2020年シーズン10大注目ポイント@中編(4)結成2年目、レッドブル・ホンダが勝つチャンスは? 昨年、レッドブル・ホンダは3勝を挙げた。だが、実際にはあといくつかのレースを制していても、おかしくないだけの速さは持っていた。フロントウイ…

2020年シーズン10大注目ポイント@中編

(4)結成2年目、レッドブル・ホンダが勝つチャンスは?

 昨年、レッドブル・ホンダは3勝を挙げた。だが、実際にはあといくつかのレースを制していても、おかしくないだけの速さは持っていた。フロントウイング新規定への対応につまずき、開幕8戦は棒に振ってしまったが、空力問題が解決してからのレッドブルは安定したパフォーマンスを見せていたと言える。

「10大注目ポイント@前編」はこちら>>>



今年のレッドブル・ホンダは何勝をマークできるのか?

 とはいえ、昨年レッドブル・ホンダが速さを見せたのは、低速、高地、酷暑など、やや特殊なレースばかり。それではタイトルを獲ることはできない。今年はオールラウンドの速さを身に着けることが課題となる。

 2020年は同じレギュレーションでの2年目。最近のレッドブルの傾向からすれば、同規定2年目はマシン解釈も十分に進んで、トップクラスの車体を作りあげてくる可能性が高い。昨年のうちに実戦投入を果たせなかった改良型フロントウイングも、フリー走行での実走データは収集しており、これを元にしたマシン作りが進んでいる。

 昨年は、開幕前テストに間に合わせるスケジュールがややタイトだった。しかし、今年は年末年始も休みなしで開発を続け、例年より2週間も前倒しのスケジュールで順調に開発が進んでいる。ヘルムート・マルコも自信を持っており、ファクトリーから上がってくる報告に上機嫌だという。

 ホンダも、昨年後半戦に投入したスペック4はメルセデスAMGに並ぶレベルまで到達。8月以降は、その延長線上にある2020年型パワーユニットの開発に専念してきた。

 すでに昨年、ホンダジェットの航空エンジン部門や先端技術研究所などからノウハウが注ぎ込まれたように、幅広い研究開発を行なう企業であるがゆえの強みを見出し始めた。オールホンダ体制でF1パワーユニット開発にあたることで、ライバルにはないメリットを持つ。

 パワーユニット規定7年目を迎え、ライバルメーカーたちが性能向上に腐心するなか、開発責任者の浅木泰昭によれば「この燃焼コンセプトには、まだ伸びしろがある」と言う。後発のホンダには、チャンスがありそうだ。

 もちろん、3強チームの各マシンにはそれぞれ特性があり、サーキットによって得手・不得手は出てくるだろう。しかし昨年とは違い、どのグランプリでも優勝争いを繰り広げることができる速さがあれば、レッドブルのチーム力とマックス・フェルスタッペンの腕なら、いよいよ頂点への道も見えてくる。

 レッドブルは、ホンダとタッグを組んだ2019年は「移行の年」、そして2年目の2020年は「収穫の年」と位置づけており、今年は2013年以来遠ざかっているタイトル奪還を現実的な目標としている。フェルスタッペンにとっては初、そしてホンダにとっても1991年以来のタイトル獲得の可能性は十分にありそうだ。

(5)トロロッソから改名。アルファタウリ・ホンダの3年目は?

 今年から、トロロッソは名称がアルファタウリに変わった。2年間のホンダとのタッグを経て、彼らは確実に強力になってきている。

 昨年からギアボックスや前後サスペンション、油圧系などのメカニカル面を、レッドブルの前年型マシンからそのまま継承することとなった。それにより、チームは独自開発が義務づけられている空力開発に専念し、限られた予算を効率的にマシン性能につなげることに成功した。

 例年なら開発が停滞し、相対的なパフォーマンスが低下するシーズン後半戦も、2019年はアップデートが継続した。中団グループの上位を争うポジションに安定してつけることができていたのは、そのためだ。

