全21戦で行なわれた2019年シーズンは、ルイス・ハミルトン=11勝、バルテリ・ボッタス=4勝、計15勝という圧倒的な結果でメルセデスAMGが6連覇を達成した。タイトルを争うはずのライバルたちは、フェラーリ=3勝、レッドブル・ホンダ=3勝…

 全21戦で行なわれた2019年シーズンは、ルイス・ハミルトン=11勝、バルテリ・ボッタス=4勝、計15勝という圧倒的な結果でメルセデスAMGが6連覇を達成した。タイトルを争うはずのライバルたちは、フェラーリ=3勝、レッドブル・ホンダ=3勝にとどまった。

 しかし、その数字だけでは見えない拮抗した争いが展開されたシーズンであったことも、また事実だ。とくに今季は、4つのステージにはっきりと分かれていたのが特徴的だった。



年間11勝と圧倒的な強さで2019年を制したルイス・ハミルトン

 第1ステージは開幕からの8戦(第1戦・オーストラリアGP〜第8戦・フランスGP)で、数字上はメルセデスAMGが開幕8連勝を達成した。だが、純粋な速さではフェラーリが拮抗していた。とくに開幕前から序盤数戦は、フェラーリのほうがメルセデスAMGを上回っていたとハミルトン自身が認めている。

「開幕前テストで僕らが実力を見せていないと世間は見ていたようだけど、実際にはあれが真実だった。フェラーリのマシンはすばらしかったし、シーズン序盤はそれをうまく結果に結びつけられなかっただけだ」(ハミルトン)

 開幕前テストの走り始めを行なった時、マシン挙動に苦しんでいたメルセデスAMGはセットアップでなんとかそれを治めた。だが、開幕すると予選ではタイヤを使い切れず、フェラーリの後塵を拝する場面が目立った。

「最大の問題は、タイヤをきちんと理解するということ。それは毎年みんなが直面する課題だけど、とくに今年はその違いが大きかった。たとえば、今年の僕の最大の弱点は予選だったけど、その予選でとてもいいラップを決めることができたと感じていても、(ラップタイムは)周りのライバルほどよくなかったりした」(ハミルトン)

 フェラーリがアグレッシブなパワーユニットの使い方で予選パフォーマンスを向上させたこともあり、メルセデスAMGは予選で苦戦した。しかし、決勝ではフェラーリがトラブルを抱えたり戦略ミスを犯したりと自滅を繰り返し、メルセデスAMGはひとつずつ勝利を拾っていった結果、8連勝という記録が達成されたに過ぎない。

 実際には第2戦・バーレーンGP、第4戦・アゼルバイジャンGP、第7戦・カナダGPはフェラーリが勝っていたはずのレースであり、開幕8戦は「メルセデスAMG=5勝vsフェラーリ=3勝」とかなり拮抗した戦いになっていたはずだった。

 いわば開幕からの第1ステージは、パワーで押すフェラーリを総合力のメルセデスAMGが抑え続けた8戦だったと言える。

 シーズンの第2ステージは、第9戦・オーストリアGPから夏休み前の第12戦・ハンガリーGPまで。

 レッドブル・ホンダが車体の改良によって競争力を取り戻し、一気にメルセデスAMGに迫る速さを身につけてきた。オーストリアGPでは初優勝を遂げ、続く第10戦・イギリスGPでもパワーサーキットであるにもかかわらず、ターボラグの問題がなければポールポジション獲得という走りを見せた。

 そして、第11戦・ドイツGPでは優勝し、ハンガリーGPではついに初ポールポジションを獲得。さらに決勝でも、メルセデスAMGのハミルトンと壮絶な一騎打ちを演じて見せた。

 それに対してフェラーリは、もともとドラッグ(空気抵抗)を減らす設計コンセプトであり、ダウンフォースが乏しい。加えてマシン改良がうまく進まなかったため、コーナリング性能ではメルセデスAMGやレッドブルに対抗できなくなり、シーズンの第2ステージでは完全に後れを取る場面が目立った。

 ある意味では、この第2ステージは純粋なマシンパッケージの速さの争いだったとも言える。

 シーズン第3のステージは、夏休み明けの5戦(第13戦・ベルギーGP〜第17戦・日本GP)だ。

 このステージではフェラーリの戦闘力が急激に増し、5戦連続ポールポジション獲得を果たした。

 これは、パワーユニットのグレーゾーンを突いた使用方法による予選でのパワー向上と、車体の改良によるものだった。その一方でメルセデスAMGとレッドブルが来シーズンに向けて開発リソースを移行させ、今季型マシンの開発を止めたことも影響した。それがフェラーリの性能が急激に向上したように見えた理由だ。

