かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」。アクションスポーツやストリートカルチャーのために、ビジネス視点を交えて提言を行う本連載「FIN…

かつてないほど注目を浴びるアクションスポーツシーン。その発展のために、FINEPLAYが送る多角的視点の連載「FINEPLAY INSIGHT」。

アクションスポーツやストリートカルチャーのために、ビジネス視点を交えて提言を行う本連載「FINEPLAY INSIGHT」。今回も前回に続いて、アクションスポーツの人口をさまざまな視点から推測してみようと思います。

今回は、前回の「愛好者人口」や「競技人口」ではなく、「ファン人口」の切り口をオープンデータから読み解いてみたいと思います。

多くのスポーツは、ファン人口>>>競技人口である

前回は、スポーツ庁のデータと総務省の人口統計を用いて、「一年以内に実施した」や「一年以内に特に多く実施した」「これから始めてみたい」というスコアに着目した、どちらかというとプレイヤー側の数字、すなわち競技人口をダンスやサッカーを対比しながら推測しました。

しかしみなさんもお気づきのように、多くのスポーツやエンタテインメント産業は「ファン」によって支えられる(市場が形成される)ものです。むしろ、競技人口よりもファン人口のほうが重要、といってもよいかもしれません。
この連載で繰り返し述べてきたように、ファン人口を含めた総体としての社会的インパクトこそが、メディア環境やスポンサー市場にとって大変重要だからです。それぞれのスポーツがどれくらいのファン人口を抱えているのでしょうか?というのが、今回の連載です。

前回予告でGoogle Trendを用いてみると書いたのですが、それはまた次回にします(笑)。さて、前回も用いたスポーツ庁の「スポーツの実施状況等に関する世論調査」では、観戦行動についても聞いてくれていますので、今回も同調査(2017年11月〜12月)の数字を追ってみたいと思います。

ただし同調査では、実施に関する質問ではダンスやスケートボード等は入っていたものの、観戦についてはアクションスポーツの項目は独立しておらず、ややメジャーなスポーツについての推計になってしまいました。
この点、他の民間調査などを組み合わせるとある程度推計できるので、是非みなさんもチャレンジしてみてください。

ファン人口を観察してみる(1)現地観戦人口

さっそく、スポーツ庁の調査からファン人口を観察してみましょう。スポーツ庁の調査では、「(直接現地で)あなたは、この1年間にどんなスポーツを観戦しましたか。」と、「(テレビやインターネットで)あなたは、この1年間にどんなスポーツを観戦しましたか。」という2項目のデータが公開されています。

ここではまず前者の「(直接現地で)あなたは、この1年間にどんなスポーツを観戦しましたか。」という質問への回答から見ていきましょう。今回は、独断と偏見で主要なスポーツとして11競技を抜き出してみました。下のグラフが、質問に対する回答の割合と、総務省の年齢別人口統計をかけ合わせて算出したグラフです。


棒グラフは、スポーツ庁の調査対象である18〜79歳の人口統計をベースにした現地観戦者の推定人数を表し、オレンジの折れ線グラフは(現地観戦者数)/(競技人口)の倍率を表しています(ここでは「現地観戦レバレッジ」と呼ぶことにします)。ここでの競技人口とは、前回取り上げた「一年以内に特に多く実施した」と答えた人の人数として定義することにします。

現地観戦者数

まず棒グラフをみていくと、主要スポーツでは、プロ野球がダントツで現地観戦者の多いスポーツだということが分かります。一年間で14.3%、約1,380万人もの人が実際にプロ野球の試合を観戦したことがある、と答えています。現地観戦者数で野球の次に多いのがサッカーでおおよそ212万人、続いて大相撲183万人となっています。

ちなみに、マーケティングではこの「(あるブランドやカテゴリを)少なくとも一回買った」人の母集団に対する割合を浸透率と呼んだりするのですが、野球の試合数の多さは、こうした浸透率の高さにかなり寄与していそうですね。マーケティングではこうした接触機会の多さは大変重要な指標ですし、同じ浸透率でも頻度の分布をみていくと多くのヒントが隠されていたりします。

