蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.76 サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現…
蹴球最前線──ワールドフットボール観戦術── vol.76
サッカーの試合実況で日本随一のキャリアを持つ倉敷保雄、サッカージャーナリスト、サッカー中継の解説者として長年フットボールシーンを取材し続ける中山淳、スペインでの取材経験を活かし、現地情報、試合分析に定評のある小澤一郎--。この企画では、経験豊富な達人3人が語り合います。今回は、2月から再開するチャンピオンズリーグ(CL)のラウンド16の注目カードの見どころを伝えます。
CLはラウンド16からレアル・マドリード対マンチェスター・シティのビッグマッチが実現した
--今回は、お三方に2月18日から再開するチャンピオンズリーグ(CL)の、ラウンド16の注目カードを展望していただきたいと思います。まずは、レアル・マドリード(スペイン)対マンチェスター・シティ(イングランド)、アトレティコ・マドリード(スペイン)対リバプール(イングランド)、そしてチェルシー(イングランド)対バイエルン(ドイツ)の3カードからお願いします。
<総合的にはマドリーが有利か!? シティはデ・ブライネで勝負>
倉敷 では、今回のラウンド16のなかで最も注目を集めそうなビッグマッチ、レアル・マドリード対マンチェスター・シティからいきましょう。間違いなく面白い試合になるでしょう。
小澤 ここにきてマドリーが調子を上げてきているだけに、かなり面白い試合になるでしょうね。とくに今季のマドリーはフェデリコ・バルベルデの台頭によって守備の強度が上がっていますので、シティのポジショナルプレーに対してどのように戦うのか今から楽しみです。
倉敷 スケジュールを見るとマドリーはシティと対戦した直後の週末にバルセロナとのクラシコがあります。2試合ともホームで戦えるとはいえ、マドリーには今季の山場と言える1週間になりそうですね。
中山 一方のバルセロナのCLの相手は、ジェンナーロ・ガットゥーゾ新監督が率いるナポリ(イタリア)であることを考えると、バルセロナは気持ち的にクラシコに重きを置いて戦えそうです。しかもナポリは国内リーグで中位に低迷していて、CLどころではないでしょう。そういう意味でも、ラ・リーガのタイトルを欲しがっているジネディーヌ・ジダン監督が、この2連戦でどのように選手を使い回して乗り切るのか、とても興味深いですね。
逆に、シティはもうリーグタイトルの可能性はほとんどないので、ペップ・グアルディオラ監督はCLに照準を絞ってくるでしょう。
倉敷 もはやリバプールとの勝ち点差は絶望的ですから、プライオリティははっきりしました。来季のCLストレートインの4位以内は心配いらないでしょうし、でもここまで独走を許したのは意外でした。
中山 今季はディフェンダー陣に故障者が続出していて、それによってチームの安定感が失われてしまった印象です。ジョン・ストーンズは今季3度も負傷して、その度に戦線を離脱。アイメリク・ラポルテも開幕早々にケガをして、シーズンの約半分を棒に振っています。ラポルテの復帰は間近と言われているので、マドリーとのCL第1戦には2人とも間に合うと思いますが、プレミアで首位リバプールに大きく後れをとったのは、彼らの不在が原因のひとつだと思います。
よく頑張っているとはいえ、本来ボランチのフェルナンジーニョをセンターバックで使い続けること自体が苦肉の策だと思いますし、左サイドバックも固定できていません。
小澤 オレクサンドル・ジンチェンコ、バンジャマン・メンディ、アンヘリーニョ…。今季もペップは左サイドバックに苦心していますね。
倉敷 こちらのスケジュールはマドリー戦の前にプレミアで2位争いをしているレスターとの直接対決があり、そのあと再びホームでアーセナル戦、オールド・トラッフォードでマンチェスター・ダービー。調子を落としている相手とはいえ侮るわけにもいかず、こちらもハードなスケジュールといえそうですね。
小澤さん、対するマドリーに死角はありそうですか?
