2007年から2009年に鹿島アントラーズが成し遂げて以来、2クラブ目となるJ1での3連覇を狙った昨季の順位は4位。優勝どころか、4シーズンぶりにトップ3入りも逃した川崎フロンターレは今季、2016年以来となる”AFCチャンピオンズリーグ…
2007年から2009年に鹿島アントラーズが成し遂げて以来、2クラブ目となるJ1での3連覇を狙った昨季の順位は4位。優勝どころか、4シーズンぶりにトップ3入りも逃した川崎フロンターレは今季、2016年以来となる”AFCチャンピオンズリーグのないシーズン”を戦う。
ある種のステイタスをともなうACLに出場できないことで、少なからず喪失感をともなうシーズンにはなるだろうが、その一方で、ACLの負担がないことは、国内タイトルだけに集中できる大きなチャンス。覇権奪回、さらには、将来的にJリーグ屈指の強豪クラブとしての地位を確立していくためには、非常に重要なシーズンを迎えているとも言える。
そんな川崎が、今季最初の公式戦となるルヴァンカップのグループリーグ初戦で、清水エスパルスを5-1と下した。
立ち上がりから試合の主導権を握って相手を押し込んだ川崎は、前半10分に左サイドの崩しからFWレアンドロ・ダミアンが、23分には右サイドの崩しからFW長谷川竜也が、立て続けにゴールを決め、瞬く間に2点のリードを奪った。
2-0で迎えた後半は、先に反撃のゴールを許すも、その後に3点を加えて大勝。相手に主導権を握られる時間帯もあったが、失地回復を目指すシーズンで、まずは幸先のいいスタートを切ることに成功した。
鬼木達監督が語る。
「選手がキャンプからやってきたことを前面に押し出してやってくれたことが、よい結果につながった。当然、修正点もいっぱいあるが、今持っている力をしっかりと出したいいゲームだった」
今季の川崎は、昨季までの4-2-3-1から4-3-3へと主戦システムを変更。ボランチを2枚から1枚に減らし、その分、より相手ゴールに近い位置に人数を増やしたフォーメーションを採用している。
鬼木監督は昨季との違いについて、「ゴール前に(より多くの)人が入っていける」と語り、「まだ試行錯誤の段階」とは言いつつ、「ゴールへの意識は強くなっている。そこは、このまま続けていきたい」と、現状を評価する。
実際、この清水戦でも、ただボール保持率が高いだけでなく、縦へのパスの入りもよく、テンポよくボールが前方向へ進んでいた。また、両サイドの高い位置でFWが起点を作り、そこへサイドバックとインサイドMFが絡む連係も良好。攻撃における幅と厚みの両方を生み出すという点において、新システムはうまく機能していた。
キャプテンのDF谷口彰悟は、「まだ(得点を)取れるチャンスがあった。2-0になってからとどめを刺していれば、(先に失点し、主導権を握られる時間があった)後半も違ったと思う」と反省を口にしながらも、「(5得点と)きちんと点を取れたのはよかった」と手ごたえを口にする。
もちろん、この試合に関して言えば、相手の清水が、とくに守備面でのプレー強度がかなり低かったことを考慮しなければなるまい。
清水は、昨季までのカウンター重視からポゼッション重視へとサッカーを大きく転換している最中であり、選手それぞれのポジショニングはまだまだ手探り状態。お世辞にもバランスがいいとは言えず、川崎は簡単に”間”へ縦パスを通すことができた。加えて、パスが通ったあとの寄せにしてもかなり緩く、そうした要素は、少しばかり差し引いて評価する必要があるだろう。
とはいえ、川崎が、攻撃と表裏一体の守備も含め、非常にバランスよく戦えていたのは確かである。
攻撃から守備への切り替えも速く、高い位置でボールを奪い返すシーンは多く、ボランチを務めたMF田中碧が、「狙いは高い位置でボールを奪うこと。自分を含めて前の6人で、どうやってボールを奪うかが大事」と話していたが、それはかなり実践されていた。
川崎の新システムは、前線のタレントが豊富であるというチーム事情から考えても理にかなったものであり、現状では、システム変更がいい方向へ進んでいると見ていいだろう。
そして、もう一点。新システムとともに、今季の川崎を占ううえで注目したいのが、チーム力の底上げ。もう少し具体的に言えば、若手の台頭である。
J1連覇で一時代を築いた感のある川崎だが、その主力は、今年40歳の大台を迎えるMF中村憲剛をはじめ、同じく34歳のMF家長昭博、33歳のFW小林悠と、ベテランが少なくない。まだ若手の印象があるMF大島僚太にしても、今年1月で27歳になった。
いかに巻き返しを狙うシーズンとはいえ、今季だけ成績が改善したのでは意味がない。長期的な強化を考えるうえでは、いつまでも彼らに頼ってばかりもいられないというのは、チーム作りを考えるうえで当然あるべき発想だ。
宮代大聖をはじめ、若手の台頭が期待できる今季の川崎フロンターレ
そんななか、期待とともに注目したいのが、今年5月に20歳になるFW宮代大聖(レノファ山口→)である。
今季の川崎には、ともにU-23日本代表に名を連ねるMF三笘薫(筑波大→)、FW旗手怜央(順天堂大→)といった大卒ルーキーも加わっている。即戦力という意味では、本来、彼らのほうが宮代よりも期待値は上かもしれない。にもかかわらず、宮代に注目するのは、なぜか。
それは、宮代がストライカーであるからだ。
中村、家長のほか、長谷川、MF脇坂泰斗、MF齋藤学ら、川崎に前線のタレントが多いことはすでに記したとおりだが、三笘や旗手も含め、彼らのほとんどがチャンスメイカータイプ。昨季まで貴重なジョーカー役を担ったFW知念慶が大分トリニータへ移籍した今季、本当の意味での点取り屋、すなわちストライカータイプと言えるのは、レアンドロ・ダミアンと小林くらいだ。
しかし、宮代は生粋のストライカー。しかも、この20歳のFWは年代別日本代表として、すでにU-17、U-20とふたつのワールドカップに出場し、いずれの大会でもゴールを記録している。そんな大舞台での勝負強さも”買い”の理由である。
川崎のアカデミー(育成組織)からトップチームに昇格した宮代は昨季、ベンチには入るものの、なかなか出場機会を得られないまま、夏にレノファ山口へ期限付き移籍。J2で19試合出場2得点の実戦経験を重ね、今季、古巣へと復帰した。そんな地元育ちの点取り屋が、ベテラン中心のポジション争いに割って入るようなら、数のうえだけでなく、質のうえでもチーム力は底上げされる。
この試合で、川崎での公式戦デビューを果たした宮代は、試合開始直後のビッグチャンスに、大島からのクロスをゴール前で合わせ損なったのをはじめ、ゴールを決めることはできなかった。しかしながら、その後も臆することなく、自ら仕掛けてゴールへ向かうなど、積極的な姿勢は頼もしく、もちろん、点を取れれば言うことなしだったが、そのプレーぶりは今後を期待させるものだった。
宮代は「ゴールという形でチームの勝利に貢献できなかった」と悔しがりながらも、強い口調でこう語る。
「積極性やゴール前での迫力は自分のよさ。そこを出していきたい。山口から半年で戻ることになったが、覚悟を持って帰ってきた。もっともっと継続して試合に出続けないと。日々の練習から勝負したいし、そうでないと上には行けない」
新システムと若手の台頭。覇権奪回を狙う川崎にとっては、今季初戦で手にした上々の成果である。