アメリカ・ニューヨークで行われている「全米オープン」(8月29日~9月11日/ハードコート)の男子シングルス準決勝で、第3シードのスタン・ワウリンカ(スイス)が第6シードの錦織圭(日清食品)を4-6 7-5 6-4 6-2で倒し、全米初…

 アメリカ・ニューヨークで行われている「全米オープン」(8月29日~9月11日/ハードコート)の男子シングルス準決勝で、第3シードのスタン・ワウリンカ(スイス)が第6シードの錦織圭(日清食品)を4-6 7-5 6-4 6-2で倒し、全米初の決勝進出を決めた。

 スイング時にラケットが手から滑り落ちるほど湿度が高かったその夜、ワウリンカは決してパニックに陥らなかった。第1セットを落とし、ワンブレークされていながら、彼は錦織にプレッシャーをかけ、重要なポイントではよりよく対処して、最終的に勝者として浮上した。

 「待たなければならなかった」とワウリンカ。「戦わなければならなかった」。

 それは、いま31歳のワウリンカのキャリアを表現してもいる。28歳までグランドスラム大会の準決勝に進んだことのなかった彼は、今、ここ3年で3度目のグランドスラム・タイトルを目指している。日曜日に第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)と、2015年全仏決勝のリマッチを行うことになった。

 あの日のワウリンカは、2014年全豪決勝でラファエル・ナダル(スペイン)を驚かせたときと同様、トップシードのジョコビッチに対して番狂わせを演じた。彼はグランドスラム大会の決勝で2勝0敗の戦績を誇り、決勝に進出したここ10大会のすべてで勝っている。

 ラウンドが進めば進むほど、彼のプレーはよくなるようだ。今年の全米でのワウリンカは、こんな具合だった。世界ランク64位のダニエル・エバンズ(イギリス)との3回戦は5セットの戦いに勝つ前、彼はマッチポイントをしのがなければならなかった。そして、2009年の全米優勝者であるフアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)との準々決勝では、もはやグランドスラム大会で2度優勝した男らしく見えていた。

 錦織は、全米オープンでトップ10選手に対し5勝0敗という、驚くべき記録とともに、金曜日の準決勝に進んだ。全米は、彼が準決勝以上に進んだ唯一のグランドスラム大会である。彼は2014年大会で決勝に進み、そこで、やはり初めてのグランドスラム決勝進出を果たしたマリン・チリッチ(クロアチア)に敗れた。

 錦織は準々決勝で第2シードのアンディ・マレー(イギリス)に対し、5セットの激戦の末に逆転勝ちした。しかし、準決勝のワウリンカ戦では、第2セットで6つのブレークポイントをワウリンカがしのいだあたりから、錦織の脚が疲労の色を帯び始めた。

 「少しずつ尻上がりに、よりよいプレーをするよう努めた。少しずつ速度を上げ、少しずつ(ショットを)より重くしていくように」とワウリンカ。「僕は彼を走らせるよう努めていた」。

 ワウリンカは、自分自身も「コート上で苦しんでいた」と認めたが、「苦しいのを見せてはならない」と自覚していたと言う。

 「ネガティブになることにエネルギーを使わず、相手に自分が苦しんでいることを見せない、というのが重要なんだ」と彼は言った。

 錦織は、ポイント間に脚を曲げ伸ばしし、エンドチェンジでは重い足取りでゆっくりと自分の椅子に向かった。

 それでも彼は、挫けはしなかった。

 第3、第4セットの双方でワンブレークされたとき、錦織はその都度ブレークバックしている。しかし彼には、リードを奪うだけのエネルギーが残っておらず、ワウリンカのサービスゲームでのチャンスに十分なだけ、つけ込めなかった。彼は、つかんだ15回のブレークチャンスのうち、4回をものにしたにすぎなかった。

 「それは、本当に残念な点だった。特に第2セットのブレークポイントをものにし損ねたことが」と錦織。「あれが最大のミスだった。あのあと、彼はよりいいプレーをし始めてしまった」。

 アーサー・アッシュ・スタジアムの屋根が閉じたことも、今回は錦織の助けにはならなかった。準々決勝の対マレー戦では、それが彼のテニスに有利なコンディションをつくり、錦織のほうに流れを切り替えたように見えていたのだ。だが、準決勝の対ワウリンカ戦では、第3セットの途中で、雨のために屋根が閉じられたあと、第2セットでもそうだったように、最終ゲームでブレークを果たしたのはワウリンカのほうだったのである。

 ワウリンカは、こめかみに指を当ててそのブレークを祝った。そのことについて、「僕は常にコート上で、快適でいられるわけではない。でも、自分自身と戦わなければならないんだ」ということを、思い出させるためだったという。

 「僕が自分をうれしく思い、誇らしく感じるのは、そういうときなんだ」とワウリンカは言った。「自分がやりたいことをあきらめずに続け、持ちこたえ、頑張り抜いたとき、僕は自分を誇りに思う」。(C)AP