「去年よりは相手にボールを持たせず、ゴールに向かう回数が確実に増えました。その質を上げていきたいですね」 サガン鳥栖の金明輝監督はやや硬い表情ながら、自らを信じるような口調で言った。 2月16日、鳥栖。ルヴァン杯開幕戦で、鳥栖は北海道コ…
「去年よりは相手にボールを持たせず、ゴールに向かう回数が確実に増えました。その質を上げていきたいですね」
サガン鳥栖の金明輝監督はやや硬い表情ながら、自らを信じるような口調で言った。
2月16日、鳥栖。ルヴァン杯開幕戦で、鳥栖は北海道コンサドーレ札幌と本拠地で刃を交えている。彼らは堂々とイニシアチブをとった。4-3-3でアンカーを置く攻撃的布陣。高い位置でボールを持ち、ゴール前まで幾度となく侵入した。敵将ミハイロ・ペトロヴィッチがその攻撃を称賛したように、疾風を感じさせるコンビネーションを使い、攻撃を繰り返した。
しかし、結果は0-3という大敗だった。
「チャンスを多く作れたのは収穫。ただ、経験値の差は出たと思います。ホームで0-3での負けは屈辱でしかない」
金監督はそう言って口の端を曲げた。
昨季までと戦い方を一変させようとしているサガン鳥栖の金明輝監督
2020年Jリーグ、変わりつつある鳥栖は”革命”を遂げられるのか。
過去10年、鳥栖は戦いの伝統を作ってきた。しぶとく勤勉な守りで相手の攻撃を最小限に抑え、必ず生まれる勝機を探す。タフで得点力のあるストライカー、豊田陽平の高さ、強さをたのみに戦術を動かしてきた。
時代は転換期にあるのだろう。
金監督はそのスピリットは土台にしながらも、プレーモデルを一変させている。一昨シーズン、昨シーズンと暫定監督を務めたが、その当時とはまったく違う。ボールを自分たちが持って、相手のラインを越え、高い位置で攻め続ける。そのために、小屋松知哉、宮大樹、エドゥアルド、森下龍矢、内田裕斗らを次々に獲得した。
「(大卒でプロデビュー戦を飾って)サポーターの力が凄かったです。これまでは仲間の声に励まされてきましたが、やっぱりプロの世界の声援はすごい力を持っているんだなって」
明治大学から入団した森下は札幌戦後に語っていたが、実に初々しい。
そして新生・鳥栖の象徴と言えるのが、鳥栖ユースから昇格した18歳のMF本田風智だろう。ユース時代から4-3-3のインサイドハーフでプレー。ボールの動き方や入り方など、システムの仕組みを心得ている。インサイドでプレーメイクしながら、セカンドストライカーのようにゴール前へ飛び込む。ルヴァン杯の札幌戦でも、一番輝きを放った選手だ。
しかしながら、鳥栖は一度もネットを揺らせていない。
「4-3-3にするというのは、キャンプの初日で伝わってきました。ガンバ(大阪)戦とかはそれで勝った。(本田)風智とかはやりやすそうですね。ユースで(金)明輝さんとやってきたようだし、若くて動けているので」
鳥栖在籍11年目になるFW豊田はそう言って、チームの変化を冷静に見つめている。札幌線はベンチ入りしたが、出場はなかった。
「去年の(ルイス・)カレーラス(監督)の時(の4-3-3)よりは、うまくいっていますね。ルヴァンでも、取れそうなところまでは何度もいっていましたし……。自分としては、どう点を取るかにフォーカスしています。正直、キャンプはふくらはぎのケガで出遅れたし、1トップでの動きはまだつかめていないですが。自分は点を取るポイントは知っているつもりだし、『取れそう』を取ってきて、そこは長けているはずなので、どういう形(システム)になっても、ゴールのところ(の決定力)は出せるように準備したいです」
エリア内は本陣である。そこを相手に落とされたら敗北だけに、死に物狂いの戦場となる。機敏にゴールを撃ち抜く異能が求められる。たとえば後半、鳥栖は左サイドを鮮やかに破って、ファーポストで待つ安庸佑へ絶好のボールを通した。フリーの安はエリア内でこのパスを大事に左足に置き、利き足でシュートを打ったが、ブロックを浴びている。続けざまに金崎夢生が放ったシュートも止められた。
多くの点を取ることに機軸を置いた選手選考とシステムである。ボールを回し、崩し、飛び込む。その作業の質は高くなりつつあるし、機動力と細かい技術は武器だ。
しかし、ゴールを奪えないと、必然的に劣勢に立たされる。高く強いFWにボールを収められ、攻勢を受け、セットプレーから失点する。あるいは、攻め続けても決めきれず、拠点を潰され、カウンターを浴び、浮き足立って失点を食らう。そしてなんでもない長いパスを受けたストライカーへの対応に手間取り、反転からの一撃を防げない。
少しでも受けに回ると、構造上の欠陥が出るのだ。
「相手陣地でボールを奪い、やろうとしている新しいスタイルを出すことができた。完成度? いろいろなチームからたくさんの選手がやってきて、まだ100%ではないよ」
ブラジル人センターバック、エドゥアルドはそう言う。革命にリスクはつきものだ。
2月22日、Jリーグ開幕戦。鳥栖は一昨シーズン王者の川崎フロンターレと、敵地でぶつかる。