今年の日本は、ラグビーで大いに盛り上がった。日本初開催となるワールドカップの日本代表の決勝トーナメント進出&ベスト8に、にわかラグビーファンがいたるところに誕生した。 その盛り上がりは、関東大学ラグビー対抗戦の伝統の早明戦はもとより、…

 今年の日本は、ラグビーで大いに盛り上がった。日本初開催となるワールドカップの日本代表の決勝トーナメント進出&ベスト8に、にわかラグビーファンがいたるところに誕生した。

 その盛り上がりは、関東大学ラグビー対抗戦の伝統の早明戦はもとより、大学ラグビーの日本一を決定する大学選手権の試合会場の熱気からも実感できるほど、今もなお継続中となっている。

 こうした中、12月27日から、ラグビーの聖地と呼ばれる大阪の花園で、第99回全国高等学校ラグビーフットボール大会が開幕する。高校生ラガーマンにとっての花園とは、高校球児にとっての甲子園に匹敵する憧れの地。全国都道府県予選を勝ち進んできた51校(北海道と東京都からは2校ずつ、大阪からは3校の出場)がこの地に集結し、高校ラグビーの頂点を懸けて戦うのだ。

 そして、今大会、この花園での初勝利を目指す出場校のひとつに、埼玉県立浦和高等学校(通称・浦高)がいる。

 浦高は1895年の創立で、来年の2020年には125周年を迎える。「文を尊び、武を盛んにする」という「尚文昌武(しょうぶんしょうぶ)」の校訓のもと、いわゆる「文武両道」を地でいく公立の男子校だ。

 昨年度の東京大学合格者数は41名。高校別合格者ランキングは全国15位で、公立高校だけを見ると、東京の都立日比谷高校に続き2位になる。スポーツで好成績を収めた進学校が文武両道と称されることは多いが、浦高の「文」はそうした中でもきわめてハイレベルといっていいだろう。

 加えて、部活動が盛んで、運動部では水泳部やカヌー部などがインターハイの常連であるだけでなく、文化部もグリー部や囲碁部などが全国大会に出場し、クイズ研究会は過去に全国高等学校クイズ選手権を制したことも。

 さらに、1年生が全員参加する伊豆弓ヶ浜での臨海学校や、全校生徒参加の茨城県古河市までの50キロ余りを走破する強歩大会、毎学期の中間・期末テスト後に開催される全学年クラス対抗のスポーツ大会などなど、学校行事の中にも多くのスポーツイベントが目白押しの高校なのだ。



「文武両道」の公立男子校として、花園での初勝利を目指す浦高ラグビー部

 そんな浦高ラグビー部が、初めて冬の全国大会出場を決めたのが1959年。当時、花園ラグビー場ではなく西宮球技場で開かれ、翌年の元旦から開幕した第39回大会において、浦高は1回戦で大阪代表の四條畷高校と当たり、3対11で敗北を喫してしまう。

 その後、浦高ラグビー部が再び冬の全国大会の舞台に立つのは、2013年の第93回大会まで待たなくてはならない。1回戦の試合当日は、54大会ぶりの快挙に歓喜した1万人近くのラグビー部OBなどの卒業生と在校生が花園ラグビー場を埋め尽くし、圧倒的なホームアドバンテージを演出したものの、滋賀代表の光泉高校に12対22でノーサイド。またしても花園での初勝利はお預けになってしまった。

 こうした過去を経て、6年ぶりに埼玉の県予選を制した今年。3度目の全国大会出場の切符を手にした浦高ラグビー部は、花園での初勝利に向かっての第一歩を、再度、踏み出すことになる。

 その浦高ラグビー部の「文武両道」を垣間見るため、JR京浜東北線・北浦和駅東口から徒歩10分のところにある浦高に足を運んでみた。

* * *

 第99回全国高校ラグビー大会の抽選会がおこなわれ、浦高の対戦相手が岡山代表の玉島高校に決定した直後の12月10日。

 この日は2学期の期末テストの初日だった。

 午前中に初日のテストが終わり、生徒たちが浦高のシンボルである正門奥にある銀杏の樹の脇を通り抜け、残りのテスト科目に備えようと足早に帰宅する。

 通常、テスト期間が終了するまで部活動は休止なのだが、花園に出場することになったラグビー部は特例で、前日の雨でちょっとぬかるんだグランドに集結、午後からレギュラーを中心とした2・3年生が練習に励んでいた。



