東京オリンピックで輝け!最注目のヒーロー&ヒロイン ゴルフ 松山英樹 編 松山英樹が、長いトンネルからついに抜け出そうとしている。 2017年8月の全米プロ選手権で、松山は最終日にトップと1打差の2位タイでスタート。一時は首位に立つなど、日…
東京オリンピックで輝け!
最注目のヒーロー&ヒロイン
ゴルフ 松山英樹 編
松山英樹が、長いトンネルからついに抜け出そうとしている。
2017年8月の全米プロ選手権で、松山は最終日にトップと1打差の2位タイでスタート。一時は首位に立つなど、日本人初のメジャー制覇への期待が膨らんでいた。しかし、終盤でスコアを伸ばすことができず、同組のジャスティン・トーマス(アメリカ)との競り合いに敗れて、最終的には5位タイでフィニッシュ。快挙達成はならなかった。
ホールアウト後のインタビューで、松山は悔し涙を流して、敗因を聞かれると、「考えます」とだけ言って再び涙を拭った。
きっと、彼の中でも敗因はなかなか見つけられなかったと思う。本来は、勝ってもおかしくない流れ、内容だった。しかも、松山はメジャーで勝つために考えつくトレーニングも、練習も、それまでにこなしてきた。実際、松山は誰よりも遅くまで練習していた。
にもかかわらず、負けた。その結果、松山は「これ以上、何をすればいいんだ?」と悩み、苦しんだ。
彼はその後、一度も勝つことができていない。全米プロの敗北が、ずっと尾を引いていたのだ。単なる1勝を逃したというだけではなく、松山にとって、この敗北はそれほど大きなものだった。
松山は、昨季ブレイクした渋野日向子とは、対照的な気持ちを持ち合わせたゴルファーだ。ミスしたり、敗れたりしても、(もちろん悔しいだろうが……)笑い飛ばせる渋野と違って、松山は悩みやストレスを外に発散することなく、すべて自分の内側に閉じ込めてしまう。それは、まるで仏教における悟りの境地を目指し、煩悩を取り去るための修行を行なう求道者のようにも見える。
また、現在のタイガー・ウッズを見ていると、技術が円熟し、落ち着いた深い味わいを醸し出している。それは、まさしく「枯れている」と言える。そうして、タイガーは極めて自然体でプレーしている。
一方、松山は痛々しいほど自分で自分を追い詰めてしまう。ゆえに、見ている人間が、歯を食いしばらなければ見ていられない、胸が苦しくなるような雰囲気のプレーになっている。
技術は、すでに誰もが認める存在。ただ、その技術に成績が伴うには、そういった棘を削ぎ落していく、メンタルの部分での成長が松山には必要だった。
おかげで、松山はおよそ2年もの間、優勝から遠ざかっている。それでも、2019年の後半になって、復調気配がうかがえた。9月に開幕したPGAツアー2019-2020シーズンにおいて、10月のザ・CJカップで3位タイ、続くZOZOチャンピオンシップで2位と好成績を残した。メンタル的にも成長し、彼が模索し続けてきた姿が、ようやく見え始めてきたのではないかと思う。
2020年、松山英樹がついにメジャー制覇を果たすか!?
もちろん、技術的な進化も見て取れる。スイング中、以前のように頭を残さず、その場でスムーズに首が回転するようなフォームに改良。細かい部分で進化している。
そんな松山の復調具合を見ていると、今季はここ2年とは違う好成績を残せそうなムードを感じる。4月のマスターズ、5月の全米プロ、6月の全米オープン、7月の全英オープンという、4大メジャーでの活躍も期待される。
なかでも、最もチャンスがありそうなのは、マスターズだ。その理由のひとつとして、現在、男子プロの世界には絶対的な存在がいない点が挙げられる。昨年は、タイガー・ウッズが復活優勝を飾ったものの、とにかく飛ばして、短いクラブでピンを狙って……という往年のタイガーの攻め方ではなかった。非常に柔軟な作戦でコースを攻略していた。
要するに、マスターズを制するには、飛距離やパワーが必須ではない、ということ。ポイントは、タイガーのような柔軟な攻め方を取り入れられるかどうか。それができれば、松山にもチャンスは巡ってくるはずだ。
松山には、そうやってメジャー大会でも好成績を残して、勢いをつけた状態で東京五輪に臨んでほしいと思う。なぜなら、彼にはメダルを手にするチャンスが十分にあるからだ。
先にも触れたように、男子プロには今、群を抜いた存在がいない。アメリカの選手が強いのは間違いないが、メダル候補がそこに集中しているわけではない。欧州をはじめ、世界中にトッププレーヤーがひしめいていて、群雄割拠の状態にある。そういった状況のなか、思わぬダークホースが台頭してもおかしくない。
ゆえに当然、松山のチャンスは膨らむ。
なにしろ、地の利がある。松山はジュニア時代も、学生時代も、舞台となる霞ヶ関カンツリー倶楽部でプレーしている。もちろん、松山がプレーしたのはコース改修前ではあるが、オリンピック出場選手を悩ませるであろう、霞ヶ関CCの夏の暑さを肌で知っていることは大きなアドバンテージになる。
改修後も、すでに松山は何度かラウンドしているという。だからこそ、松山には”地の利”を存分に生かしてほしい。
現状でも、松山は3位以内、メダル圏内の成績を残す可能性は秘めていると思う。だが、たったひとつの敗北が1敗以上の重みがあったように、ひとつの勝利が1勝以上の重みを持つことがある。もし五輪までの間に、メジャー優勝を果たすようなことがあれば、ひと皮どころか、松山は凄まじい成長を遂げるかもしれない。
そうなると、年間を通して想像以上の成績を残すのはもちろんのこと、東京五輪での金メダル獲得もグッと近づくことだろう。