2020年最初のプレシーズンテストは、時代が大きく動き始めていることを予感させるような内容だった。 マレーシアのセパン・サーキットで、2月7日から9日までの3日間を通してトップタイムを記録したのは、ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・…

 2020年最初のプレシーズンテストは、時代が大きく動き始めていることを予感させるような内容だった。

 マレーシアのセパン・サーキットで、2月7日から9日までの3日間を通してトップタイムを記録したのは、ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)。



今季最初のテストでトップタイムを記録したクアルタラロ

 昨年はルーキーシーズンながら6戦でポールポジションを獲得し、優勝こそまだ経験していないものの、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)と互角のトップ争いを繰り広げた選手だけに、今季はチャンピオン争いの一角を占めることが確実視されている。そのずば抜けた可能性を、年初のテストから存分に発揮した格好だ。

 3日間でのベストタイムは1分58秒349。セパン・サーキットの公式ファステストラップ記録は、クアルタラロ自身が昨年11月の第18戦・マレーシアGP予選でマークした1分58秒303で、この数字と比較しても、クアルタラロは年初のテストからかなりよい仕上がりを見せていることがうかがえる。3日目の走行では、暑さが最も苛酷な状態になる午後の時間帯に、レースを想定したロングランも実施した。

「路面温度が58度のなかで、非常にいいペースを刻めたし、すべての周回で去年のレースよりも速いペースで走れた」と、一発タイム、レースシミュレーションともに上々の手応えで、セパンテストを締めくくった。

 レースを想定したアベレージタイムに関して、多くの選手が今回のテストで言及していたのは、アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)とマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)の2名だ。

「リンスは速いし、ビニャーレスもレースペースがいい。このふたりが速いライダーの双璧だろうね」(マルケス)

「今回のテストからわかるのは、マーベリックがレースシミュレーションでとても力強かったということ。リンスも気持ちよく走っていた」(アンドレア・ドヴィツィオーゾ/ドゥカティ・チーム)

 去年のチャンピオンとランキング2位の選手が揃って同じような指摘をしているのは、非常に示唆的だ。

 リンスは昨年、第3戦・アメリカズGPでバレンティーノ・ロッシ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)を抑えて初優勝を飾り、その後、第12戦・イギリスGPではマルケスを相手に最終ラップの最終コーナーで劇的な逆転優勝を遂げた。今回のテストでは、クアルタラロから0.101秒差の総合3番手タイムで締めくくった。

「この3日間では、いろんなことを試した。車体を2、3種類やったし、サスペンションやタイヤ、電子制御等々……。すごくポジティブな手応えだったので、温度条件とコースが変わる次のカタールテストで見極めを進めていきたい」

 ビニャーレスはテスト最終日にタイムアタックを実施しなかったため、3日目のタイムシートでは18番目に沈んでいるが、誰よりも多い83周を走りこみ、決勝レースと同じ20周を走行したシミュレーションでは、安定して1分59秒中盤のタイムを刻んだ。

「午前中に皆がリアにソフトタイヤを入れてアタックし始めた時、自分も『行こうよ!』と言ったんだけど、『まあ落ち着け。今回はバイクを仕上げに来たんだから』とチームに言われたんだ」

 一日の走行を終えた時には、そう言って笑う余裕も見せた。

「フィーリングをよくしていくことに専念し、重要なのは、まだベストの状態ではないけれども、いい方向に進んでいるというところ。レースタイヤとレースセットアップはかなり水準が高いので、次のカタールテストではさらに詰めていく」

 一方、ディフェンディングチャンピオンのマルケスは、昨年11月末に右肩の手術を実施後、250時間のリハビリを行なって今回のテストに臨んだ。しかし、まだ期待していたほどには調子が戻っていない、と正直な状況を明かした。

「この3日間で、体調が日に日によくなってきたのはよかったけれども、昨日も今日も昼の休憩の時はかなりくたびれていた」

 そう話す彼に、現在の回復度合いを尋ねてみた。

「何パーセントくらい、というのは難しいけれども、とくにこの筋肉(三角筋)だけについては60パーセントくらい。他の筋肉は100パーセントに近い状態だけどね。バイクに乗る際に三角筋はあまり影響しないと思っていたら、実はけっこう影響した。

 このコースはとくに体調に厳しいので、この3日間はかなりハードだった。でも、ここで苦労をしておけば、カタールのレースには十分に対応できることになる」

 今回のテストでは3日間総合で13番手だったが、積年のライバル、ドヴィツィオーゾが述べた「彼のことだから、開幕までには間に合わせてくるよ。100パーセント、疑問の余地はないね」という言葉は、おそらく全選手共通の心理だろう。

 さらに今回のテストでは、2月16日に41歳の誕生日を迎えるロッシがトップから0.192秒差の5番手タイムを記録した。来シーズンはクアルタラロがファクトリーチームへ入るため、ロッシはサテライトチームで現役を継続するか、あるいは引退するかを、前半戦での自らのパフォーマンスを見たうえで判断したいと話している。

 それだけに、開幕戦から最高の状態に仕上げてシーズンの戦いに臨むことは明らかで、その意味でもこのセパンテストで5番手タイムを記録したことは、間違いなく好材料と言えるだろう。課題は、ずっと悩まされ続けているレース後半のリアタイヤ摩耗だが、これについてもよい方向の解決策を見いだしつつあるようだ。

 チャンピン争いの常連となっている強豪選手たちに加えて、新たに成長してきた新興勢力ライダー、そして起死回生の復活を賭けて挑むベテランなどが入り乱れ、2020年のMotoGPは「新・戦国時代」とも言うべき混戦を呈しそうな状況である。