練習中は選手たちだけでプレーについて話し合う場面も多い

「僕は、彼らに自由に考える時間を与えるようにしたんです。練習中も、できる限り任せられるところは彼らに任せて、チームで話し合わせたりするようにしてみたんです」

 そう語ってくれたのが、自身も浦高ラグビー部出身で、前回の2013年にはコーチとして花園を経験し、今回は監督として花園に乗り込む三宅邦隆先生。

「6年前のチームは、前監督の小林剛先生が、どちらかというと丁寧に細かく教え込んでいく指導をしていたんですよ。その中で、僕もいろいろと学ばせてもらって、そこに試合がない日曜日はオフにしてみたり、平日のうちの木曜日をセルフトレーニングにあてて、トレーニングしてもよし、勉強してもよしという日にしてみたりと、僕なりのエッセンスを加えてみたんです」

 これこそが、ラグビー部員たちに自主的に考えるクセをつけさせていくという、三宅先生オリジナルのアイディアだった。

「今の浦高の生徒って、バカになり切れてないっていうか、変に優等生というか、失敗を恐れるマインドっていうのがあって、何かこう突き抜けられない感じがあるかなと。だから、ラグビーもチャレンジしないで、無難に無難にっていうマインドになりやすい。でも、『そうじゃないよ、いっぱいミスしてもいいんだよ。ミスを恐れて消極的なプレーをしたら、厳しく怒るよ』って、僕は言い続けてきたんです」



ラグビー部員たちが自ら課題を見つけ出すように導く三宅監督

 確かに、この日の練習でも三宅先生が練習のポイントを伝えた後、ラグビー部員たちは自分たちでその意味を考え、自分たちでチームメイト同士がコミュニケーションを取り、自分たちで最善のプレーを見つけながら練習を繰り返していた。

 そうした三宅先生の想いがラグビー部員たちにも伝わり、血や肉や骨になっていった結果が、今回の花園出場になったのだろうか。

 この点について、今度は逆に、三宅先生の指導を受けるラグビー部員たちをまとめるキャプテンの松永拓実君(3年)に聞いてみた。

* * *

「自分は幼稚園でラグビーを始めて、小中学校とラグビーをして、浦高でラグビーを続けたいと思って入学したんですけど、入ってみたらラグビー初心者ばかりでビックリしました。でも、それ以上に、その初心者がここまで成長できるということにも、今はビックリしています」

 松永キャプテンが言う通り、事実、浦高ラグビー部員51名のうち、ラグビー経験者は3名だけ。

 そんなラグビー初心者の普通の公立高校の生徒が、3年間で県予選を勝ち上がり、花園の大舞台に立つほどに成長してしまう。これは、三宅先生の考えがラグビー部員たちに理解され、その想いが全員に伝わっている、まさに証(あかし)ということになるのではないだろうか。

「それと、三宅先生には『一流の文武両道になれ!』とも言われてるんです」

 そのきっかけは今年の春、浦高ラグビー部が全国選抜に出場した時のこと。ウェブにアップされた浦高についての記事に、「部活動で全国に行っても負けるだけ。勉強も浪人ばかりで現役で大学に行くヤツはいない。浦高の文武両道は二流」という、心無いコメントが書き込まれたことがあった。

 これに対し、三宅先生が「だったら、文武両道でも一流を目指そうよ! 部活を一生懸命やるのと同じぐらい、勉強も同じぐらい全力でやる。それをラグビー部でやってやろうじゃないか!」と、部員たちを前に話をしてくれたそうだ。

「だから、自分たちは花園に行ったからって、勉強はいいやって考えにはならないようにしようと思ってるんです。花園でもいつも通りにやろうって。いつも通り、みんなで勉強もしてきたいと思ってます。センター試験も控えていますし、みんな現役での大学合格も目指していますんで!」



松永キャプテンはラグビーも勉強も花園で全力を尽くす

 そして、いつも通りの生活をする中で、花園での初勝利を手にしたいと松永キャプテンは、最後に力強く語ってくれた。

「今年のチームは浦高伝統のディフェンスだけでなく、そこにアタックを重視した練習を、この1年間積み重ねてきました。その成果を花園で出して、攻めて点を取って、勝ちにいきたいと思っています」

 浦高ラグビー部の花園でのキックオフは、12月27日の12時30分。

 開会式直後の第1グラウンドで、浦高の「一流の文武両道」が試されようとしている。