村田諒太(帝拳ジム)にとって”重要な通過点”と言えるゴングが間近に迫っている。12月23日、横浜アリーナで行なわれるWBA世界ミドル級タイトル戦で、同級正規王者の村田はスティーブン・バトラー(カナダ)と対戦する。防衛戦に向けて調整を行なう…

 村田諒太(帝拳ジム)にとって”重要な通過点”と言えるゴングが間近に迫っている。12月23日、横浜アリーナで行なわれるWBA世界ミドル級タイトル戦で、同級正規王者の村田はスティーブン・バトラー(カナダ)と対戦する。




防衛戦に向けて調整を行なう村田

 一度は苦杯を舐めたロブ・ブラント(アメリカ)との7月12日のリマッチで、完璧な形で雪辱を果たした村田。初防衛戦の相手となるバトラーは、世界的には無名だが、勝てばさらなるビッグファイト実現に向けて視界が開ける、重要な一戦であることは間違いない。

 一般的な予想どおり、村田が順調に階段を上がるのか。それともバトラーに番狂わせのチャンスはあるのか。アメリカ、カナダに本拠を置く4人の記者に、今戦に関する3つの質問とその後の村田の展開についての問いをぶつけてみた。ウェブ討論に参加してくれたパネリストの言葉から、この試合の意味と村田の現在地が見えてくる。

【パネリスト】

●ディラン・ヘルナンデス(『ロサンゼルス・タイムズ』のコラムニスト。語学に堪能で、英語、スペイン語、日本語を流暢に話す)

●ライアン・サンガリア(『リングマガジン』のライター。フィリピン系アメリカ人で、アジアのボクシングに精通する)

●フィリップ・セント・マーティン(『BoxRec』のカナダ担当。モントリオール在住で、カナダのボクシングを熟知する)

●ショーン・ナム(『USA TODAY』などで活躍する韓国系アメリカ人ライター。精力的な取材で構築したネットワークによるインサイダー情報に定評がある)

Q1 村田がバトラーに勝つためにやるべきことは?

ヘルナンデス パワーパンチャーの村田は、必要以上にアウトボクシングをしようなどとは考えず、いつもどおりねじ伏せようとすればいい。そういった意味で、ブラントとの2試合はいい勉強の場になったはずだ。パワーでは間違いなく村田に分がある。バトラーにはクイックネスがあるが、恐れるレベルではない。村田が持ち味を発揮すれば、勝利に近づけるだろう。

サンガリア 村田は村田らしく戦えばいい。ブラントとの第1戦での村田は少し待ちすぎで、手数が少なく、一発を狙い過ぎていた。しかし、リマッチでは切迫感が感じられ、うまくプレッシャーをかけていた。ブラントが自分から見て右に動いた際には左フック、左側に動いたときには右ストレートをボディに決めていた。細かい連打のあとに左右に動くバトラーの戦い方は、ブラントと共通点がある。ブラントとの再戦と同様に手数を増やし、バトラーが快適に戦えないようにすれば、村田は優位に戦えるだろう。

セント・マーティン バトラーは、これまで村田が対戦した選手の中でもっともパンチが重い選手だろう。そんなバトラーの力量とパワーを過小評価しなければ、村田は有利になる。カギとなるのは、固いディフェンスとハイテンポな攻め。バトラーは(5月2日の)ビタリ・コピレンコ(ウクライナ)戦で、ボディにダメージを受けた経験があるため、村田もボディを集中的に攻めるべきだ。

ナム 村田にとっては”イージーワーク(簡単な仕事)”だ。村田がブラントとの再戦のときと同じ戦力を保っていれば、バトラーは問題ではないだろう。これまでどおりにプレッシャーをかけ、ワンツーから左ボディを返すコンビネーションを狙っていけばいい。村田のオフェンスはクリエイティブとはいえないが、得意のパンチは研ぎ澄まされている。今回の試合では、手持ちの武器で十分に勝利を手にできるはずだ。

Q2 逆に、バトラーが村田に勝つためにやるべきことは?

ヘルナンデス バトラーが得意とするのは右の強打だが、村田を脅かすほどのパンチかどうかは疑問符がつく。それでも、相手にとっては見づらいパンチかもしれない。(WBSS決勝で)井上尚弥を苦しめたノニト・ドネアの左フックと同じように、とくに試合の序盤では面白い武器になり得るだろう。

 とにかくバトラーは早いラウンドから攻めるべきだ。村田は試合途中での適応が得意ではないため、早い回にダメージを与えればチャンスが出てくるかもしれない。ただ、これまでのバトラーの戦歴や、ビデオで戦力を確認する限り、この試合は相当厳しいものになると思う。

