今年8月に開催される東京五輪のなかでも、男子4×100mリレーは注目が集まるだろう。2016年リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得した以降、17年世界選手権でも銅メダルを獲得、昨年10月の世界選手権では、アメリカとイギリスに続いて銅メダル…
今年8月に開催される東京五輪のなかでも、男子4×100mリレーは注目が集まるだろう。2016年リオデジャネイロ五輪で銀メダルを獲得した以降、17年世界選手権でも銅メダルを獲得、昨年10月の世界選手権では、アメリカとイギリスに続いて銅メダルを獲得しているため、リオ五輪以上に金を期待されている。
昨年の世界陸上で銅を獲得した、(左から)多田修平、白石黄良々、桐生祥秀、サニブラウン・ハキーム
今の日本の強みは選手層が厚いこと。リオの時とは違うオーダーでも、しっかりと表彰台を堅持できている。たとえば17年世界選手権では、サニブラウン・ハキームをケガで使えなかったため、1走は多田修平(住友電工)が務めた。また、予選で走ったリオ五輪メンバーのケンブリッジ飛鳥(ナイキ)の調子がいまいちだと判断すると、決勝では4走を藤光謙司(ゼンリン)に変え、その結果銅メダルを獲得。リオのメンバーで残ったのは2走の飯塚翔太(ミズノ)と3走の桐生祥秀(日本生命)だった。
さらに19年世界選手権はサニブラウンが4走で、2走はこの年一気に成長してきた白石黄良々(セレスポ)という新戦力を起用。決勝では、予選で37秒78と全体3位の記録を出していた小池祐貴(住友電工)が本来の走りをできていないと見て、17年に続いて1走は多田修平(住友電工)が務めた。リオのメンバーは桐生だけだったが、37秒43のアジア新記録で3位になった。
そして、このメンバーがそのまま東京五輪に出られるかと言うと、そうとは限らない。この選手層の厚さがあるからこそ、金メダルを期待されるのだ。
4×100mリレーの出場権は、世界選手権決勝進出で獲得しているが、個人種目の出場権は「参加標準記録突破」と「世界ランキング上位」というふたつの資格獲得条件がある。現時点で参加標準記録(100m:10秒05)を突破しているのは、9秒97のサニブラウンと9秒98の小池、10秒01の桐生となっている。また、200m(20秒24)は、20秒08を出しているサニブラウンと、20秒24の小池のふたりだ。
選考基準は、両種目とも6月下旬に行なわれる「日本選手権で3位以内に入り、その時点で標準記録を突破している者」となっている。そこで代表に内定すれば、個人種目の出場権を獲得でき、リレーの有力メンバーにもなれる。
参加標準は突破していないものの、100mでは昨年10秒11を出しているリオ五輪メンバーの山縣亮太(セイコー)、10秒12を出している多田に加え、同じく10秒12の坂井隆一郎(関西大)が記録的に近く、10秒19の白石や飯塚もいる。さらに記録は10秒20だが、リオ五輪メンバーだったケンブリッジも可能性を残している。
200mでは、20秒27を出している白石や、20秒29の飯塚、20秒39の桐生、20秒40の山下潤(筑波大)が個人種目での出場を狙う。
また17年と18年に10秒00を出している山縣は、9秒台を狙える選手であり、200mで世界選手権に出場した白石も、東京は100mで代表入りしたいと公言している。また100mで10秒08の自己記録を持っている飯塚は、主戦場は200mで、末續慎吾が保持する20秒03の日本記録突破を目指している。誰もが東京五輪4×100mリレーの出場メンバーになるのは大きな目標で、そのためにも個人種目で代表にならなければと強く意識している。
土江寛裕コーチには、「サニブラウンには走る距離も長く強豪選手が揃う2走を務めてもらいたい」という思惑もあり、サニブラウン自身も世界選手権では「来年は2走だと厳命されています」と話していた。白石や飯塚、桐生も4走を経験しており、200mでも世界を狙っている小池は3走を務められるなど、区間の移動が可能なのは今の日本チームの強みである。
そんな中、日本陸連は昨年12月に「4×100mリレーで金メダルを狙うためには、個人種目の出場は原則として1種目に制限する」という選考案を示した。これは17年世界選手権で、2種目に出場したサニブラウンが脚に不安が出てリレーに出場できなかったことや、昨年の世界選手権でも、100mと200mに出場した小池を決勝で使えなかったということもある。それに対して、2種目での出場を目指しているサニブラウンや小池が不満を感じるのは当然だろう。
世界のトップ選手が2種目を走ってリレーでも結果を出している状況を考えれば、日本選手にも、そのレベルを目指してほしいという思いもある。だが、近年の五輪や世界選手権で、2種目に出場してリレーも走った選手は、00年シドニー五輪の伊東浩司以来誰もいないという事実があることも確かだ。
未確定な部分はありつつも、日本選手権へ向けた熾烈な代表争いとともに、世界基準の意識を持った各選手の進化に期待しながら見守りたい。