専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第237回 10年ぐらい先の話になりますが、渋野日向子選手を見て育つジュニアは、どんなゴルファーになるのでしょうか? 個人的な予測で言えば、プロアマ問わず、元気いっぱいに活躍す…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第237回

 10年ぐらい先の話になりますが、渋野日向子選手を見て育つジュニアは、どんなゴルファーになるのでしょうか?

 個人的な予測で言えば、プロアマ問わず、元気いっぱいに活躍する人が大挙して出てくるんじゃないか。そんな期待を持っています。

 というのも、”シブコ様”が持っている天真爛漫なキャラクターが、ものすごくプラス効果をもたらすからです。

 オフシーズンに何をするか? と問われた渋野選手が「まずは、ポケモン(のゲーム)を全クリアします」と答えたところなんて、とてつもなくワンダフル! 子どもたちはそれを聞いて、大いに共感したことでしょう。そうして、渋野選手の真似をして、みんながポケモンをやるんじゃないでしょうか。

 ちょっと前の石川遼選手だったら、「オフはスキーをやって、足腰を鍛えます」とか言うじゃないですか。やっぱり、彼は優等生です。宮里藍ちゃんの、現役時代のオフコメントは覚えていませんが、彼女のキャラクター的には「家族と過ごします」といったところでしょうか。

 ところが、”シブコ様”はいきなりポケモンだもんね。メディアの方は、「ゴルフについて、オフに何かするのですか?」という意味で質問したと思うのですが、この天然的破壊力は計り知れません。全国のゴルフをやっている小学生の心をわしづかみですよ。

「シブコがポケモン全クリ目指すなら、オレたちだって、勉強やゴルフどころじゃないよね」「シブコって、物事の何が大事なのか、よくわかってんじゃん」となりますから。そのひと言で、死ぬまでシブコについていく子どもも、出てくるんじゃないですか。

 そもそも渋野選手は、子どもたちからも「シブコ」って呼ばれていますからね。それって、距離感のない友だち感覚だもん。恐るべし親近感です。

 子どもに対して、これほど門戸を開放しているプロ選手は見たことがありません。ヤワラちゃん(谷亮子)や藍ちゃんより、すごい。学校で言えば、自分の席の隣にいるぐらいの距離感です。

 この親しみやすさと破壊力は、何に酷似しているか。それは、往年の名画『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年公開)ですよね。

 オーストリア・ザルツブルグのフォン・トラップ一家にやって来た家庭教師のマリア(ジュリー・アンドリュース)は、型破りな教育方針で7人の子どもたちから絶大な信頼を得ます。みんなで歌を歌って、合唱団を作り、カーテン生地で服を作り、自由と愛を高らかに宣言するのです。そんななか、ナチスの魔の手が目前に迫り、アルプス山脈を命がけで国境越えするシーンには、ハラハラどきどき。最後まで見応えのある映画です。

 その、自由奔放、天真爛漫なマリアの姿と、シブコの姿がオーバーラップして……オヤジ目線で言えば、「うちの子どものゴルフ友だちになってくれないか」「ぜひ家庭教師に」と思ってしまうんですな。

 渋野選手は、実際のトーナメントでも、ゴルフをやっていそうもない子どもに対しても、できる限り握手をしたり、サインをしてあげたりしています。子どもにとって、大スターに直接会うインパクトは、計り知れない効果をもたらします。

 およそ50年前、木村少年が故郷の石巻で北島三郎を見た時は、すげぇ感動したものです。夜公演があるなか、なぜか我が母校の湊中学のグラウンドにやって来て、野球をやっていました。おそらく全国ツアー中の、気分転換のレクリエーションだったのでしょう。

 サブちゃんは、ピッチャー。グラウンドの周りには、噂を聞きつけた地元の人々が押し寄せ、ものすごい人だかりになっていました。そして、試合が終わるや、サブちゃんは一目散に去っていきます。

