元スペイン代表FWダビド・ビジャ(38歳)が、いよいよスパイクを脱ぐ日が近づいてきた。今シーズン、ヴィッセル神戸に入団し、リーグ戦は13得点を記録(1位と2点差の5位)。十分に健在ぶりをアピールしたが、本人は「サッカーに終わらされるのでは…
元スペイン代表FWダビド・ビジャ(38歳)が、いよいよスパイクを脱ぐ日が近づいてきた。今シーズン、ヴィッセル神戸に入団し、リーグ戦は13得点を記録(1位と2点差の5位)。十分に健在ぶりをアピールしたが、本人は「サッカーに終わらされるのではなく、自ら幕を引く」という引き際を選んだ。
「みんな、タイトルやゴール数に目が行くだろう。しかし、フットボールはそれだけではない。大切な友人やかけがえのない経験、その時間を楽しむことができたし、豊かな人生になったと思う」
引退に際してのビジャの声明に、その人生観が集約されていた。華やかさを求めず、チームのひとりとして戦った。一方で責任を背負うことをためらわず、ひたすら目の前の勝利を目指した。
ビジャが、「世界最高のストライカー」と尊敬される理由だ。
Jリーグ最終節終了後のセレモニーで、盟友アンドレス・イニエスタと
ビジャは2001年6月に2部スポルティング・ヒホンのトップチームでデビュー後、ゴールゲッターとして生きてきた。10代でスタメンをつかむと、2003年に移籍した1部サラゴサでも得点を量産。2005年には当時、優勝を争っていたバレンシアに移籍し、リーガ有数のストライカーとなった。2009年にはリーグ自己最多、同クラブ史に残る28得点を記録している。
キャリアのハイライトと言えるのが、2010-11シーズンだろうか。
2010年、スペイン代表として勝ち取った南アフリカワールドカップ優勝と得点王の肩書きをひっさげ、バルセロナへ移籍。リーガ・エスパニョーラ、チャンピオンズリーグを圧倒的な攻撃力で制覇した伝説的チームの一翼を担った。サミュエル・エトー、ズラタン・イブラヒモビッチなど、点取り屋と折り合いが悪かったジョゼップ・グアルディオラ監督をも、唸らせた。
ビジャはバルサでサイドのポジションを任され、チームプレーにアジャストしながら、ゴールも決めている。守備を献身的に行ない、味方のためにスペースを作る動きもこなしつつ、エゴを出さない。リオネル・メッシという存在とも共存できた。
「非常に賢いFW」と、グアルディオラはそのインテリジェンスを激賞している。
ビジャは、戦術的な知性が突出して高いストライカーだと言える。調和する能力が高い。最も理解し合っていたのが、”賢者”アンドレス・イニエスタで、スペイン代表、バルサ、そして神戸でお互いの力を引き出し合っている。
しかし、ビジャがビジャたり得た理由は、やはり戦いにおける覇気にあった。
「信じられないほど、負けたあとのダビドは機嫌が悪いよ。負けた自分を許せないんだ」
今季序盤、神戸を率いたフアン・マヌエル・リージョ監督が洩らしていたことがあった。その負けず嫌いは、少年時代から変わっていない。
「ダビドは試合に負けて泣いたことなどない。いつも怒っていたよ。ゴールを外してもそうだ。とても機嫌が悪くなった。あいつにとっては、ゴールして勝つことが人生そのものなんだ」
かつて、生まれ故郷のトゥイージャを取材した時、父親メルから聞いた言葉である。
ビジャはひたすら勝つために、ゴールする技術を修練してきたのだろう。両足でシュートを打て、振りが速いだけでない。ステップも細かいため、GKにタイミングを読ませない。
なにより、シュートまで持ち込む形を無数に持っている。右でも左でもヘディングでも、クロスでもミドルでも、FKでもPKでも。今シーズンのJ1で、ビジャのシュート本数は、二桁以上ゴールを記録した選手の中で最多だ。
ビジャは、誰よりも雄々しい選手と言える。ストライカーとして、ゴールを決める任務に背を向けたことがない。その使命を果たすことが、彼の人生だった。どのチームに行っても、ゴールの山を築いており、おかげでチームは栄光に浴したのだ。
バルサからアトレティコ・マドリードへ移籍し、「落ち目」とささやかれた時でさえそうだった。アトレティコでも見事、二桁得点を記録。リーガ・エスパニョーラ優勝をもたらしているのだ。
スペイン代表としても、ビジャはゴールで時代を作った。ユーロ2008、南アフリカワールドカップで得点王に輝き、そのどちらの大会も優勝を飾っている。ラウル・ゴンサレス、フェルナンド・トーレスを抑えてスペイン代表歴代最多得点を誇るだけでなく、誰よりも多くのタイトルを獲った選手である。
はたして、ビジャはゴールで有終の美を飾れるのか--。12月21日、神戸は天皇杯準決勝で清水エスパルスと対戦。元日には、こけら落としとなる新国立競技場で決勝戦が予定されている。