先日、台湾・台中で行われた第11回BFA U-18アジア野球選手権で、侍ジャパンU-18代表は決勝で台湾を1-0で下し、2大会ぶり5度目の優勝を果たした。■専任監督として地方大会にも足を運んで選手選考 先日、台湾・台中で行われた第11回BF…

先日、台湾・台中で行われた第11回BFA U-18アジア野球選手権で、侍ジャパンU-18代表は決勝で台湾を1-0で下し、2大会ぶり5度目の優勝を果たした。

■専任監督として地方大会にも足を運んで選手選考

 先日、台湾・台中で行われた第11回BFA U-18アジア野球選手権で、侍ジャパンU-18代表は決勝で台湾を1-0で下し、2大会ぶり5度目の優勝を果たした。これまでは夏の甲子園に出場していた高校の野球部監督が指揮を執るケースが続いていたが、今回は現在は日本高等学校野球連盟技術・振興委員を務める小枝守氏がチームを率いた。ベテラン小枝監督の采配が決まり、日本は見事にアジア王者となった。

 現職の監督では、地方大会から選手の選考ができなかっただろう。日大三(西東京)、拓大紅陵(千葉)を率いて甲子園出場経験のある小枝監督は、夏の地方大会を訪れ、選手を見て回った。こちらも技術・振興委員で前中京大中京監督の大藤敏行ヘッドコーチらと手分けし、頂点に立つためのチーム作りを行った。今回のU-18メンバーで今夏の甲子園出場がなかったのは、投手では島孝明(千葉・東海大市原望洋)、野手では佐藤勇基(愛知・中京大中京)、林中勇輝(福井・敦賀気比)、鈴木将平(静岡・静岡高)。この4選手が起用に応えた。

 島は初戦の香港戦で寺島成輝(履正社)との無安打無失点リレーを完成。実現こそしなかったが、決勝で小枝監督は島をタイブレークで流れを作れる投手として待機させた。心強いブルペンだった。野手の3選手はレギュラーだった。佐藤は遊撃手、鈴木は外野手でベストナインを獲得。林中はポイントゲッターとして、11打点を挙げて、打点王を獲得。適材適所での起用が光った。誰一人欠けても優勝はなかっただろう。

■選手に説き続けた“JAPAN”のユニホームを着られる誇りと有り難み

 優勝を果たし、重圧から解き放たれた小枝監督は「選手たちが本当によくやってくれた」とねぎらった。今大会は6試合で1失点と投手力の高さが光ったが「これだけの投手陣がいてくれたおかげです」と、自らの手柄ではなく選手の功労だと強調。采配が当たれば「選手がよくやってくれているのと、スタッフの先生方(コーチ)がいいアドバイスをくれているおかげです」と振り返っていた。ニコニコしながら試合を見つめ、選手に不安を与えることはしなかった。

 宿舎では「説教ばかりですよ」とメディアの前では明かしたが、実際には怒鳴り散らすこともなかった。伝えたのは、日本代表選手としての品格。大会が終わりに近づくにつれ「このメンバーで試合ができるのは、あと○試合だぞ」と、“JAPAN”のユニホームを着られる誇りと有り難みを口酸っぱく言い続けた。

 台湾、韓国以外は格下と言っていいレベルの相手だった。ポイントは前回決勝で敗れ、今回もプロ入りが決まっているメンバーを入れた韓国戦。偵察部隊も確認できたため、セミファイナルでの対戦を見据えて、花咲徳栄のプロ注目左腕・高橋昂也を徹底的に隠した。不慣れな国際大会のマウンドでの調整登板もさせず、本人にもギリギリまで伝えなかった。高橋の146キロの直球、曲がりの大きなスライダーは、初見ではなかなか打てなかった。7回2/3を9奪三振1失点で勝利投手に。「こちらに来てから非常に状態が良かったので大一番にぶつけました」と起用がはまった。好救援を見せた広島新庄の堀瑞輝についても「先発でもいけるけど、流れを断ち切るのに適していると思った」と判断したのが好結果につながった。

 この試合ではまったのは高橋だけではない。4試合1番を打っていた智弁学園の納大地に当たりが止まってきたと見ると、5番を打っていた秀岳館の松尾大河を1番に抜擢。チームでも1番を打つ松尾について「1番に上げたのは性格的な強さと強くスイングができる部分」と説明。新リードオフマンは起用されるなり、右へ左へ3安打。0-1のビハインドから4回に3点を奪って日本は逆転したが、ここでも松尾のヒットが口火となった。“大一番”の試合で勝てたことで、優勝がぐっと近づいた。

■選手の性格まで把握した適材適所の選手起用がズバリ

 気持ちの強い選手を先頭に立たせたのは投手起用も同じ。ファーストラウンド、今大会の開幕戦とセミファイナルの初戦には寺島を起用した。初戦と2戦目、球場は異なり、マウンドの対応など環境変化の順応も求められた。相手は香港、中国だったが、寺島が相手にしたのは目の前の敵ではない。大会を通じて日本が勝っていくために「勢いをつける投球を心がけました」と一切の慢心をせず、ピッチング。2戦合計で12イニング、37人に対して25奪三振、1本のヒットすら許さなかった。小枝監督は「ここは落とせないんだよ、というマウンドは寺島。彼は本当にハートが強い。それを意気に感じて、こちらが何も言わなくても理解をしてくれる」と気持ちが強く、浮足立たない投手を立てた。日本は完全に勢いに乗った。

 もちろん、野球の理想は打って守って勝つこと。決勝は台湾に1-0、セミファイナルの韓国も3-1と、日本は決して強力打線と言えなかった。だが、それは百も承知。地方大会、甲子園大会を通じてメンバー選考をする際に「今回は高いレベルの投手中心のチームになる」と考えた。国際大会は金属から木製バットになるため「普段から使っていない高校生が急にバットを持ち替えて打てるほど甘くない」と、守りと機動力で勝つことを、苦渋の末、決断。守備、バントのうまい選手として9番・佐藤をショート、中学時代に陸上でも名を馳せた八戸学院光星の伊藤優平を2番・セカンドで固定した。最初の壁だったファーストラウンドの台湾戦では、投手の作った流れを無駄にしないために5犠打で攻撃のリズムを作って勝利。小枝監督は「ことごとくバントをみんな決めてくれた。こちらのやりたい野球を実践してくれた」と感謝した。大会中に自分の判断で犠打を決める選手も出たほど作戦は浸透し、チーム力は次第に高まっていった。

 各高校のエース、4番、主将、プロ注目選手を多く抱えながら、束ねた指揮官の采配。ぜいたくな投手陣に、勝って当たり前という声も聞こえてくるが、日本の優勝は2011年以来5年ぶりで2大会ぶり。条件の悪い敵地での優勝は、2005年の第6回大会以来11年ぶり。アジア諸国のレベルも上がっており、決して簡単な戦いではない。次なる目標は、昨年、準優勝に終わったU-18ワールドカップ。メンバー構成は変わるが、来年の世界大会でも勝てるチーム作り、采配を期待したい。