アメリカ・ニューヨークで開催されている「全米オープン」(8月29日~9月11日/ハードコート)の男子シングルス準決勝で、第1シードのノバク・ ジョコビッチ(セルビア)が第10シードのガエル・モンフィス(フランス)を6-3 6-2 3-6…
アメリカ・ニューヨークで開催されている「全米オープン」(8月29日~9月11日/ハードコート)の男子シングルス準決勝で、第1シードのノバク・ ジョコビッチ(セルビア)が第10シードのガエル・モンフィス(フランス)を6-3 6-2 3-6 6-2で下して決勝に進出した。
モンフィスはかなりの間、まるで勝ちたいと思っていないように、あるいはそこにいたくないかのように見えていた。
あとでモンフィスが説明したところによれば、世界ナンバーワンでディフェンディング・チャンピオンのジョコビッチを安心させ、ミスにいざなえればと考えた末の“奇想天外な戦略”だったそうだ。しかし、少しの間は機能していたものの、モンフィスが2セットを落とすことを防ぎはしなかった。
それによってモンフィスは、いつもの見応えのある身体能力のすぐれた彼自身に戻ることになる。汗だくのジョコビッチは両肩の痛みを抑えようとトレーナーに助けを求め、一方で相手にならないように見えたモンフィスは突然、強敵に変貌したのだった。
モンフィスは第3セットを取って、試合の行方は第4セットに持ち込まれた。ジョコビッチは怒った様子でシャツを脱ぎ捨てていた。
しかし、最終的に結果がどうなるかわからないように見えたのは短い時間だけだった。まもなくジョコビッチが優位な立場を取り戻し、波乱にとんだ、そして、ときに奇妙な雰囲気だった試合はジョコビッチの勝利で幕を下ろした。
ジョコビッチにとっては、21度目のグランドスラム大会の決勝、そして7度目の全米オープン決勝へ駒を進めたのである。
「実際のところ、奇妙な試合だった」と、ジョコビッチは試合後に言った。「でも、ガエルという予想のつかない選手と対戦するときは、いつもそうだよ」。
とはいえ、この日は特にそうだった。今やジョコビッチとの対戦成績が0勝13敗となったモンフィスは、記者会見の大部分を彼の通常のアプローチを弁護することに費やし、いつものやり方でトライするかもしれないと事前に思っていた、と話した。
ESPNの放送で解説者のジョン・マッケンロー(アメリカ)はモンフィスの頑張りの欠如を激しく非難し、スタジアムの観客たちも彼に野次を投げていた。
「最初の質問は、『君は戦っていないのか?』というようなものだった。ああ、もちろん僕は戦っている」とモンフィスは言った。「僕は『OK、今、プランBに移る』と言うため、コーチにサインを送ったんだ」。
第1セットでジョコビッチはたちまち5-0とリードし、わずか19分後にセットポイントを握ったが、モンフィスはそこでサービスをキープする。5-1となり、ジョコビッチは自分のサービスゲームで40-0とし、さらに3つのセットポイントを握った。それからモンフィスは例の不可解な理由から意図的に負けようとしているかのような振舞いをしたのだが、のちに本人が説明したところによれば、それは攻撃をする気がないふりをしながら相手のベストショットを吸収する、モハメド・アリの『ロープ・ア・ドープ』(ロープにもたれ、相手に効果的パンチを打たせないといった方法)のテニス版だったのだという。
サービスリターンの準備をする際にいつもの身を低くした油断のない構えではなく、モンフィスは注文したエスプレッソ・コーヒーを待っているような何気ない様子でベースラインあたりに立っていた。モンフィスはスライスか、本当に気の入っていない半分スイングするような打ち方でショットを打ち、それからときどき時速160kmのパッシングショットを叩き込んだ。彼は滅多にやったことのないサーブ&ボレーを繰り返し試しさえし、頻繁にミスをおかした。
「変えなければならなかった。ちょっぴり難しかったよ。なぜって、間違いなく見ている人々はそういうものを見る心づもりがなかっただろうから」とモンフィスは言った。「僕は彼の心理の中に入り込み、彼が見たこともない新しい何かを生み出そうとしていたんだ」。
どうしたことか、その戦術はほんの少しの間は効果を発揮したようだ。ジョコビッチは次々にミスやヘマを重ね始め、モンフィスは最終的に今大会で初めてセットを落とす前に3ゲームを連取したのだから。
「完全に奇襲にはまってしまったよ」とジョコビッチはのちに認めた。
モンフィスのプレーについてどう思ったかと聞かれたジョコビッチは、こう答えている。
「ときどき、彼はやや容認できないような振舞いをしていると思ったが、あれは戦略の一環だったのだろう。もし彼がそう言ったなら。彼を信じなければならない」
ジョコビッチはオープン化以降、もっとも“楽”といえる過程でグランドスラム大会の準決勝に進んだ。1回戦から準々決勝までの5人の対戦相手のうち、3人が故障で棄権したのだ。そして、この奇妙な2時間半のドラマが待っていた。
日曜日にジョコビッチは第3シードのスタン・ワウリンカ(スイス)と決勝を戦い、キャリア13度目のグランドスラム・タイトル獲得に挑む。ワウリンカはもうひとつの準決勝で、錦織圭(日本/日清食品)を4-6 7-5 6-4 6-2で下して勝ち上がった。
しかし、ほかのどんな試合もジョコビッチ対モンフィスほど好奇心をそそられるものになりそうもない、と言ってもおそらく間違いにはならないだろう。
第2セットでモンフィスは24ポイントのうち20ポイントを落として5ゲームを連続で失い、脚を引きずっていた。ジョコビッチは第3セットでも観客のブーイングを呼んだモンフィスのダブルフォールトでブレークを果たし、すぐに2-0とリードする。
もはやこれまでか?
いや、そう見えたのもつかの間、突然モンフィスは息を吹き返すのだ。モンフィスはブレークバックして2-2に追いつき、右拳を突き上げた。今や反対にモンフィスを応援する観客たちは大歓声を上げた。そしてモンフィスは、そこから5ゲームを連取するのだ。
第3セット2-5となったところで、ジョコビッチはトレーナーを呼び、左肩のマッサージを受けた。のちにとったメディカルタイムアウトでは、今度は右肩のマッサージを受けている。
試合終盤にはジョコビッチはセカンドサービスを時速129kmか、それ以下で打っていた。これは左手首の故障を気に病みながらニューヨークに到着し、それから1回戦と4回戦で右肘の治療を受けていたジョコビッチにとって、新しい問題の個所である。
とはいえ、体の状態について尋ねられたジョコビッチは、「ありがたいことに問題は過ぎ去った。もう心配の種はない」と答えている。
第3セットと第4セットのポイント間に、ラケットを杖のようにして身をかがめていたのはモンフィスのほうだった。またもの死んだふり、眠ったふりだろうか?おそらく。しかしジョコビッチのほうも湿度の高いコンディションの中で、やや体調が悪そうな様子を見せていた。
何が芝居で何がそうでないのかわからない、奇妙なやりとりのあと、ジョコビッチはこの奇妙な準決勝で勝利を収めた。日曜日は、1月の全豪、6月の全仏に続く、今季3度目のグランドスラム大会決勝を戦うことになる。(C)AP