 予選でトップに立ったフェラーリ勢は、決勝ペースが多少遅かろうとレースを有利に進め、コース上で抑え込んで前でフィニッシュする戦略を採った。今のF1ではコース上での追い抜きに1.2〜1.5秒のタイム差が必要で、どんなにレースペースがいいメルセデスAMGであろうとも、ストレートの速いフェラーリを抜くことは簡単ではなかったからだ。

 スパ・フランコルシャンやモンツァ、ソチのようにストレートが長いサーキットでは、そもそもストレートが速いフェラーリの優位性が強かった。

「フェラーリは他チームとは少し異なるフィロソフィでマシンを作り上げてきていたし、少しダウンフォースが少なめで、その代わりにストレートでは速い。それがうまく機能したサーキットはたくさんあったと思う。今のF1ではトラックポジションが重要で、一度前に出られてしまうとストレートでの追い抜きはなかなか難しいからね」(ハミルトン)

 第15戦・シンガポールGPでは新型ノーズの投入によって低速域の挙動が改善され、シャルル・ルクレールがポールポジションを獲得。そして決勝では戦略上の幸運もあって、セバスチャン・ベッテルが優勝を果たした。

 しかし、予選で最速だった第17戦・日本GPでは、決勝でメルセデスAMGが強さを見せて逆転し、フェラーリは太刀打ちができなかった。シーズン終盤、タイヤマネジメントのうまさがメルセデスAMGの強さを支えていたことは間違いない。

「僕らは決勝でタイヤをうまく使い、優れた戦略によってフェラーリを破ることができた。僕もバルテリ(・ボッタス)も、タイヤがタレてしまって後退するような場面はほとんどなかったと思う。チームは本当にすばらしい仕事をしてくれた」

 その一方で、メルセデスAMGはパワーで負けていたことを認めた。ホンダがスペック4を投入してきたシーズン後半戦はとくに苦戦を強いられることになったと、ハミルトンも語っている。

「パワーユニットに関して、信頼性はシーズンを通してすばらしかったけど、パフォーマンスの進歩はそれほどなかった。ホンダもフェラーリもかなり大きくエンジンを進歩させてきたなか、僕らにはやるべきことが残されていた」

 第3ステージでは、フェラーリがパワーを武器に突然の連戦連勝を築き始めた。だが、その覇権は長く続かなかった。

 シーズン最終盤の4戦、それが第4ステージ(第18戦・メキシコGP〜第21戦・アブダビGP)。

 第19戦・アメリカGPを前にFIAが技術指示書を出し、レッドブル・ホンダからの問い合わせに答えるかたちで、「燃料流量センサーが計測しない瞬間も、100kg/hの流量を超えていることは違法である」との見解を明文化した。

 1週間前のメキシコGPの時点からその話し合いが始まったことで、フェラーリは予選で使用していたアグレッシブなパワーユニットモードの使用を控え始めたと言われている。これにより、予選でのフェラーリの圧倒的な速さは失われ、決勝でも優勝争いからは遠ざかることになった。

 そうなると、勢力図は再び夏休み前の第2ステージの状態に戻り、メルセデスAMGとレッドブル・ホンダの激しいトップ争いが繰り広げられるようになった。第3ステージでフェラーリの速さを目の当たりにした彼らが揃って日本GPにマシンアップデートを投入し、このメキシコGPから車体性能をフルに引き出してきたことも追い風になった。

 メキシコGPではレッドブル・ホンダが最速だった。しかし、マックス・フェルスタッペンが予選の黄旗無視でポールポジションを逃し、決勝でも2度の接触で優勝のチャンスを逃した。

 アメリカGPでもポールポジション獲得寸前までいったものの逃し、決勝でも2対1の戦いを強いられて3位に終わった。ブラジルGPではレッドブルが完全に上回り、初のポールトゥウインを達成。しかし、中低速コーナーが多いアブダビGPではメルセデスAMGが強さを見せて、レッドブルは敗れた。

 シーズンを4つのステージに分けて振り返って見ても、メルセデスAMGは常にトップを争う役者のひとりであり続けた。

 どんなチームにも、長いシーズンの中でアップダウンはある。だが、メルセデスAMGは高地や酷暑など特殊な条件下を除いて、ほぼすべてのレースで3番手チームに後退することはなく、優勝争いに加わり続けたのだ。

 そして、ハミルトンは大きなミスを犯さず、「全戦完走で全戦入賞を果たす」という圧倒的な安定感も見せた。また、盤石のタイヤマネジメントやレース戦略もそれを支えた。

 昨年もチーム総合力で強さを見せていたメルセデスAMGが、2019年はさらにその強さを高い次元へと高めてきた。現行パワーユニット規定導入以来、彼らが保持し続けてきたマシンパッケージの優位はもはやない。しかし、それでも彼らは21戦15勝という強さを見せた。

 それは、シーズンのあらゆる場面で安定した速さを発揮できる強さがあったからこその結果だった。