試合後半、明治大は「自分たちのラグビー」をようやく発揮し5トライを挙げて、満員となった57,345人の観客を大いに沸かせた。しかし、前半の31失点があまりにも大きかった……。 1月11日、新しくなった国立競技場…

 試合後半、明治大は「自分たちのラグビー」をようやく発揮し5トライを挙げて、満員となった57,345人の観客を大いに沸かせた。しかし、前半の31失点があまりにも大きかった……。

 1月11日、新しくなった国立競技場で、ラグビーの試合としては初めてとなる大学選手権の決勝が行なわれた。

 対戦カードは、連覇を狙う明治大(関東大学対抗戦1位)と、11シーズンぶりの優勝を目指す早稲田大(同2位)。両者が大学選手権の決勝で対戦するのは、1996年度以来。実に23シーズンぶり、9度目の「早明戦」となった。



前半の明治大は早稲田大の勢いに押されてしまった

 下馬評は、紫紺のジャージーの明治大が有利。ファンの数も、明治大のほうが多いように感じた。

 それもそのはず。昨年度の大学選手権・準決勝(31−27)、春の「早明戦」(29−14)、そして昨年12月に25年ぶりの全勝対決となった対抗戦(36−7)でも明治大が快勝しており、現在3連勝中だからだ。

 3年連続で決勝進出となった明治大は、キャプテンのHO(フッカー)武井日向(4年)を中心に8人のFWのうち5人が4年生。スクラムやラインアウトといったFWのセットプレーでは、明治大が優勢だった。また、先発15人中10人が昨年度の決勝に出場しており、大舞台の経験値も高かった。

 試合前、武井主将は「連覇ではなく、自分たちの代で優勝したい」という言葉を繰り返し、田中澄憲監督はゲームプランとして、「ボールキャリーがしっかり前に出ること。粘り強くディフェンスすること。ルーズボールなどのリアクションを大事にすること」の3つを掲げていた。

 裏を返せば、1年間やってきたこと、基本プレーを貫けば勝てる……という自信の表れでもあった。

 とはいっても、選手たちはまだ21歳、22歳の大学生。どこかに「今シーズン負けなし」というメンタル的な油断や隙があったのかもしれない。また、お披露目となった新国立競技場での対戦に、プレッシャーを感じなかったといえば嘘になるだろう。

 前半早々、明治大はアタックを仕掛けるが、早稲田大FW陣の奮闘によってなかなか前に進めない。明治大の誇る強力FW陣が前に出ていけないため、BK陣もいいテンポでペースを作れず。結果、明治大の陣営は徐々に下げられていった。

 うまく噛み合わない状況は、ディフェンス面にも影響を及ぼす。早稲田大のアタックの前に、明治大は後手を踏むようになっていった。

 前半9分、明治大は反則を犯し、相手にPG(ペナルティゴール)を決められて先制される。さらに前半12分、ラインアウトからのサインプレーで狭いサイドを突かれ、今度はトライを許してしまった。

 試合序盤で0−10。その時の状況を振り返り、田中監督や武井主将から出てきた言葉は「パニック」だった。

「アタックで主導権を握られて、コントロールされていた。さらに(相手の)粘り強いディフェンスで一時的なパニックに陥った」(田中監督)。「前半立ち上がりの失点でパニックになってしまった」(武井主将)

 円陣で選手同士のコミュニケーションは取れても、新しい国立競技場、しかも満員の観衆で、プレー中はほとんど言葉が伝わらなかったという。一度、相手に傾いてしまった流れを、簡単に取り戻すことはできなかった。

 前半26分にはラインアウトから一発でトライを許し、前半34分にもゴール前のモールからトライを奪われた。さらに前半39分には、スクラムを起点にまたも狭いサイドを突かれ、この日4つ目の失トライ。明治大は0−31という予想外のスコアで前半を折り返すことになった。

 現代ラグビーでは、4トライでも追いつけない29点差がセーフティリードと言われている。ディフェンスで粘ることができずに大量失点を喫し、「前半で勝負あり」という展開になってしまった。

 それでも、紫紺の軍団は最後まであきらめなかった。

 田中監督は選手たちに「自分たちがやってきたことをやっていない。ボールキャリアが前に出ていない。基本に立ち返れ」と声をかけ、武井主将も「スローガンの『真価』が苦しい状況でこそ試される。逆転する」という気持ちになって後半に臨んだ。

 後半3分、明治大はラインアウトからすばらしい展開を見せ、この試合最初のトライを副将WTB山村知也(4年)が挙げる。

 後半10分にトライを奪われるも、その後は明治大のペースとなり、後半16分にLO箸本龍雅(3年)、後半21分にSO山沢京平(3年)、後半29分に山崎洋之(4年)らがトライを重ね、ついには28−38と10点差まで迫った。

 しかし後半34分、早稲田大にスクラムから狭いサイドを突かれてトライを許し、万事休す。後半40分にFB(フルバック)雲山弘貴(2年)がトライを返して粘ったが、最後は35−45でノーサイド。奇跡の逆転劇は叶わなかった。

「早稲田大学さんのアタック、ディフェンスのすべてがすばらしかった。明治大は意地を見せたと思いますが、前半0−31がこの結果につながった」(田中監督)

 大学選手権の決勝で、明治大は早稲田大に43シーズンぶりに敗れてしまった。

 それでも武井主将は、「後半、苦しい場面でもアタックし続けたこと、身体を張り続けたこと、そういうあきらめない姿勢を後輩につなげられた」と胸を張った。

 そして後輩・3年生の箸本は、「いい形で先輩を送り出してあげたかった。叶わずに残念です。(前半0−31は)残る選手にはいい教訓になる。来シーズンは早稲田大に勝って優勝したい」と前を向いた。

 明治大は今シーズン、東日本大学生セブンズ、春季大会Bグループ、対抗戦、すべて全勝で優勝を果たしてきた。しかし最後、一番大事な試合であと一歩が届かなかった。この悔しさを糧に、明治大は再び挑戦者となって14度目の大学王者を目指す。