貫いた『闘志』 『闘志』を燃やし、『学生日本一』に愚直に突き進んだ――。2019年度BIG BEARSの主将・池田直人(法4=東京・早大学院)が後輩たちに思いを託し、引退する。1年次にスタメン入りを果たしてから、フィールドに立ち続けて4年。…

貫いた『闘志』

 『闘志』を燃やし、『学生日本一』に愚直に突き進んだ――。2019年度BIG BEARSの主将・池田直人(法4=東京・早大学院)が後輩たちに思いを託し、引退する。1年次にスタメン入りを果たしてから、フィールドに立ち続けて4年。主将という立場から150名を超える部員やスタッフを一つにまとめ上げ、甲子園ボウルまで全員を導いた池田の信念は、目標に届かずとも最後まで輝きを失うことはなかった。エンジのユニフォームを身にまとい、BIG BEARSのトップとして全力で駆け抜けた1年間を振り返る。

 常にディフェンス陣の中心としてチームを支えてきた池田は、温厚でありながら胸に熱い思いを秘めた男だ。メンバーにそろって「口下手」と評され愛される一方で、部員全員に気を配り、声を掛ける冷静さ、そして1試合、1プレーに全力で臨むストイックさを兼ね備えている。「お互いがお互いのことを考えていかないといいチームができない」。春に理想のチーム像を聞かれこう答えた池田。プレーから部活外の細かなことまでの意識徹底を図り、プレーだけではない『強さ』をチームに求めた。すべては悲願の『学生日本一』のため。今までとは違うトップという立場からチームをとらえなおし、一つにまとめ上げるという使命を背負い、池田は主将としてのスタートを切ったのだった。


甲子園ボウルで奮闘する池田

  優勝大本命とされていたBIG BEARS。しかし、その下馬評とは裏腹に、春シーズンでは快進撃を続けることはできなかった。新体制で臨んだ4月の早慶アメリカンフットボール対校戦において37-13と相手を大きく突き放し、白星を飾ったが、続く早関定期戦で自分たちの地盤の弱さを目の当たりにすることとなる。「やるべきことをやる、というところが足りていなかった」という高岡勝監督(平4人卒=静岡聖光学院)からの指摘の通り、チームの甘さ、そして課題が浮き彫りになってしまったのだ。関東大学秋季リーグ(リーグ戦)を視野に入れベースの強化を図るが、ディフェンスやキックの精度が思うように上がらず、チーム力を中々向上させることはできなかった。またプレー面以外での『緩み』も課題に上がった。モラルの徹底がプレーにも響く、というスタンスをとってはいたものの、それを体現したチームと声を大にしては言えなかった。昨年出場していない選手や下級生たちの成長という収穫を得たものの、やはりチーム力の弱さは依然として残り続けた。

 

 春に残った自分たちの課題を踏まえて迎えた夏合宿。池田は『気持ち』の部分に重点を置いた。「全体としてどうやって日本一に向かっていくか」。合宿では、毎日4年生とミーティングを行った。日本一に向けていかに取り組むのか。まとまっているようで、バラバラだった全員の意識を一つにしようと、池田は4年生同士で厳しく話し合った。池田は部員それぞれの思いを統一することによって、一つ一つのプレーに集中させ、精度を高めようとしたのだ。一人一人がどれだけ『闘志』を出せるか――。『日々成長する』という言葉をスローガンに掲げ、迎えたリーグ戦。例年苦戦を強いられる傾向にあった初戦で、課題を残しながらも白星を飾ると、早大は次々と勝利を収めていった。そして、リーグ戦優勝を懸けて臨んだ法大戦。両者一歩も譲らない拮抗した試合となったが、後半で『闘志』を燃やした早大に軍配があがった。2年連続、6度目の関東リーグ優勝を決めたBIG BEARS。それでも池田は「自分たちの目標は日本一」と気を緩めることはなかった。そして次戦の明大戦でもしっかりと勝ちきり、2年連続の全勝優勝を決めると、東日本代表校決定戦へと駒を進めた。迎えた東北大戦ではアジャストに時間をとられ思うようにモメンタムをつかめなかったが、後半は池田を中心としたディフェンスの修正もあり、相手を無失点に抑え見事勝利をつかみ取った。ついに『学生日本一』への挑戦の切符を手に入れたのだ。

 池田は関学大に4度敗れている。高校時代にも2度、目の前で関学大が日本一に輝く姿を見ているのだ。「自分たちが85年の歴史を変える」。東北大を下したあとのインタビューでそう応えた池田の胸には、『闘志』がたしかにあった。1年次も3年次も関学大に大きく点差をつけられ敗北してきた。「今回こそは」。春からチーム一丸となってただ一つの『学生日本一』にむけてひたむきに駆け抜けた日々。集大成の舞台、甲子園ボウルに向けて、池田の情熱は頂点に達していた。12月15日、阪神甲子園球場。多くの応援客が集まるなか、因縁の相手、関学大との試合の火蓋が切られた。関学大の攻撃を受けるも、攻守共に波に乗り、攻めの姿勢を貫く。第3クオーターまで、攻撃を抑えられる場面もあったが、早大最強ホットライン、QB柴崎哲平副将(政経4=東京・早大学院)とWRブレナン翼(国教4=米国・ユニバーシティラボラトリースクール)のプレー、K/P髙坂將太(創理3=東京・国立)のキックなどにより逆転を成功させた。因縁の間に雪辱を果たせるか。しかし、学生日本一の光が見え気を緩めた早大に一気に王者・関学大の攻撃が叩き込まれた。粘りを見せたBIG BEARSだったが、隙のない関学大のプレーに力負けし、またしても敗北を味わうこととなった。「自分としてもチームとしてもやり切った」。試合後、池田はそう語った。悲願であった、日本一をつかみ取ることができないまま、彼の大学アメリカンフットボールは幕を閉じたのだ。「1年生から4年生まで本当に全員で日本一になりたいと思い、きょうこの悔しさを忘れずにどれだけやれるか」が大事だと語った。果たされなかった池田の情熱は後輩に受け継がれ、再び甲子園ボウルに舞い戻り、勝利を収めるまでBIG BEARSは挑戦し続ける。

(記事 栗林真子、写真 鈴木隆太郎)