小澤 故障中のエデン・アザールが戻ってコンディションが上がってきたらベストメンバーを組めるはずですし、それほど大きな不安材料はないと思います。年明けにサウジアラビアで開催されたスペイン・スーパーカップでは、ジネディーヌ・ジダン監督がカゼミーロ、トニ・クロース、ルカ・モドリッチ、バルベルデ、イスコという5人を中盤に起用する4-5-1のシステムを試して、うまく機能しました。万が一、アザールが間に合わない場合でも、中盤の枚数を多くして中盤の守備強度を上げる戦いをしてくると思います。
唯一死角があるとすれば、カリム・ベンゼマの控えが見つかっていないことです。今季から加入したルカ・ヨビッチは1トップで活きるタイプのストライカーではないですし、マリアーノ・ディアスもほとんど戦力になっていません。
倉敷 まもなく攻撃的なマドリーを見られる気がします。12月はクラシコなどタフな相手とのアウェーゲームが続いたこともあって、ジダンは守備面に力を注いでいたように感じました。ここは結果を残せた。次はベンゼマ依存症の攻撃が、どこまで上積みできるかどうかでしょうね。
中山 マドリーがシティに対して攻撃的に出るのか、それとも第1戦は守備を重視しながら戦うのか、そこもポイントになりそうですね。12月のクラシコでは中盤をマンツーマンにしてバルサを封じるなど、マドリーは攻撃のみならず守備面もかなりハイレベルだとあらためて感じました。シティをバルサに見立ててプランを組むことも十分に考えられます。
対するシティは攻撃的に戦わないと勝ち目はないでしょうし、おそらくペップはいつもどおりにやってくるような気がします。とくにケビン・デ・ブライネの調子がいいので、マドリーがどのような守備方法で彼を封じるのか注目です。
倉敷 デ・ブライネがトップフォームなら相手にはかなりの脅威になりますね。小澤さんは、シティのディフェンス面にはどんな印象を持っていますか?
小澤 さすがにマドリー相手にフェルナンジーニョでは厳しいでしょうね。今季のベンゼマを抑えるのはたいへんだと思います。
中山 マドリーはベンゼマ以外のCFの駒が手薄なので、中盤のカゼミーロ同様、その辺の心配はありますよね。
小澤 年末までは冬の移籍マーケットでストライカーを獲るのではないかと言われていましたが、ジダン監督が「冬の補強は不要」と宣言して今は可能性がなくなりました。実際問題、マドリーレベルのチームが冬の市場でよいストライカーを獲得するのは難しいですからね。どうしてもベンゼマ頼みになると思います。
中山 どちらかというと、シティは試合展開としては点の取り合いを望むでしょうね。
倉敷 過去の対戦は拮抗していました。2015-16シーズンの準決勝は第1戦が0-0、マドリーホームの第2戦はマドリーが1-0で勝利。ただこの得点はフェルナンドのオウンゴールでした。2012-13シーズンのグループステージで対戦した時も、3-2(マドリー勝利)と1-1でした。
中山 2015-16シーズンはジダンがマドリーの監督になったシーズンの対戦ですね。その時のシティの監督はマヌエル・ペジェグリーニでしたが、ペップとしても同じような展開にはしたくないでしょう。もしシティが勝つなら、打ち合いになるような気がします。
倉敷 ペップとジダンの采配が楽しみですね。マドリーはクリスティアーノ・ロナウドがいなくても勝ち上がっていけるのか? そしてこの大会に懸けるしかなくなったシティは、決勝でリバプールと対戦!? なんてシナリオがあり得るのかどうか。
小澤 個人的には今季の両チームの状態、前半戦の過ごし方からすると、マドリー有利と見ています。マドリーのように世界最高レベルの選手を揃えるチームが、守備やハイプレスからリズムをつくるサッカーを実践すると、とくにボール保持型のチームにはやっかいです。ハイプレスを剥がされたとしても、後方にはセルヒオ・ラモス、ラファエル・ヴァラン、エデル・ミリトンといった、広範囲なスペースをカバーできるセンターバックが控えています。今のマドリー相手に、シティが決定機を何度もつくる展開は難しいと思います。
中山 いずれにしてもシティは1位通過しているので、第2戦をホームで戦えるわけですから、その試合がある意味で”ペップ・シティ”の集大成的な試合になるでしょうね。個人的には、CLもプレミアも逃すとなれば、ペップは今季で辞任するような予感もします。
倉敷 どちらもべらぼうに人件費の高いチームですから、ラウンド16で負けるわけにはいきません、フロントも熱くなる。いろいろと白熱した試合になりそうです。