現地観戦レバレッジ

さて、続いて折れ線グラフを眺めてみましょう。折れ線グラフは先にも述べたとおり、現地観戦レバレッジ=(現地観戦者数)/(競技人口)をあらわしています。たとえば競技人口5万人で現地観戦者数も5万人なら現地観戦レバレッジ=1、競技人口5万人で現地観戦者数50万人なら現地観戦レバレッジ=10、という具合です。現地観戦レバレッジは僕が勝手に今回作った造語です。

現地観戦レバレッジでダントツなのは大相撲(19.0倍)です。ただし相撲のみの競技人口データはありませんでしたので、「レスリング・相撲・ボクシング」を合算した推計競技人口を元に算出しています(その割に突出しているので、実際はもっとレバレッジがかかっていると思われます)。次に現地観戦レバレッジが高いのは、ラグビー(13.0倍)です。

今回用いた調査は2018年の調査ですから、前々回(2015年)のラグビーワールドカップで日本代表が南アフリカを倒した影響か、この時点でかなりレバレッジがかかっていますし、棒グラフでもすでにバスケットボールを超える動員があることがわかります。競技人口は少ないのですが、プロだけでなく、高校ラグビー(花園)、大学ラグビー、社会人と、実はかなり裾野が広いスポーツであることも一因としてあるかもしれません。

折れ線グラフの一番下に太字で書いていますが、今回取り上げた11競技の現地観戦レバレッジの平均は4.6倍でした。競技人口の4.6倍の人が試合を見に行ったことがある、というのがこれら11競技の平均値ということになります。
前回取り上げたストリートダンスの推定競技人口は80万〜100万人ほどでしたから、非常に大雑把に言えば、その4.6倍=400万人前後が見に来てもらえるようなものが出来上がれば、ストリートダンスにもこれら11競技のようなビジネス規模が見えてくる、ということになるかもしれません。

あくまで目安ですが…。なかなかアクションスポーツの界隈では「シーン=プレイヤー」という認識の方が多いのですが、こうした視点を取り込んでいくことで色々な機会が見えてくる、目線を高く持てる、ということが期待出来るのではないでしょうか。

ファン人口を観察してみる(2)メディア観戦人口

さて、現地での観戦につづいて、メディアを通じた観戦はどうでしょうか。第4回でも取り上げたとおり、メディア環境というのはアクションスポーツの発展にとって大変重要だと思います。

第4回ではメディアの重要性について、「イベントごとに観客として訪れることが出来る最大人数は、せいぜい数万〜10万人程度ですが、メディアが可能にするのは数千万人単位」と述べましたが、実際にその数を叩いてみたのは今回が初めてです(笑)。

結構、ドキドキしながら数字を入力してみました。下のグラフが、メディアを通じた推定観戦人口と、それを競技人口で割ったレバレッジ(折れ線グラフ、ここでは「メディア観戦レバレッジ」と呼びます)になります。


メディア観戦者数

まず、メディア観戦者は、現地観戦者より圧倒的に多いことが分かります。プロ野球約4,000万人、サッカー約2,900万人、一番少ないバスケットボールでも約453万人という結果になりました。
先程の現地観戦者ではプロ野球がダントツの約1,380万人でしたが、メディア観戦者では多くの競技がそれを軽々と上回っています。メディアって凄いですよね(ホッ)…。

現地観戦におけるプロ野球のダントツさと比べると、競技感で大きな差が開いていない、というのもメディア観戦の特徴のような気がします。見方を変えれば、マスメディアがひとたび本気を出せば、様々なスポーツでこのくらいのリーチは達成できてしまう、ということでもあります。
そのためには「素人が観て面白い」「分かりやすい」「スターの存在」「飽きない」「試合時間」など、さまざまな要因を設計し、揃えて行く必要がありそうです。

メディア観戦レバレッジ

さて、折れ線グラフで示したメディア観戦レバレッジはどうでしょうか。先程の現地観戦レバレッジ平均(4.6倍)と比較すると、こちらは41.9倍と10倍近い広がり方です。メディアを通じた裾野の広がりは圧倒的だということがわかります。
中でも大相撲は234倍、ラグビー(72倍)や体操(65.5倍)も大きくレバレッジがかかっていることが見て取れます。
野球やサッカーなどは競技人口も多いのでレバレッジは30倍弱ですが、それでも棒グラフを見れば最も多くの人々に観てもらっているコンテンツであることには違いありません。

アクションスポーツのカギは、ファン人口?