 2019年はこうした手法を採りながら、その一方でチーム体制の強化にも力を入れていた。イギリスのビスターにある空力開発部門と風洞を強化し、2018年には何度か問題となった風洞と実走のズレ、つまり実戦投入した際に想定どおりのパフォーマンスを発揮しない問題を、しっかりと解決した。

 シーズン前半には暑いコンディションで、タイヤマネジメントに苦戦することもあった。だが、トラックサイドのオペレーションを改善することによって、レース週末におけるセットアップの方向性を確立し、シーズン後半戦には常に良好なレースペースを発揮することができるようになった。

 ホンダとの関係も良好だ。

 ほかのカスタマーチームは、完成品のパワーユニットを受け取ってマシンに組みつけるだけ。それに対し、アルファタウリはレッドブルと同様にレッドブルテクノロジー社を通じて、ホンダとマシン開発の初期段階から車体とパワーユニットの擦り合わせができる環境にある。

 レース中の運用に関しても、ホンダは他メーカーとは違い、アルファタウリに対してもレッドブルと同じ体制でエンジニアを送り込んでいる。昨年のドイツGPやブラジルGPのようなここ一番の勝負所では、HRD Sakuraと連携して極限まで攻めたモードでパワーを絞り出すなど、フレキシブルな使い方ができた。これも、アルファタウリにとっては周りのカスタマーチームにはないアドバンテージだ。

 大接戦の中団グループの中で、昨年はマクラーレンが一歩抜け出した。だが、表彰台を2度も獲得したのはトロロッソのみ。2020年はシーズン序盤のスタートダッシュで中団の勢力図も大きく変わってくるはずだが、アルファタウリは「コンストラクターズランキング5位」という目標に向けて、好スタートを切ってくれそうだ。

(6)中団グループの争いは予想外の早期決着?

 ここ数年のF1は、3強チームが予算と人員の規模で大きくリードし、マシンパフォーマンスでも他に大きな差をつけている。この傾向は2014年のパワーユニット規定導入以降に始まったものだが、とくにこの2~3年は中団グループの速さが拮抗し、0.7秒程度の間に6~7チームがひしめき合う大混戦になっている。

 昨年、マクラーレンは首脳陣の刷新によって組織を強化。マクラーレン・ホンダ時代の組織的迷走から抜け出し、純粋にパフォーマンスを追求する組織となったことで、中団グループのトップに立った。予算規模の差を客観的に見て、3強に挑むことは考えておらず、少なくもと2020年はランキング4位の座を確保すべく臨む。

 ワークスチームのルノーは予算規模で3強と大きな差があるため、いまだに中団グループに甘んじている。しかし、同じパワーユニットを使うマクラーレンにまで負けているのは、車体開発を行なうイギリス側のファクトリーと、レース運営のまずさに原因がある。

 2016年のワークス復帰から、3年計画で組織と施設を増強してきた。だが、表彰台争いの常連になるという目標は達成できず、3年計画の失敗を認めざるを得ない状況に追い込まれた。

 2020年に向けて、フェラーリやマクラーレンに在籍していたパット・フライを技術責任者に獲得した。ただ、フランス側の首脳陣はルノー本社にF1継続を承認させるべく政治的な発言を繰り返しており、組織としての統率はなかなか難しそうだ。

 その一方で、ハースやアルファタウリがトップチームとの技術提携によって、戦力を向上させている。昨年は空力開発に問題を抱えたハースも今季はそれをしっかりと修正して、再び中団トップ争いに加わってくるだろう。

 レーシングポイントはストロール家の資金で施設の増強が進み、2020年はイチから作り直したマシンで挑む。新体制のシーズンとなるため、飛躍が期待される。対して、アルファロメオやウイリアムズは今年も苦戦が予想されている。

 中団グループの各チームは3強に比べてリソースが限られているがゆえに、マシンが大きく変化する2021年に向けて、より早く舵を切りたいところでもある。開幕時点でパフォーマンスが十分でなければ、そのマシンを改良して2020年の結果を追求するより、2021年型マシンで大浮上を狙うほうが現実的だからだ。

 2020年の中団グループの争いは、もしかするとここ数年ではあり得なかったほどの”早期離脱”や”早期決着”が見られるかもしれない。

(後編)へ続く>>>