 その時、一緒にいた伯母さんが、従弟のタカシを抱えてサブちゃんに突撃。「え~、何すんの!?」と見ていたら、タカシが小さい手を出すや、一瞬だけど、サブちゃんが握手してくれたんです。それには、伯母さんも、私も大感激で、以降、木村家は”北島ファミリー”に加わりました……って、ほんまかいな。

 そんなわけで、今現在は、全国で”シブコ・ファミリー”がどんどん増殖しています。「三つ子の魂百まで」と言いますから、シブコに握手をしてもらったり、サインをしてもらったりした子の将来が楽しみです。

 そんな”シブコ様”シンパは、今後いったいどうなるのでしょうか? ちょっと考えてみましょう。

(1)立派なスポーツ選手
 渋野選手の影響を受けた、ひと握りの才能ある子どもたちは、立派なスポーツ選手になるんじゃないでしょうか。ゴルフをやって、やがて来るであろう”シブコ・チルドレン”全盛時代を担うのかもしれません。

 けど、もともと渋野選手もソフトボールをやっていましたからね。彼女の影響を受けた子どもたちも、ゴルフひと筋というわけではなく、いろいろなスポーツをやって、そこから自分に合っているジャンルを探すんじゃないですかね。

 そもそも岡本綾子プロやジャンボ尾崎プロが活躍しているように、ソフトボールや野球出身者は、ゴルフとの相性がよろしい。

 しかも、渋野選手なんか左打ちだから、ゴルフの逆スイングを知らないうちに覚えているんですな。これは、片山晋呉選手が練習で取り入れているメニューです。利き打ちとは逆で打つと、また違った世界が見えて、それが本来の打ち方にも有効な作用をもたらし、スイングや体のバランスを整える効果もあるそうです。

 とにもかくにも、回り道しながらも、最後はゴルフで大成する――そういうことを夢見ている親子は、結構多いと思います。

(2)とにかく元気に生きてゆく
 渋野選手の影響を受けたからといって、将来ゴルフで頂点を極めることができるのは、ごく一部の選ばれし人だけです。

 けど、渋野選手の影響を受けて育ったのなら、「積極的に明るく、人生を元気に生きていこう!」という気持ちを持った人間になっているんじゃないでしょうか。そして、ゴルフ関連の仕事、たとえば子ども向けのコーチや指導者になっても、あるいは普通のOLであったとしても、元気ハツラツ生きていく。それで十分だと思います。

 シブコの影響を受けて、ジュニアゴルファーになったはいいが、その先は結果を出さなければいけない厳しい世界――といった捉え方だけでなく、ジュニアゴルファー時代をボーイスカウトのように、素晴らしい体験だった、とすることもアリだと思います。

 競争をしないで元気に生きるのも、ひとつの人生の選択です。むしろ、こっちのほうが多数派でしょうし。



将来、どんな

「シブコ・チルドレン」が出てくるのか、ほんと楽しみですねぇ

(3)シブコひとりに頼らない
“シブコ様”シンパの今後、という話とは少し異なりますが、子どもたちとゴルフの触れ合いとか、ジュニアの育成とか、彼女の人気に頼るだけではいけません。

 マレーシアの超名門倶楽部『ロイヤル・セランゴール・ゴルフクラブ』には、ジュニア用カリキュラムがあって、週末は家族でコースに来て、子どもたちは専用のジュニアスクールでエクササイズします。

 要するに、同クラブにおいては、ゴルフ場が大人の社交場という範疇を越えて、家族で楽しむ場所になっているのです。このクラブには他に、テニスコートやプールなどもあって、スポーツ施設が充実しており、飽きることがありません。

 日本のジュニアとなると、わざわざスクールに通わなければいけなかったり、ジュニア教室にいちいち親が付いていかなければいけなかったり、いろいろと大変です。

 そうした面倒を減らすためにも、コースが託児所代わりにスクールを運営すればいいのです。そういうコースをどんどん増やして、家族ぐるみ、倶楽部ぐるみでゴルフのある生活を送れるようにする。そういうことが大事じゃないですか。

 何はともあれ、子どもに過度な期待を抱かない。子どもにはのびのびと育ってほしいと思う、今日この頃です。