だ。北米市場ではインフィニティ『G35クーペ』として人気があった。

◆いすゞピアッツァ

日本車勢の存在感を高めるために(?)、G・ジウジアーロデザインの回に続き再登板させた。今回はヤナセ版の『ピアッツァ・ネロ』のほぼ最終モデルのカタログ。

ドアミラー化はもちろん、角4灯のヘッドランプはSAE規格のものより小さくなり、大型リヤスポイラーや、フラップが廃止されたボンネットには右側にバルジ風の盛り上がりが入っている。返す返すも未だにまったく色褪せて見えないアート作品のようなクルマである。