2020年シーズン、中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)はMotoGP3年目のシーズンを迎える。 昨年は、第8戦・オランダGPで転倒に巻き込まれた際に右肩を負傷。第16戦・日本GP後に手術を行なって、終盤3レースを欠場した…

 2020年シーズン、中上貴晶(LCR Honda IDEMITSU)はMotoGP3年目のシーズンを迎える。

 昨年は、第8戦・オランダGPで転倒に巻き込まれた際に右肩を負傷。第16戦・日本GP後に手術を行なって、終盤3レースを欠場した。早めに治療とリハビリを開始することで、できるかぎり万全に近い形で翌シーズンへの準備を進めよう、ということがその理由だった。



セパンでのテストを終えた現在の心境を聞いた

 年が明けた1月には、排気量の小さなバイクやモトクロスなどのトレーニングも開始。2月7日から3日間のスケジュールで行なわれたマレーシア・セパンのプレシーズンテストで、約4カ月ぶりにMotoGPマシンへ跨がった。

 3日間のテストを終えた結果は、トップタイムから1.511秒差の23番手。直面したのは、事前に期待したほどにはまだ肩の回復が進んでいない、という厳しい現実だった。

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「10月末に手術をしたので、日数的には3カ月以上ぶりにMotoGPバイクに乗ったんですが、正直なところ、万全な状態にはまだほど遠いです。実際に乗ってみて感じたのは、筋力不足もそうなんですが、可動域が十分ではなく、痛みも出てきているので、全然思いどおりに走れていないです」

―― 内視鏡手術だったので、触る部位を極力小さくした、ということだと思っていたのですが……。

「そうですね。肩の脱臼グセの補強が手術の主な目的だったのですが、それ以外にもドクターから言われたのは、肩の中の軟骨が散らばるような状態になっていて、それが原因で痛みが生じていたのだ、ということでした。剥離した部分が広かったようで、脱臼グセの補強に加えて軟骨の手術をしたので、回復までには時間がかかるとは言われました」

―― どういうところに影響が出ますか? やはりブレーキング?

「乗ってみると、ブレーキングはそうでもありませんでした。そこはひと安心だったんですが、実は大丈夫なのはそこだけで、肩が縮まると痛みが出て動きも悪く、ひっかかるような感じになってしまいます。ある状態になるとズキンと(痛みが)くるので、ハングオン(コーナリングでバイクの内側に身体を大きく落とす動作)していった時の収まりが悪い感じはありますね。自然な動きをできていない、というか」

―― 右肩の手術だから、コーナーとしては肩が入っていく右のほうがきついのですか? あるいは左に旋回して右肩を張るときのほうがが厳しいのでしょうか?

「左コーナーも厳しいんですが、スピードがどんどん上がるとバイクは重くなっていくので、左から右へ切り返す時の力が弱いし、その時にどうしても痛みが来てしまうので、まだまだですね。ブレーキングでも、直立状態のホールドはうまくできても、そこから先の倒し込みで、たとえば右でハンドルを切る動作の時にももちろん力がいるので、タイムラグがあって一発で決まらないんですよ」

―― 思っていたよりも厳しい状態ですね。

「そうですね。この2月のセパンテストで万全な状態に戻ることを目指して早めの手術を決断したんですが、ここまで痛みが響いているのと、動きの悪さもちょっと残っているので、それが予想外です。ここまで苦戦するとは、正直思っていなかったですね」

―― 事前に予想していた回復度と比べると、現状の治り具合はどれくらいですか。

「50~60パーセントに届かない程度、ですね。1月に小排気量のバイクやモトクロスに乗った時は『あ、けっこう大丈夫かな』と思ったんですが、実際にMotoGPのレーシングスピードや深いバンク角の操作ではなかったので、ちょっと誤算でした。痛みもあるし動きも悪いので、パフォーマンスの低さはちょっとビックリです」

―― 体調が万全ではない状態でも、今年使用するマシンのパーツ評価などはある程度進みましたか?