では、ディフェンディングチャンピオン、リバプールに話題を移しましょう。相手はアトレティコ・マドリード。守備のアトレティコに対して攻撃のリバプールという、矛と盾の典型的な構図ですね。
<好調を維持するリバプール。アトレティコは自分たちの戦いに持ち込めるか>
小澤 ただ、現在のリバプールはスキがなさそうですね。国内リーグ戦は無敗で首位を独走していますし、CLで負けたのはグループステージ初戦のナポリ戦だけです。
中山 グループステージの序盤にこの鼎談をした時、リバプールはひとつの形は完成しているけど、戦い方のオプションが少ないことが懸念材料として挙がっていました。だからシーズンを通して勝ち続けるのは難しいのではないかという話で落ち着いたのですが、結局、ここまで圧倒的な強さで連勝街道を突き進んでいます。しかもそれなりにメンバーをローテーションしながら戦っているので、いまのところ息切れしそうな気配もありません。
倉敷 とはいえ、12月にはクラブワールドカップもあったわけですし、以前のレアル・マドリーがそうだったようにシーズン終盤までコンディションを維持するのはたいへんです。ローテーションを組んでもケガは起こり得る。隙のなさそうなリバプールにとって最大の敵はコンディションでしょう。
小澤 同感です。1月もFAカップがありますし、さすがにクラブワールドカップと重なったリーグカップは2軍を出場させて敗退しましたけど、それで過密日程が解消されるわけでもないですから。
倉敷 FAカップの再試合制度をやめればイングランド勢がビッグイヤーを持ち帰る回数も増えると思いますが、プライドの高いFAはやめないでしょうね。中山さん、リバプールの攻撃陣に不安はありませんか? モハメド・サラー、サディオ・マネ、ロベルト・フィルミーノのトリデンテは魅力的ですが、もし誰かが欠けてしまったら、これは苦しいですね。
中山 冬の移籍市場で南野拓実を獲得していますが、もうひとりくらいアタッカーを補強するという噂も出ていますね。
倉敷 南野の補強はエネルギーや推進力、中盤の強度で期待できる部分でしょうね。日本人がフィジカルや運動量を評価される時代になってうれしいです。小澤さん、アトレティコはどうですか? アトレティコから点を取るのも難しいけど、アトレティコが点を取るのも難しいという点が歯痒かったりしませんか?
小澤 そうですね。ジエゴ・コスタは無事手術を終えて戻ってくるはずですが、得点力不足はそれで解消されるかというと疑問は残ります。ただ、アルバロ・モラタが調子を上げてきて、ジョアン・フェリックスも少しずつフィットしてきているので、そこは期待してもいいと思います。
いずれにしても、リバプールが相手となれば、ディエゴ・シメオネ監督は引いて守る戦いを選択するしかないでしょう。オープンな展開に持ち込ませずに、自分たちのサッカーに引きずり込むのではないでしょうか。その時に、リバプールがどうやってアトレティコの守備を崩すのかが最大のポイントになると思います。
中山 逆にそれを見たいですね。現在のリバプールを倒すチームがあるとすれば、それはシメオネのアトレティコしかないような気もします。2試合ともスコアレスドローに持ち込んで、PK戦で勝負するプランを練っていても不思議ではないですし。
小澤 アトレティコは寝技に持ち込むことで勝機を見出すしかないでしょう。最近のアトレティコは、4-4-2の両サイドハーフにボランチのコケ、サウール、エクトル・エレーラを置いて、中盤にボランチ4枚を並べるパターンが有効に見えます。リバプールに対抗するには、それがベストな布陣なのではないでしょうか。
中山 そのなかで、ロングカウンターや得意のセットプレーで1点をもぎ取って逃げ切るというのもアリですね。ゴールマウスはヤン・オブラクが守ってくれるので心配ないですし。
倉敷 グループステージで2ゴールをマークした選手が、ジョアン・フェリックスとモラタの2人しかいないアトレティコですからね。なるほど、中盤に4枚のボランチを並べてリバプールが最も嫌がることをするというのは興味深いです。
中山 シメオネは守備だけでは限界があると感じて、ここ数年は攻撃のバリエーションを増やすべくそれなりにお金を使って攻撃の駒を増やしてきましたが、最終的には前回王者を前にして原点回帰するというのも、シメオネらしいですよね。とはいえ、番狂わせを起こすためには、ホームで戦う第1戦を引き分け以上で終えないと厳しいでしょう。
倉敷 常連アトレティコは、CLで優勝を狙うチームにとって越えなければならない大きな壁という存在です。番狂わせが起こる可能性を秘めた一戦ですね。
次はチェルシー対バイエルンです。7割くらいの確率でバイエルンが勝ち上がりそうな気がしますが、中山さんはいかがですか?
