スペイン北西にあるガリシア地方、港町ラ・コルーニャを本拠とするデポルティーボ・ラ・コルーニャは、2000年代前半、欧州サッカー界で旋風を巻き起こしている。 名将ハビエル・イルレタ監督に率いられたデポルは、フラン、マウロ・シルバ、ロイ・…

 スペイン北西にあるガリシア地方、港町ラ・コルーニャを本拠とするデポルティーボ・ラ・コルーニャは、2000年代前半、欧州サッカー界で旋風を巻き起こしている。

 名将ハビエル・イルレタ監督に率いられたデポルは、フラン、マウロ・シルバ、ロイ・マカーイ、フアン・カルロス・バレロンらが勇躍。チャンピオンズリーグ(CL)でマンチェスター・ユナイテッド、アーセナル、バイエルン・ミュンヘン、ユベントスというビッグクラブを、次々に叩きのめした。2003-04シーズンのCL準々決勝で、当時、覇権を握っていたイタリアのミランに、アウェーでの1-4の敗戦から、ホームで4-0と逆転勝利したゲームは歴史に残る。

“スーペル・デポル”はひとつの時代を作った。



アルバセテ戦に3試合連続で先発した柴崎岳(デポルティーボ・ラ・コルーニャ)

 ところが、2000年後半から彼らは下降線の一途をたどっている。2010年代になると1部と2部を行き来する”エレベータークラブ”と揶揄される始末。負の連鎖で、借金は一時200億円超にも膨れ上がった。

 そして2部で迎えた今シーズンは、開幕から末期的な低迷を見せていた。ここまで2人の監督のクビが飛んだ。最下位まで落ち込み、2部B(実質3部)への降格も現実的になっていた。

 しかし、今年1月から3人目の監督であるフェルナンド・バスケス(65歳)がチームを率いるようになると破竹のリーグ戦4連勝。前節、アルバセテにアウェーで0-1と勝利したことで降格圏から抜け出し、17位(22チーム中)に順位を上げた。

「選手には、『順位はあまり気にするな』と伝えている。毎試合、決勝戦のように戦うだけだ」

 バスケス監督はそう言う。流転するクラブを、指揮官は復活させられるのか。

 ガリシア出身のバスケスは、サッカー選手としてのキャリアはない。監督として、ガリシア地域リーグのチームを、4部、3部と引き上げ、その指導が注目されることになった。90年代には、ガリシアの小さなクラブであるコンポステーラを率い、レアル・マドリードやバルセロナと渡り合い、前半戦を終わって2位で折り返したこともあった。その後も、オビエド、マジョルカ、ベティス、ラス・パルマスと数々のクラブで成果をあげている。

「選手の特徴や力量を見極め、それをチームに落とし込むことを得意とする」

 地元ガリシアで、その指導の特徴はそう語られるが、手腕の高さを知らない者はいない。

 2004-05シーズンには、ガリシアの雄、セルタを率いて1部に昇格させている。2005-06シーズンは、UEFAカップ(現行のヨーロッパリーグ)出場権を得る順位に引き上げた。デポルでは、2013年2月にチームを率い、一度は2部降格を救えなかったものの、2013-14シーズンの戦いで、見事に1部復帰に導いている。

 そして時を経て再び、バスケスはデポルの救世主となっているのだ。

「たとえばベテラン選手と契約するのに、(先はないと)おびえる人がいる。それは思考停止だ。期限切れかどうか、私は『違う』と言い切れる」

 バスケスは言うが、先入観を持たない”慧眼”の指揮官である。年齢や国籍は関係なく、プレーヤーとしての本質を見ることができる。現在、19歳の新鋭FWビクトール・モジェホは、すでにウィングバックとして新境地を開きつつある。

 名将バスケスは、1月のマーケットで新たに契約したMFエムレ・チョラク、FWサビン・メリーノを躊躇せずに起用。すでに2人ともゴールを決めるなど、最大限にその能力を活用している。アルバセテ戦では、セルタから獲得したばかりの俊足FWクラウディオ・ボービュを、迷うことなくピッチへ送り出した。

 開幕以来、不振を極めてきた選手たちも見違えるほどのプレーを見せている。

 バスケスは、しばらく先発から外れていた日本代表MFの柴崎岳にも、”目覚め”を与えた。

 ボランチとしての柴崎には、守備的な弱さがある。3試合連続の先発となったアルバセテ戦でも、ペナルティエリア内でハンドを犯し、相手にPKを与えている(PKはGKが阻止)。プレーは献身的だが、寄せが甘く、周りとの連係がずれることもある。

 一方、攻撃の技量は高い。キックやビジョンは1部でもトップレベル。ボールを運べるし、相手ゴール近くでは決定的な仕事もやってのける。

 指揮官は、柴崎の長所を高く評価。3-4-2-1に近い布陣を組むなか、守りの負担を減らす(アルバセテ戦では、守備強度の高いナイジェリア代表MFアグボ・ウチェと組ませていた)ことで、攻撃的特性を引き出している。プレーのリズムを与えることで、守備の改善も促しているのだ。

 バスケスは、デポルを一変させた。

「このグループを率いるのは難しくない。ただ、トレーニングさせる。そこでひとりひとりの強度を少しずつ上げ、試合に挑む。勝利が自然に確信になるのだ」

 バスケスの言葉である。

 2月1日、反転攻勢中のデポルは、9位のラス・パルマスを本拠地リアソルで迎え撃つ。