クラブW杯準決勝、アジア王者アルヒラルとの一戦は、フラメンゴの選手にとって、ある意味で決勝以上に大きなプレッシャーがかかる試合だった。 勝てば決勝へ進み、おそらくは欧州王者リバプールと対戦する(準決勝のリバプール対モンテレイ戦は翌日だった…

 クラブW杯準決勝、アジア王者アルヒラルとの一戦は、フラメンゴの選手にとって、ある意味で決勝以上に大きなプレッシャーがかかる試合だった。

 勝てば決勝へ進み、おそらくは欧州王者リバプールと対戦する(準決勝のリバプール対モンテレイ戦は翌日だった)。1981年にジーコらを擁して第1回トヨタカップを制覇した時と奇しくも同じ相手である。欧州王者を倒して38年ぶり2度目の世界クラブ王者となったら、”伝説のチーム”と並んでクラブ史に永遠に残るのだ。

 しかし、もし敗れたら、今季勝ち取ったコパ・リベルタドーレス、ブラジル・セリエA、リオデジャネイロ州選手権の3冠の価値が半減しかねない。これまで大威張りでリオの町を闊歩してきたフラメンギスタ(フラメンゴファン)も、ライバルクラブのファンからここぞとばかりに嘲笑されるだろう。
  
 近年、欧州と南米のクラブの財力の差は開く一方だ。欧州のビッグクラブが世界選抜のようなチームを編成するのに対し、南米のクラブは優秀な選手を育てても、欧州のクラブへ売り渡さざるをえない。だから、クラブ杯決勝で欧州王者に敗れるのは、ある意味でやむをえない(過去10年間、南米クラブ王者が決勝へ進出した6回のうち、欧州王者を倒したのは、2012年にチェルシーに勝利したコリンチャンスだけ)。しかし、準決勝でアジア、アフリカ、北中米のクラブに敗れて決勝にすら届かないというのは、この上ない屈辱なのである。

 このような状況で、フラメンゴの選手たちは極めて神経質になっていた。



クラブW杯準決勝でアルヒラルに逆転勝利し、ホッとした表情のフラメンゴの選手たち

 前半、フラメンゴはアルヒラルに高い位置から強烈なプレスを受ける。これは十分に予想されたことだったが、動きが固く、スピードに欠け、ガブリエル、ブルーノ・エンリケらが裏のスペースへ走り込もうとしても、マーカーを出し抜くことができない。また、ボランチで攻守の要となるべきジェルソンに精彩がなく、ピッチ中央を右往左往するだけだった。

 16分、前半のフラメンゴを象徴するようなシーンがあった。左CKを相手GKがパンチングで逃れようとしたが、ゴール前でフリーのジェルソンに渡った。願ってもないチャンス。しかし、”ボールを置きにいった”シュートは、ゴールポストの脇へ。ふだんの彼の思い切りのいいプレーからは考えられない、中途半端な一撃だった。

 その直後、左サイドを崩されて決定機を作られ、さらにそのまた2分後、左SBフィリペ・ルイスの判断ミスから再び左サイドを突破され、クロスをサレム・アル・ドサリに押し込まれて失点した。

 フラメンゴはフィリペ・ルイスとCBパブロ・マリの左サイドに弱点があり、アルヒラルに再三、突破されてピンチを招いていた。失点後、ジョルジ・ジェズス監督は、左サイドの守備の強化と攻撃の活性化を狙って、フォーメーションを4-2-3-1から2トップの4-1-3-2に変えたが、さしたる効果はない。その後は一度も決定機を作れないまま、前半を終えた。

 実は、ジェズス監督は昨年6月から今年1月末まで、アルヒラルを率いていた。本人も、「今のチームの土台を作ったのは自分だ」と語っており、主力選手の特徴は熟知している。

 ハーフタイムで、「後半、向こうのプレー強度は必ず落ちる。スペースへ走り込んで決定機を作れば、逆転できる」と選手たちを鼓舞した。

 その言葉どおり、後半のアルヒラルのスピードと運動量に陰りが見えた。するとフラメンゴは4分、右サイドに深い位置へ走り込んでパスを受けたFWブルーノ・エンリケが折り返し、ウルグアイ代表MFジオルジアン・デ・アラスカエタが押し込んで同点に追いつく。

 29分、不調のジェルソンの代わりに経験豊かで勝負強いMFジエゴが入ると、コパ・リベルタドーレス決勝リーベルプレート戦と同様、決定的な働きをする。33分、ジエゴが右サイドのスペースへ正確なパスを送る。ラフィーニャのニアサイドへのクロスを、ブルーノ・エンリケが頭で押し込んで逆転。さらにその4分後、ジエゴが左サイドのスペースへパスを差し入れ、ブルーノ・エンリケからの低くて強いクロスが、相手のオウンゴールを誘発した。

 フラメンゴは前半こそ苦しんだが、ハーフタイムのジェズス監督の的確な指示、ブルーノ・エンリケの高い個人能力、勝負どころで投入されたジエゴの効果的なプレーで、結果的にはアジア王者に力の差を見せつけた。

 決勝で対戦するリバプールも、準決勝で北中米王者モンテレイ(メキシコ)の粘り強い守備と手数をかけない攻撃に苦しんだ。ただし、レギュラー数人を温存していたし、大会初戦ならではの固さもあった。

 大会前からジェズス監督が「優勝候補はリバプール」と繰り返していたように、実力では欧州王者が上だろう(フラメンゴの実力は、欧州チャンピオンズリーグのベスト8くらいか)。相手陣内でのプレスからのボール奪取の迫力はすさまじく、こんなチームは南米にはいない。攻撃力が自慢のフラメンゴといえども、攻略するのは容易ではあるまい。逆に、弱点である左サイドをモハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノらに突かれて先制されるようなら苦しくなる。

 フラメンゴが勝つには、サイドの守備を強化してサディオ・マネ、サラーの突破を封じ、広範囲に動き回るフィルミーノもしっかりつかまえること。前半を無失点で切り抜け、ジェルソンが攻守両面で貢献し、積極的なサイド攻撃、さらにはブルーノ・エンリケのスピードから決定機を作り、ガブリエルの決定力に期待したい。厳しい展開となれば、ジエゴという切り札もいる。

 フラメンゴの生ける伝説ジーコは、「アタッカーたちが厳しくマークされるのは間違いない。ボランチのウィリアン・アロンの意表を突いた攻撃参加に期待したい」と、やや意外な見方を示した。

 準決勝には約8000人のフラメンギスタがつめかけて声援を送ったが、12月21日の決勝ではその数が1万5000人ほどに増えると予想されている。彼らの熱烈な応援で、ハリファ国際スタジアムを本拠地マラカナンスタジアムのような雰囲気に変え、フラメンゴがブラジル特有の創造性、意外性、そして勝負強さを発揮できれば、非常に面白い試合となるのではないか。