<監督が替わって好転のバイエルン。ミュラー&レバンドフスキのホットラインに注目>
中山 僕も同じです。たしかにフランク・ランパード監督は、世代交代を進めながらプレミアでも予想以上の成績を収めていますが、バイエルンと比べると選手の経験値で劣ってしまいます。CLの決勝トーナメントは、監督も含めたチームの経験値が重要な要素になるので、順当にいけばバイエルンが勝ち上がると思います。
もっとも、そのバイエルンもニコ・コバチ監督が解任され、アシスタントコーチだったハンス=ディーター・フリックが新監督に就任しているので、監督の経験値という点ではほぼ互角と見ていますが。
小澤 バイエルンは監督が替わって、以前よりもよくなった印象があります。
倉敷 よくなりましたね。フリックはコバチが監督をしている時からすでにベンチにいて、コバチをいつ見限っても大丈夫なようにフロントの意向で準備をさせていたのだろう、というのがドイツメディアの見方です。
何がいちばん機能するようになったか、それはトーマス・ミュラーです。コバチはミュラーとうまくいっていなかった。関係修復の絶好の機会が訪れても使わなかった。使わなくても勝っていれば問題はなかったのでしょうが、そうはいかなかった。そして、フリックに替わってからミュラーは毎試合起用され、チームは安定を取り戻した。彼はアシスト能力が高くて、そのうち半分くらいがロベルト・レバンドフスキの得点に結びついています。すばらしいホットラインが復活したことによって、1試合1ゴールが確実に保証されているチームに戻った印象です。
中山 今季のレバンドフスキは恐ろしいほどゴールを量産していますよね。ブンデスリーガで20ゴール、CLでは10ゴール(※1月19日時点)。どちらもダントツで得点王ランキングのトップを走っています。そもそもCLにおけるバイエルンの攻撃関連のスタッツもずば抜けているので、やはりチェルシーの勝ち目は薄いと見るのが妥当でしょうね。
倉敷 ブンデスリーガのゴール記録はゲルト・ミュラーの1シーズン40ゴールが最高なのですが、レバンドフスキは前半戦だけで19点取りましたから、このペースでいくと新記録を達成しそうです。
問題はセンターバックのポジションです。故障者が続出し、とくに柱であるニクラス・ズーレが当分の間は起用できません。リュカ・エルナンデスも離脱中。仕方なくハビ・マルティネス、ダビド・アラバ、バンジャマン・パバールらをセンターバックにしていますが、間違いなくここが不安材料です。ジェローム・ボアテングも冬に移籍してしまうかもしれません。小澤さんは、このカードをどのように見ていますか?
小澤 選手の質からしてバイエルンが優位であることは間違いないですが、今季のチェルシー、ランパード監督には好印象を持っています。相手がバイエルンということで、割り切ってボールを持たない非保持の局面からゲームプランを設定して、守備的な戦いに挑めば十分勝機はあると見ています。
倉敷 スケジュールをチェックするとバイエルンは問題なし。前後のブンデスリーガに難しい相手は見当たりません。一方、チェルシーは、マンチェスター・ユナイテッド、トッテナム、そしてバイエルンと、いずれも中3日のスケジュールが組まれています。
中山 チェルシーにとって重要なのはプレミアで来季のCL出場権を確保することでしょうから、CLは完全なチャレンジャーとしてバイエルンの胸を借りるくらいの気持ちで臨むほうがベターでしょう。勝てば番狂わせになるわけですし、負けた場合もサポーターがランパードを非難するようなことにはならないと思いますし。
倉敷 ランパードの監督としての才能を見極めるうえでも、楽しみな試合ですね。バイエルンの圧倒的な攻撃力を、チェルシーはどのようにして抑え込もうとするでしょうか。
では、次回も引き続きラウンド16の注目カードを展望していきましょう。