「今のようにパフォーマンスが低い状態だと、妥当な評価をできる水準の走りに自分がまだ達していないのですが、最低限の大きなモノについてはある程度、進めることができました。細かい部分は、もっと高いレベルで走れるようになるだろう次のテストで見極めを進めていく予定です」

―― 今年の中上選手は、昨年にマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)選手がチャンピオンを獲得した2019年型の仕様で走ることになります。バイクの印象はどうですか。

「ブレーキングのスタビリティに関しては、2018年型よりもいい印象がありますね」

―― 2018年型のRC213Vと2019年型ではフレームが違うようですが、それがフロント周りのフィーリングに影響を与えている、というふうにも聞きます。

「そこはたしかに違いますね。ただ難しいのは、フィーリングが違うからといって、それはけっしてネガティブ、というわけではないんですよ。昨年1年間かけて18年型を乗ってきて、今19年型に乗ってみると、明らかにフィーリングが違うと感じますね。とくにフロント周り。

 じゃあ、その〈違うフィーリング〉はネガティブなことなのかというと、ぼくはけっしてそうは思いません。もちろん、まだ十分に乗り込めていないし、見極めきれてもいないんですけれども」

―― 2019年型は、マルク・マルケス選手が19戦中12勝を挙げた実績のあるマシンです。

「彼の才能を最大限に引き出したバイク、ということでもあると思いますが、結果を見るかぎりでは、400ポイント以上獲得した実績が残っています。そこはポジティブに考えたいですね。マルクの才能とバイクの性能が相乗効果で高い結果を出した、ということなのだと理解していますが、そこもけっして自分にとってマイナスに考えることはないですね」

―― パワーは18年型よりもかなりありますか?

「そうですね。乗っていてもそれは感じます。回転数も上がっていて、そのぶんパワーが出ていることは音や加速の感覚でも掴み取れます。トップエンドになった時でも頭打ち感がないので、速いと思います」

―― 今年はMotoGP3年目です。年々、周囲の期待と自分の目標は高くなっていくと思うのですが、自分ではどのようなターゲット設定をしていますか?

「2年目の昨年は、常にトップテン以内、という目標がありました。オランダでケガをするまでは着実にクリアしていたし、悪い時でもぎりぎりシングルポジションでレースをできていました。3年目はマシンのパフォーマンスも上がっていて、目標は必然的にもう一段階上げてトップシックスに行く必要があると思うので、そこを狙っていきたいと考えています」

―― 表彰台もはやく経験したいですね。

「そのためには常に安定してトップシックス圏内にいないと、チャンスも転がってきません。去年はトップテンぎりぎりくらいのところにいて、チャンスがある時は、たとえばムジェロ(第6戦・イタリアGP)で5位、という結果も獲得できました。

 でも、3番手には全然届かなかったし、表彰台はさらにもう何ステップも上の場所にあることを強く実感しました。チャンスが巡ってきそうな時にその場所にいることが重要なので、今年は安定して6位前後の位置にはいたいですね」

―― 肩の状態は、いつ頃までに100パーセントへ戻せそうですか。

「開幕戦の決勝が3月8日なので、3月に入ったらいっさい痛みがない状態で走れるようにしたいですね」

―― ということは、今回のテストを終えて、リハビリのプログラムも変えていくのですか。

「テスト期間中も、リハビリを担当してくださっている人がセパンの結果を見てくれていたので、日々、話をしていました。日本に帰ったらより深く話をして、リハビリやケアの仕方をちょっと変えていくことになると思います」

―― 今回のテスト結果は、3日間のスケジュールを終えてトップタイムから1.5秒差の総合23番手、という結果でした。自分ではどう捉えていますか。

「3日目の最後は、終了直前にニュータイヤを入れてタイムアタックをするつもりだったんですが、雨が降ってきたために見送りました。でも、やっていたとしても、トップテンには入れなかっただろうし、せいぜい1秒差程度だったのではないかと思います。

 そこは今回は気にせず、次のカタールテストで肩の状態をよくして、開幕戦で普通の状態に戻せることに、これから集中したいと思います。開幕戦で100まで戻すには次のカタールテストで80くらいには持っていかないといけないので、この2週間でしっかりと準備を進めます」