過去、WTB(ウィング)松島幸太朗(現在日本代表)を擁しても実現できなかった壁をついに破り、「東の横綱」桐蔭学園(神奈川)が7度目の挑戦で初の単独優勝を飾った。 1月7日、大阪・東大阪市花園ラグビー場で「花園」こと全国高校ラグビー大会の決…

 過去、WTB(ウィング)松島幸太朗(現在日本代表)を擁しても実現できなかった壁をついに破り、「東の横綱」桐蔭学園(神奈川)が7度目の挑戦で初の単独優勝を飾った。

 1月7日、大阪・東大阪市花園ラグビー場で「花園」こと全国高校ラグビー大会の決勝戦が行なわれた。春の選抜大会と夏の7人制ラグビーを制して「高校3冠」がかかる桐蔭学園の相手は、同じくAシードから勝ち上がってきた御所実業(奈良)。「神奈川県代表vs奈良県代表」の決勝戦は、花園史上初のカードだ。


初の花園単独優勝を飾った

「東の横綱」桐蔭学園

 試合開始直前まで冷たい雨が降り続き、グラウンドは濡れていた。そのため、モールという絶対的な武器を擁し、準決勝まで1トライしか失っていない鉄壁の守備を誇る御所実業がやや有利、と予想されていた。

 御所実業は定石どおり、試合開始からSO(スタンドオフ)?居海靖(3年)のハイパントキックで崩しにかかる。桐蔭学園はキャッチミスからチャンスを与えてしまい、前半4分にはモールで、さらに前半16分にもBKからの展開でトライを許し、0−14とリードされる。

 ただ、今季の桐蔭学園は公式戦38戦無敗(7人制ラグビー含む)。14点のビハインドでも動揺することはなかった。

 前半19分、相手の反則からCTB(センター)桑田敬士郎(3年)がPG(ペナルティゴール)を決めて3−14にすると、相手の得意とするモールで前進を許さず、敵陣で攻撃する時間帯が徐々に増えていく。ただ、なかなかトライを奪うことはできずに、11点差のまま前半を折り返した。

 それでも、桐蔭学園を率いて30年目を迎える藤原秀之監督は、「後半10分以内にトライを獲ればワンチャンがある」と思ったという。また、キャプテンのSO伊藤大祐(3年)も、「先に2本獲られてしまったので、どういうゲームをするのか考えた。1本取ったら射程圏内」と、監督とキャプテンの意見は見事に一致していた。

 今季のスローガンは「一心」。意志統一の図れている桐蔭学園は後半、すばらしい試合を見せる。

 キックオフではマイボールを浅めに蹴り、身長190cmのLO(ロック)安達航洋(3年)がボールを確保。キャプテン伊藤、副キャプテンPR(プロップ)床田淳貴(3年)、LO青木恵斗(2年)、No.8(ナンバーエイト)佐藤健次(2年)を中心に、ランで前に出続けた。そして後半6分、桐蔭学園は18次攻撃の末に青木がねじ込んで10−14とし、4点差に追い上げる。

 さらには後半16分、伊藤が相手のキックをキャッチしたあと、カウンターを仕掛けて一気にゲインする。そして最後はFB(フルバック)秋濱悠太(2年)につないでトライを挙げて、15−14と逆転に成功。「準々決勝でも準決勝でも劣勢にならなかったので(ランを)見せる必要はなかったが、劣勢になったら走ろうと思った」。伊藤は決勝の舞台で、温存していたランから好機を演出した。

 さらに後半23分、桐蔭学園は再び「伝統の継続ラグビー」を披露する。18回もボールをリサイクルし、最後は青木のオフロードパスを受けたWTB西川賢哉(3年)がトライ。20−14とリードを広げた。その後、伊藤がDG(ドロップゴール)を決めて3点を追加。結果、23−14でノーサイドとなった。

 一昨年度は準決勝で大阪桐蔭に5点差、昨年度は決勝で同じく大阪桐蔭に2点差で敗れた。だが、今年度はしっかりと勝利を取り切った。9年ぶり2回目、単独では初となる高校王座をついに獲得。藤原監督は試合後、「(継続ラグビーは)うちでずっとやってきた。先輩が取り切れなかったことを突破してくれた」と破顔した。

 桐蔭学園の花園での戦いは見事だった。初陣となった2回戦では九州の実力校・長崎北陽台(長崎)を38−7で下し、初勝利で勢いに乗る浦和(埼玉)も78−5で撃破。準々決勝は前年度の覇者・大阪桐蔭(大阪第1)に31−12、準決勝は優勝6回を誇る東福岡(福岡)に34−7、そして決勝の御所実業は23−14。強豪の揃うなか、中2日のスケジュールでも遺憾なく力を発揮した。

 とくに決勝戦の内容は、圧巻だった。序盤に2トライを先制されたものの、前半途中からモールを止め、さらにはラインアウトやスクラムでプレッシャーをかけ、マイボールキックオフのボールも確保。そして後半は継続してトライを取り切り、キックもうまく使って戦い、最後はDGでとどめを刺した。

 一番疲れているはずの決勝の後半で、あのすばらしいラグビーがどうしてできたのか。藤原監督に聞くと、胸を張ってこう答えた。

「全国大会で勝ち切るためには、何かひとつ欠けても勝てないですし、一辺倒のことをやっても勝てない。すべてのことを想定して、100%の準備をして最後までやり切った。今まではそれが足りなかったのかな。99%ではダメ。それがこういう結果になった」

 昨年度の花園で負けた時、先輩からはこの結果を「踏み台にしろ」と言われたという。キャッチ&パスや接点の基本スキルを徹底的に見直し、OBのトップリーガーからも指導を受けた。また、帝京大や東海大といった強豪大学にも稽古に出向き、強度の高い練習を行なった。

 キャプテンの伊藤が優勝を振り返る。

「最高です。最初に思い浮かべたのは、藤原先生への感謝の気持ちでした。過去2年間、目指しながらも取れなかった(花園優勝の)タイトルなので(初めて)取れてよかった。

 松島幸太朗さんの45期が(東福岡との)同校優勝。前日にコーチから『そろそろ決着つけよう』と言われた。それが成し遂げられてよかった」

 ノーサイド直後、目を赤くしてしばらく下を向いていた藤原監督もこう語る。

「すばらしい景色ですね。勝って生徒を迎えられるのは、監督冥利に尽きます。花園に来てから長い間、単独優勝に届かなかったので、いろんなことが走馬燈のようによみがえってきました。

 素直にうれしい。(単独優勝までかかった時間が)ちょっと長かったなという気持ちもありますし、もしかしたら2度と優勝は転がりこんでこないかと思っていましたが、花園の神様がうちに微笑んでくれました」

 1997年度の國學院久我山(東京)の優勝以来、22大会ぶりに関東勢の桐蔭学園が単独優勝を果たした。藤原監督が「少し風穴を空けられたかな」と言うように、西高東低の高校ラグビー界に一石を投じることに成功した。

 桐蔭学園が新たな歴史を築いた、99回目の花園だった。