2月16日、平塚。ルヴァン杯開幕戦で、湘南ベルマーレは大分トリニータを迎えている。ジリジリとした攻防のなか、シュート数(3対11)、コーナーキック数(0対7)の差に象徴されるように、劣勢に回った。しかし粘り強く戦い、後半アディショナルタイ…

 2月16日、平塚。ルヴァン杯開幕戦で、湘南ベルマーレは大分トリニータを迎えている。ジリジリとした攻防のなか、シュート数(3対11)、コーナーキック数(0対7)の差に象徴されるように、劣勢に回った。しかし粘り強く戦い、後半アディショナルタイムにPKを得る。これを途中出場した梅崎司が確実に蹴り込み、1-0と勝利。Jリーグ開幕に向け、幸先のいい一戦になった。



ルヴァン杯大分トリニータ戦で決勝ゴールを決めた梅崎司(湘南ベルマーレ)

 昨シーズン、湘南はとことん苦しんでいる。

 昨年8月、長く湘南を率いてきた曺貴裁監督がパワハラ問題で謹慎(その後、監督は交代)になったあとは、たった1勝しかできていない。徳島ヴォルティスとのプレーオフ決勝も、引き分けて残留を決めたものの、前半はとくに劣勢に立たされていた。J1クラブのアドバンテージによって、どうにか土俵際で踏みとどまった形だ。

 はたして、湘南は力を取り戻せるのか。

「(湘南の)前から行くスタイルは、変わらないと思います」

 そう語るのは、湘南で3年目になるFW梅崎司(32歳)である。

 梅崎は10シーズンにわたってプレーした浦和レッズを、2017年、アジアチャンピオンズリーグ優勝を置き土産に退団。湘南移籍1年目で、ベルマーレ平塚以来の3大タイトル獲得となるルヴァン杯優勝に貢献している。プレーオフステージや準々決勝などで、貴重な得点を記録した。

「(プレシーズンのスペイン合宿から)今までのベースがあって、ボールを保持する時間を増やす、というのをテーマにしてやってきました。その点、かなり緻密に攻守の連動のところをチェックしています。ここまでやるのかというくらい細かく。相手にやらせない、という部分の関係性も、たとえばDFラインと前(MF、FW)も分かれて、丁寧に作っています」

 キャンプから手応えはあると、梅崎は言う。

「プレシーズンを戦った感覚は、ボールが回っている感じだし、悪くないです。真剣勝負にならないと、わからない部分はありますけどね。フォーメーションは、今までの1トップ(3-4-2-1)から2トップ(3-5-2)になりそうです。個人的には、ポジションにこだわりなく、と思っていますが、2トップのところで期待されている感じはあります。初めてのポジションですが、その意味でも新鮮です」

 7年以上にわたって曺監督が作り上げたサッカーは、2018年11月のルヴァンカップ優勝でひとつの結実を迎えている。梅崎のような経験値の高い選手を触媒に、若い選手たちが目覚ましい成長を遂げた。決勝で得点を決めた杉岡大暉(現鹿島アントラーズ)を筆頭に、山根視来(現川崎フロンターレ)、齊藤未月などが、多くの選手が注目されるようになった。

 しかし昨シーズン後半は、監督交代でチームが一気に減速した。2年目の梅崎も、その流れを好転させることはできなかった。

「今シーズンは、新鮮な気持ちで挑むことはできています。そもそも、16人が新しい選手ですしね(苦笑)。ポジション争いも含め、どうなるかわからないです」

 梅崎は実感を込めて言う。

「去年は、チームは生き物なんだなというのを実感しました。だから、自分にフォーカスしながら、チームをいい方向にできるかということを、まずは考えたいです。苦しい局面でどう行動するのか。プレーの落ち着き、勇気を取り戻せるか。挑戦者としてのスピリットを忘れちゃいけない。それがあったから、ルヴァンもとれたと思うので。ネガティブな状況だと、なにがよかったのかを忘れがちだけど、挑戦者であり続けたい」

 湘南は時間をかけ、ひとつの形を作った。しかし、それに固執することはできない。賽は投げられた。若手も外国人も、そしてベテランも、戦力を結集することができるか。

「(鈴木)冬一はボールを取られないですね。落ち着きがあるというか、すごく自信を持っています。タリクもスピードがあるし、ずっとノルウェー代表で活躍していて(60試合出場10得点)、よく来てくれたな、と思うほどいい選手。これからコンビネーションが上がってくれば、面白いと思います」

 梅崎はチームメイトたちについて話すと、明るい表情になる。

「自分としては、チームにリズムを生み出せるようなプレーがしたいですね。スイッチを入れられるというか、ここぞ、の場面で決められる選手に。(パスが来るように)もっと要求もしていこうと思います」

 そう志を語っていた梅崎は、まずはルヴァン杯で勝利を決するPKを決めた。修羅場をくぐり抜けてきた男の腹は据わっている。全員がその境地で戦いに挑めるか--。

 2月21日、金曜日。湘南は浦和を本拠地に迎え撃つ。この一戦で、2020年J1リーグの火蓋が切られる。