松岡修造が語る「全豪オープン2020」前編 大坂なおみ(WTAランキング3位、1月13日づけ)が、全豪オープンテニス(1月20日~2月2日、メルボルン)の舞台に帰って来る。しかも、全豪では日本人初となるディフェンディングチャンピオンとして戻…

松岡修造が語る「全豪オープン2020」前編

 大坂なおみ(WTAランキング3位、1月13日づけ)が、全豪オープンテニス(1月20日~2月2日、メルボルン)の舞台に帰って来る。しかも、全豪では日本人初となるディフェンディングチャンピオンとして戻って来るのだから、なおさら期待は高まる。



全豪オープンに出場する大坂なおみについて語った松岡修造

 振り返れば、大坂は2018年全米オープンで日本人として初優勝し、2019年の全豪でも優勝して、世界1位になる偉業を成し遂げた。それまでグランドスラムでの日本人選手の最高成績は、男子では、錦織圭の準優勝(2014年全米)、女子では、伊達公子のベスト4(1994年全豪、1995年全仏、1996年全英)で、グランドスラムの頂点には手が届いていなかった。だからこそ松岡修造は、改めて大坂の偉業を評価する。

「(2018年)全米、(2019年)全豪を連覇した大坂さんは、日本人として初めての扉を開けた。壁を突破してみせた驚きがありました。大坂さんは、とんでもない壁を突破するために、一瞬にしかないチャンスをもぎ取る感覚があり、だからこそグランドスラムで優勝できた。こういう取り方ができるんだと斬新に感じました」

 そして松岡氏は、うれしさと同時に、自分の考えも大坂の偉業についていかないといけない必要性を感じた。大坂が日本人選手にとって未踏だったグランドスラムチャンピオンになり、新しいスタンダードを日本テニス界にもたらしたが、そのスタンダードに大坂だけが到達しているのではダメだと痛感させられた。

「僕らもそこ(グランドスラムの頂点)に到達するためにどうしたらいいのかを考えなくてはいけない。海外に拠点があったからとかいろいろと思うことはあるし、それらは一理あるかもしれないけれど、彼女が日本人としてやってのけたテニスや考え方は、僕らにとってたくさんヒントが詰まった財産になる。それらをどれだけ僕が吸収して、ジュニアに伝えられるかが重要なんです」

 2020年全豪では、大坂は2連覇をかけて戦うが、松岡はあることを確信している。

「大坂さんが持っている100%のテニスができたら、100%優勝できると思います。昨年の全豪での大坂さんは、トップギアではなかったと思います。だから、すごいなって。準決勝の途中以降よくなりましたけど、そこまでの勝ち上がりでは自分の思うようなテニスができていなかったように見えた。攻撃してみたり、(ベースラインの)後ろに下がってみたり、ドロップショットをしたり、バリエーションを増やそうとして、いろいろ試していた」

 今やランキング上位の選手として相手に研究され、大坂の勢いやパワーが、昨年よりは脅威ではなくなっている部分を指摘しつつも、彼女のさらなる成長を期待している。

「経験と共にテニスはよくなっている。昨年には、崖っぷちのようなメンタルのときもあったけど、それを乗り越えたメンタルの成長を今回の全豪で試合中に見られるか、ですね。

 テニスが常に100%の状態で戦うということは誰でも難しい。だから苦戦を強いられる試合もあるでしょう。そんな中で70~80%のテニスでも勝ち上がれるところを見てみたいです」

 2019年シーズンは、大坂のメンタルにアップダウンがあり、テニスにもムラがあったが、22歳になった大坂は、2020年シーズンをウィム・フィセッテ新コーチと戦うことを決意した。データを駆使して選手と接するフィセッテコーチを、大坂は、尊敬を込めて”プロフェッサー”と呼ぶ。

「大坂さんにとってはいいコーチだと思います。彼女が世界一になるためには、正しい戦術や戦力が必要。フィセッテコーチは、数字や経験を言葉にして具体的に提示できるので、それをいかに大坂さんがインプットできるかですね。

 大坂さんが納得してプレーできている時はいいと思います。ただ、彼女の性格からすると、”言われなくてもわかっているわ”という気持ちになった時、コーチの言葉を素直に受け入れられない時もあるかもしれません。そこで、ただ単に数字で示すだけではなく、大坂さんの感性に近づける接し方ができるかどうか、”マインドプロフェッサー”にもフィセッテコーチがなれるか。それができた時は、とてつもないチームができ上がっていくのではないでしょうか」

 2020年はオリンピックシーズンであり、東京オリンピックでは大坂に金メダル獲得の期待もかかる。

 松岡がオリンピックを目指すさまざまな選手を取材してきて感じてきたことは、「東京は特別」であり、「オリンピックがすべて」という選手の切迫するような思いだ。ファンからの応援を受ける中で、これ以上何を頑張ればいいのか、プレッシャーに押しつぶされてしまいそうになるアスリートも多いという。

「でも、大坂さんの場合は違う。いい意味で、毎年4つのグランドスラムがあるので、オリンピックがなければ、テニス人生が終わりというわけではない。それは、大坂さんにとってはプラス要素になり得るし、応援が必要以上にプレッシャーにならず、素直にそれを受け止め、自分の力に変えることができる」

 大坂が金メダルを獲得する可能性については、「疑いゼロ。日本開催ということもあって、彼女が自分のテニスをすれば、絶対獲れる」と断言した。

 東京オリンピックが開催される有明も、今回の全豪もサーフェスがハードコート。「やはり全豪での戦いを見ることによって、オリンピックでの戦いを占うことができるのではないでしょうか」と松岡は推測する。

 さらに、今回の全豪には大坂と同年代の才能豊かなライバル選手が数多く出場するが、「全然関係ない。僕から見れば、大坂さんの方がうまい」と優勝への太鼓判を押す。

 果たして、大坂は、新コーチと共に全豪2連覇を達成できるだろうか。まもなく彼女にとって新たな戦いの火蓋が切って落とされる。