2023年ラグビーワールドカップに向けて、大学生の「若き狼たち」が好スタートを切った。 2月1日にスーパーラグビー2020が開幕し、今年で参入5年目、そしてラストイヤーとなる日本唯一のプロラグビーチーム「サンウルブズ」が福岡・レベルファイ…

 2023年ラグビーワールドカップに向けて、大学生の「若き狼たち」が好スタートを切った。

 2月1日にスーパーラグビー2020が開幕し、今年で参入5年目、そしてラストイヤーとなる日本唯一のプロラグビーチーム「サンウルブズ」が福岡・レベルファイブスタジアムでレベルズと対戦した。



サンウルブズデビューを飾った齋藤直人とシオサイア・フィフィタ

 前後半ともに先にトライを挙げるなど、サンウルブズは終始、持ち前のアタッキングラグビーを見せた。終わってみれば5トライを奪取し、36−27で勝利。開幕戦で初めて白星を挙げるとともに、対レベルズでも6戦目にして初めて勝利を奪った。

 この試合では、7人の選手がサンウルブズデビューを果たした。なかでも注目されたのは、大学生の3人。大久保直弥ヘッドコーチの「若い選手の向上心、成長したいという気持ちは、チームに活力を与えてくれる」という言葉どおり、彼らはサンウルブズに刺激を与えたと言える。

 3人のなかで唯一、先発出場を果たしたのは、トンガ出身の天理大3年WTB(ウィング)シオサイア・フィフィタ。1月25日のプレマッチで4トライを挙げてハットトリックを達成し、指揮官やほかの選手たちが「貫禄がある」「大学生ということを忘れていた」と大絶賛した存在感を、この開幕戦でも見せた。

 大学やジュニア・ジャパンでのフィフィタは、主にCTB(センター)としてプレーしている。だが、今回のサンウルブズでは、身長187cm・体重103kgのフィジカルと50メートル6.2秒の快足を買われて、WTBとして14番を背負った。

 前半早々、元南アフリカ代表SH(スクラムハーフ)ルディー・ペイジのパスを受けたフィフィタは、すばらしいランニングを見せて好機を演出。それが前半9分、CTB森谷圭介のトライにつながった。

 対戦相手のレベルズは、昨年のワールドカップに出場した選手を6人も擁している。しかし、フィフィタは彼ら各国代表選手にもまったく引けを取らないパフォーマンスを披露。初トライこそ奪えなかったが、堂々たるスーパーラグビーデビューを飾った。

 昨シーズンまでサントリーの指揮官だった沢木敬介コーチは、「(フィフィタは)日本代表になりますよ!」と太鼓判。本人も「スーパーラグビーではオールブラックスの選手と対戦したい。憧れは中学校(トンガ・カレッジ)のふたつ先輩であるWTBアタアタ(・モエアキオラ/神戸製鋼)さん。一緒に日本代表でプレーしたい!」と大きな腕を撫した。

 後半19分には、早稲田大を11シーズンぶりに大学選手権優勝に導いたキャプテンSH齋藤直人がサンウルブズデビューを果たした。

 前日、緊張している齋藤に沢木コーチは、「すでにスーパーラグビーでは(齋藤より)年下の選手が出て活躍しているぞ」とハッパをかけたという。その言葉が励みになり、「自分にもできる」と思いきりやれる要因となった。

 ペイジの突然の負傷により、ゴール前10メートルというチャンスに、齋藤はいきなりピッチに立った。そして、斎藤はワンパスでSO(スタンドオフ)ガース・エイプリルのトライを演出。「いいスクラムを組めたので、いいパスが出せました」(齋藤)。

 その後も齋藤は落ち着いたプレーでゲームコントロール。終了間際には、身長165cmの齋藤が身長196cm・体重111kgの相手FWにタックルしてノックオンを誘い、ピンチの芽も摘んだ。

「グラウンド内外で、本当に多くの学びがあります。大学生とプロ選手の意識も全然違います。(身長が)小さいとか大学生とかは関係ない。どうやってこのサイズで(相手を)止めるか、学んでいきたい」

 プレマッチの時も、齋藤は同世代の大学生選手たちではなく、外国人選手に積極的に話しかけていた。「スクラムハーフは味方の選手との信頼が大事」との言葉どおり、早くもサンウルブズのチームメイトの信頼を得たようだ。レベルズ戦のノーサイド後にはFWの選手に頭を何度もなでられるなど、すっかりチームの一員となっていた。

「相手の身体の大きさや環境に慣れてきた。出場した時間は全力でやれたかな。でも、やるからには先発で出たい。試合に勝る練習はないです。自分が成長した先に日本代表がある。サンウルブズというすばらしい機会をいただいたので、スーパーラグビーに集中したい」

 デビュー戦に及第点を与えつつも、あいかわらず自身のプレーに厳しい齋藤は先を見据えた。

 そしてもうひとり、早稲田大4年のCTB中野将伍も、わずか3分間ながら試合に出場した。ボールを持つ機会は少なかったものの、中野にとって大きな一歩となったことだろう。

「地元で応援してくれる人も多く、幸せでした。成長した姿を見せたかった。年齢とか関係なく、もっと試合に出たいです。目標は次のワールドカップに出ること。一日一日を無駄にせず、サンウルブズからチャレンジしたい」

 大久保ヘッドコーチは大学生の活躍に目を細めた。

「(大学生の選手たちは)本当に日々成長している。サイア(フィフィタ)も(齋藤)直人もちょっと舞い上がるかなと思ったんですが、自分の仕事をしてくれた。最後は(中野)将伍がいいエネルギーを送り込んでくれた。

 彼らにとって、すばらしいスタートが切れた。一生、忘れられない勝利となった。このプレッシャーのなか、失敗を繰り返して成長してくれればと思います」

 サンウルブズは今年かぎりでスーパーラグビーから除外されることが決まっている(サンウルブズが今後存続するかは未定)。ワールドカップに出場した日本代表メンバーもトップリーグを優先するため、大学生たちにチャンスが回ってきたというわけだ。その機会を見事に生かし、3人がスーパーラグビーデビューを飾った。

 フィフィタは大学4年生、齋藤と中野は社会人1年生として、4月からはそれぞれ授業や勤務が始まる。それでも基本的には、5月末までスーパーラグビーに集中する予定だ。2023年のワールドカップの主力となるだろう「若き狼たち」のさらなる成長に期待したい。