サンガリア 長身で右ストレートを得意とする選手という点で、バトラーは村田とも共通点がある。バトラーにとって、最高のパンチはアッパーカット。村田との第1戦でのブラントも、アッパーカットを効果的に使っていた。それを考えれば、バトラーもコンビネーションの中でアッパーを生かすべきかもしれない。バトラーはブラントよりも優れたパンチャーだから、うまく当てれば有効な武器になるはずだ。

セント・マーティン 時差と環境に適応するため、早い段階で来日したバトラーが、最高の状態で臨んでくることは間違いない。彼は、2年前のブランドン・クック戦(の負け)と、苦戦した今年5月のコピレンコ戦で多くを学んだ。日本の大観衆の前で普段の力が出せるのかは未知数だが、ゲームプランどおりに、ジャブを使い、うまくスタミナ配分をすれば、勝機はあると見ている。

ナム 若く、経験に乏しく、同国のクックにKOされたこともあるバトラーにとって、今戦は厳しい試合になるだろう。バトラーの最大の欠点は、ディフェンスとフットワークが穴だらけなこと。12ラウンドにわたって村田のプレッシャーをかわせるとは思わないし、パンチの技術も洗練されていない。結論として、バトラーはごく平均的な選手。村田の脅威になるとは思えない。ブラントに似た部分が多いが、総合力ではかなり劣るだけに、大舞台でいい結果が出せるとは考え難い。

Q3 どんな試合になるか

ヘルナンデス 村田が4、5ラウンドでKO勝ち。バトラーはもう数ラウンド耐えるかもしれないが、最後は村田の右パンチか、ボディ打ちが決め手になるだろう。

サンガリア バトラーはエキサイティングな選手だが、過去にはボディにダメージを受けたこともあるし、「世界レベル」とは言えないクックに敗れたこともある。そんな戦歴は、彼が世界王者級のファイターではないことを物語っている。村田は地元の利があるし、ブラントとの第1戦で苦杯を舐めた経験から、気を引き締めて臨んでくるはずだ。ブラントとの再戦での村田は、これまでと違う選手に見えた。村田が8、9ラウンドでKO勝利するだろう。

セント・マーティン バトラーの戦術が功を奏し、賢明に戦いさえすれば、番狂わせは可能だと考える。村田はカウンターパンチの標的になりやすい。バトラーは採点上、リードを奪われるかもしれないが、どこかでビッグパンチを打ち込めるだろう。バトラーが9ラウンドにストップ勝ちする。

ナム 6ラウンド以内に村田がKO勝ち。

Q4 村田が今戦に勝った場合、サウル”カネロ”アルバレス(メキシコ)、ゲンナジー・ゴロフキン(カザフスタン)とのビッグファイトのチャンスは訪れるか

ヘルナンデス 間違いなくあり得る。最近のビッグファイトはラスベガスだけでなく、ロサンゼルスやニューヨークでも開催されるようになっている。さらに今月、アンディ・ルイス・ジュニア(アメリカ)とアンソニー・ジョシュア(イギリス)の再戦がサウジアラビアで行なわれたことが示すとおり、プロモーターたちがより大金が動く海外マーケットにも目を向けているのは明らかだ。

 先日、カネロはDAZNのインタビュー中に「日本でのファイトに興味がある」と話していた。カネロ本人が望めばどんな試合も実現するし、DAZNにとっても理にかなうマッチメイク。日本でのビッグファイトが実現しなかったとしたら、そちらのほうが私には驚きだ。

サンガリア カネロと契約を結ぶDAZNは、1戦ごとに膨大な金額を払わなければならない。商品価値でその基準を満たす対戦相手は多くはないが、村田はその限られた選手のひとりだ。ただ、村田の相手としては、キャリアの下り坂にいて、対戦相手のオプションも限られるゴロフキンのほうが適しているのだろう。いずれにしても、村田はいい時代のミドル級で活躍していると言える。

セント・マーティン 今回の試合に勝ったとしても、村田が次戦でカネロ、GGG(ゴロフキンの愛称)と対戦するとは思わない。前戦をライトヘビー級で戦ったカネロはもうミドル級には下りてこないだろうし、ゴロフキンはデメトリアス・アンドレイド(アメリカ)、ダニエル・ジェイコブス(アメリカ)、セルゲイ・デレビャンチェンコ(ウクライナ)といった、DAZN 傘下の選手と戦うのではないか。村田の次戦はブラントとの”ラバーマッチ(結果が1勝1敗で決着をつける試合)”だろう。

ナム 間違いなく可能性はある。多くのお金が動くし、露出面の恩恵は計り知れない。カネロ、ゴロフキンは、「断然有利」と予想されるだろう試合で多くの報酬を手にできる。また、この2人と契約するDAZNにとっても、日本での村田戦となれば金銭的な負担が減るのも大きい。村田陣営にとっては、前戦でデレビャンチェンコに苦戦したゴロフキンとの対戦のほうが”うまみ”は大きい。ゴロフキンには衰えが見えはじめているため、村田はそこにつけ込みたいところだ。