これらの数字を、アクションスポーツの場合はどのように捉えたらよいでしょうか。
これまで取り上げてきたダンス(ストリートダンス)はひとくくりにするとアクションスポーツの中でも特に競技人口が多いのですが、他のアクションスポーツの実施状況について、スポーツ庁のデータではいくつかの競技をまとめた数字が出ています。以下はそれをまとめたグラフです。


推計競技人口は、サーフィン等が30万人弱、フリークライミング等が10万人弱、インラインスケート等が10万人弱、スノーボードは90万人弱、といったところです。ダンスの18-29歳に対してスノーボードの競技人口がおおよそ倍になっているのが面白いですね。やはり30代以上のボリュームは大きいのだと思います。

さて、それぞれのファン人口はどうでしょうか。ここでカッコよくデータを示したいのですが、残念ながらスポーツ庁の調査では観戦についてはアクションスポーツの個別データがありませんでした。

しかし、先の2つのグラフでみた主要スポーツと同程度の現地観戦レバレッジ(4倍以上)やメディア観戦レバレッジ(40倍以上)を獲得出来ているか、といえば、その感覚はまだないのではと思います。むしろレバレッジ<1となっている競技がほとんどではないでしょうか。ここに、アクションスポーツのチャレンジが明確にあると言えそうです。

難しいのは、レバレッジを獲得すれば人気が出る、というわけではなく、レバレッジは長年積み上げてきた人気の結果である、という点です。雪だるまを転がすように、野球なら100年、サッカーもここ30年、長い年月をかけて多くの人が尽力してきた結果に、大きな敬意を感じざるを得ません。

アクションスポーツの積み上げ方としてはどんなことがあり得るでしょうか。

一つの突破口としてはやはり、第4回でも触れたX GAMESのように「大同集結」することかもしれません。それぞれの競技が1万人を別々に集めるよりも、10競技が集まって10万人集めたほうが、9万人も多くの人が自分の競技を観てくれる確率が上がります。これは現地観戦でもメディア観戦でも、基本的には同じことが言えるのではないでしょうか。その分、スポンサーにとってもメリットがあります。

また、第4回でも書いたように、メディア環境と人気は「ニワトリと卵」です。その視点で言えば、メディア環境を同時に整えうるよう、メディアと組んだ複数競技のツアーやリーグなども未来像としてはあり得ると思います。

シーンの努力による1万人や2万人の集客は本当に素晴らしく、大変な努力を伴うものですが、山は大きく、あと1,000倍多くの人に届ける視点を持つことも大切です。
一方でカルチャーやルーツを大切にする視点も持ち続けるべきなのは自明ですが、バランスを高度に保ちながら今回のようなファン人口を考えていくことは、社会と対話する際の貴重な共通言語になるように思います。

AUTHOR:阿部将顕/Masaaki Abe(@abe2funk)

大学時代からブレイキンを始め、国内外でプレイヤーとして活動しつつも2008年に株式会社博報堂入社。2011年退社後、海外放浪やNPO法人設立を経て独立。現在に至るまで、自動車、テクノロジー、スポーツ、音楽、ファッション、メディア、飲料、アルコール、化粧品等の企業やブランドに対して、経営戦略やマーケティング戦略の策定と実施を行う。
現在、戦略ブティックBOX LLC代表、NPO法人Street Culture Rights共同代表、(公財)日本ダンススポーツ連盟ブレイクダンス部広報委員長。建築学修士および経営管理学修士。