決勝でノバク・ジョコビッチ(セルビア)に挑戦する権利を懸けた準決勝は熱戦になった。第5シードの26歳、ドミニク・ティーム(オーストリア)と第7シードの22歳、アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)…

決勝でノバク・ジョコビッチ(セルビア)に挑戦する権利を懸けた準決勝は熱戦になった。第5シードの26歳、ドミニク・ティーム(オーストリア)と第7シードの22歳、アレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)。どちらも男子テニスの次の主役に位置付けられる。ティームは2018、19年の全仏で決勝に進出した(いずれもラファエル・ナダル=スペインに敗れ準優勝)が、ズベレフは四大大会では全仏で2度の8強があるだけで、初の準決勝進出だった。

ただ、ズベレフは今大会でひと皮むけた。4回戦で今季負けなしのアンドレイ・ルブレフ(ロシア)を圧倒、準々決勝では14年優勝のスタン・ワウリンカ(スイス)に逆転勝ちした。グランドスラムで力を出せないという、ありがたくない評判を覆した。

ティームはクレーコート・スペシャリストと見られていたが、19年にはインディアンウェルズと北京で優勝、シーズン最終戦の「Nitto ATPファイナルズ」で準優勝し、ハードコートでも十分できることを証明した。

試合は静かに始まった。準々決勝でナダルと4時間19分の死闘を演じたティームは序盤、ミスが早く、ズベレフが6-3で圧倒した。本当の戦いが始まったのは第2セットだった。第7ゲームでティームがブレーク。5-4からの第10ゲームではブレークポイントを2度逃れてサービスキープ、セットオールに追いついた。ティームはこのゲームを最初の分岐点に挙げている。

「彼は追い詰められたところから今大会随一のショットを打ってきた“スマッシュ・パッシングショット”だ」とティーム。ティームのスマッシュをズベレフがグラウンドスマッシュで返し、ノータッチのウィナーになった場面だ。

スタンドが湧き上がり、ズベレフがここぞとばかりに観客を煽る。こういう場面があると、えてして流れが変わる。しかし、ネット際の攻防となった次のポイントをティームが制し、ズベレフに傾きかけたムードを引き戻すのだ。ティームが振り返ったように「試合の分岐点は一度ではなかった」が、ここでブレークバックを許していたら、形勢はズベレフに傾いただろう。流れを止めたという意味で、このゲームは最も大きかった。

それにしても、1ポイントの攻防に妙味がある試合だった。両選手とも攻撃的なテニスの持ち主だが、プレーの幅が広い。丁寧に組み立てる場面もあれば、カウンターパンチの切れ味もある。もちろん守備力も高い。ズベレフはファーストサーブの確率が81%と非常に高く、入ったときのポイント獲得率も68%とまずまずだった。課題のセカンドサーブもダブルフォルトはわずか3度、ポイント獲得率50%と大きな改善が見られた。

ズベレフのストロークの配球も素晴らしかった。バックハンドのクロスではやや弾道の高いボールを増やし、相手が得意とする回り込んで打つフォアハンドを避けた。サイドライン際に長いボール、短いボールを打ち分けて相手を振り、丁寧にチャンスメークした。

フルスイングが最大の特徴のティームも、プレーのバラエティが豊かになった。時には相手に攻めさせておいて、カウンターを狙った。バックハンドのスライスで相手の攻めを防ぎ、チャンスを待つ場面も頻繁に見られた。スイングが大きく、体の使い方もダイナミックなだけに、球足の遅いクレーでは強くてもハードコートは不向きと見られていたが、今はそうではない。相手の時間を奪うだけでなく“時間を生む”ショットを交ぜることで、リスクのあるショットが減った。

ティームの過去52週のハードコートでの勝率69.2%(27勝12敗)はツアー8位に相当する。クレーコートでの勝率76.7%(23勝7敗=ツアー4位)には及ばないが、すでに苦手を克服したと言える。ティームはハードコートでのプレーについて、こう語る。

「インディアンウェルズの優勝はハードコートのマスターズ1000での初タイトルだった。ホッとしたし、自信が増した。秋にはアジアと欧州のインドアコート・シーズンで大きく前進し、正しい方向に進んでいると確信した。より攻撃的になったし、賢いサーブも打てるようになった。今は自信がある。『"Nitto ATPファイナルズ"で決勝に行けたじゃないか。ハードコートのグランドスラムでも同じことができないわけがない』と自分に言い聞かせればいいのだから」

この自信を、2日に予定される決勝でジョコビッチにぶつける。

「バランスが大事になる。リスクを負ったプレーも必要だし、行きすぎてもいけない。境界線は微妙だ」とティーム。準決勝から中2日あったジョコビッチに対し、中1日で決勝に臨むハンディは否めない。しかし、体力には元々自信がある上、このオフにはニコラス・マスー(チリ)コーチやフィジカルコーチとともに「グラディエーター・トレーニング」と名付けた厳しいトレーニングをこなした。フィジカルが万全なら、ラリーは間違いなく激しいものになる。

対戦成績が興味深い。ジョコビッチには通算4勝6敗。14年の初対戦から17年のローマまで5連敗したが、同年の全仏で初勝利を挙げてからは4勝1敗と大きく勝ち越している。4勝には四大大会の全仏での2勝と、ハードコートの「Nitto ATPファイナルズ」での1勝を含む。ジョコビッチに四大大会で3度以上勝った選手はナダルなどわずか3人だが、ティームは4人目になれるのか。

全豪ではロジャー・フェデラー(スイス)が初優勝した04年以降、フェデラー、ナダル、ジョコビッチの「BIG3」以外の優勝者は05年のマラト・サフィン(ロシア)とワウリンカの二人しかいない。また、14年のマリン・チリッチ(クロアチア)以降、四大大会での新しい優勝者は誕生していない。26歳ティームが歴史を動かすか。

(秋山英宏)

※写真は「全豪オープン」でのティーム

(Photo by James D. Morgan/Getty Images)