昨年行なわれたラグビーワールドカップの勢いそのままに、1月に開幕したトップリーグは日本各所で大いに盛り上がりを見せている。1月26日にはシーズン序盤の大一番、昨シーズン王者の神戸製鋼コベルコスティーラーズと同2位のサントリーサンゴリア…

 昨年行なわれたラグビーワールドカップの勢いそのままに、1月に開幕したトップリーグは日本各所で大いに盛り上がりを見せている。1月26日にはシーズン序盤の大一番、昨シーズン王者の神戸製鋼コベルコスティーラーズと同2位のサントリーサンゴリアスが激突した。

 昨シーズンのプレーオフ決勝と同カードということだけでなく、ワールドカップに出場した日本代表9人や世界的スター選手が出場することもあり、ノエビアスタジアム神戸の前売り券は完売。期待の高さがうかがえた。



神戸製鋼の中島イシレリ(左)とラファエレ ティモシー(右)

 神戸製鋼はPR(プロップ)中島イシレリ、CTB(センター)ラファエレ ティモシー、FB(フルバック)山中亮平の3人が先発。2試合連続トライを挙げている新人WTB(ウィング)アタアタ・モエアキオラは控えに名を連ねた。

 一方のサントリーは、SH(スクラフハーム)流大(ながれ・ゆたか)とFB松島幸太朗が3試合連続で先発。CTB中村亮土が今シーズン初先発、HO(フッカー)北出卓也とFL(フランカー)ツイ ヘンドリックはベンチに入り、日本代表5人全員が顔を揃えた。

 そのほかにも、神戸製鋼には「オールブラックス」ニュージーランド代表のレジェンドでワールドラグビー年間最優秀選手賞を3度受賞したSO(スタンドオフ)ダン・カーター、2014年の年間最優秀選手賞に輝いたオールブラックスのLO(ロック)ブロディ・レタリック、サントリーにはオーストラリア代表の世界最高峰CTBサム・ケレヴィが先発。スタジアムには26,312人もの大観客が集った。

 この試合、神戸製鋼にはどうしても負けられない……負けたくない理由があった。1995年1月17日、あの阪神淡路大震災から四半世紀――。今年は地元・神戸にとって、節目のシーズンだからだ。

 さかのぼること25年前、震災で緊急停止した神戸製鉄所の「第三高炉」を、神戸製鋼の男たちは命がけで守った。その復興の象徴のひとつである「第三高炉」を今シーズン、神戸製鋼は深紅のジャージーにあしらった。

 第三高炉は2017年に廃炉となったが、神戸製鋼のウェイン・スミス総監督の発案により、チーム全員で見学に訪れた。その時、高炉の煉瓦を持ち帰ったことがきっかけで、練習グラウンドも「第三高炉」と呼ばれるようになったという。そして今シーズン、会社とクラブを結ぶ絆として、その高炉が新たにジャージーに描かれたというわけだ。

 小学校1年生の時に被災した神戸市出身のSH日和佐篤は、試合前にこう語ったという。

「神戸が復興できたのは、今日、試合を見に来てくださっているみなさん、神戸の街の皆さんのおかげです。いいゲームをしよう」

 試合は序盤、サントリーにリードを許す展開となる。しかし、山中が相手キックからカウンターを仕掛けてトライを奪い、前半25分に10-10と同点に追いつく。その後は点の取り合いとなり、神戸製鋼のリードで前半を折り返した。

 ところが25-16で迎えた後半12分、逆転を狙うサントリーの圧力に屈して反則を繰り返し、PR山下裕史がシンビン(10分間の退場)となってしまう。

 25分以上も時間を残す状況のなか、まさかの数的不利――。流れはサントリーに傾くかと思われた。だが、「Feel the Fire」のスローガンを掲げる神戸製鋼の男たちの闘志は、この劣勢でさらに燃え上がった。

 サントリーの攻撃をゴールライン直前でしのぎ切ると、後半18分にはパスミスを拾ったWTBアンダーソン フレイザーが仕掛け、さらにはカーターも相手の隙を見逃さずラインブレイク。そして最後はCTBリチャード・バックマンが中央にトライを決めて、32-16と突き放した。

 その後、サントリーの猛攻を食らうが、劣勢でのトライが大きかった。結果的にこれが決勝点となり、神戸製鋼が逃げ切ってサントリーを35-29で下した。

「(震災が)街にどういう影響を与えたか、だいたいわかっている」

 故郷ニュージーランドのクライストチャーチで地震の被害にあったカーターはこう語る。

「地震の被害から今の綺麗な神戸まで復興するのに、犠牲もハードワークもあったと思います。ラグビーをしているスポーツ選手として、プレーで感謝の気持ちを伝えようとした」

 ひとり少ない14人でトライを挙げたシーンについて、世界的な司令塔は胸を張る。

「勝ち負けはそういう時に決まる。トライを獲る前のゴールライン前のディフェンスは、本当にすばらしかった。神戸製鋼のジャージーが選手にとってどういう意味を持つのか、どれだけ大事なのかがしっかり伝わったと思います」

 この試合でMOM(マン・オブ・ザ・マッチ)に選出された中島は、奥さんや子どもの名前とともに「1.17」の文字を右腕のテーピングに書いて臨んでいた。

「タフなゲームでした。80分間、戦い続けられたことがよかった。神戸の地震の25周年だったので、その気持ちで戦った」

 神戸という街、神戸製鋼という会社、そしてクラブの想いをすべて背負って戦った。震災から25年目のシーズン、神戸製鋼が開幕3連勝でトップリーグ連覇に向けて大きく弾みをつけた。