Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由元サガン鳥栖 フェルナンド・トーレス(2)今年27年目のシーズンを終えたJリーグ。現在は、じつに多くの国から、さまざまな外国籍選手がやってきてプレーするようになった。彼らはなぜ日本でのプレーを選…

Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由

元サガン鳥栖 フェルナンド・トーレス(2)

今年27年目のシーズンを終えたJリーグ。現在は、じつに多くの国から、さまざまな外国籍選手がやってきてプレーするようになった。彼らはなぜ日本でのプレーを選んだのか。日本でのサッカーや、日本での生活をどう感じているのか? この連載では、彼らの本音を聞いていく。

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 スペイン黄金時代の始まりを告げるEURO2008ファイナルで決勝点を決め、その大会の得点王になった。そこから2010年W杯、EURO2012と、史上初のメジャートーナメント3連覇を果たし、チェルシー時代にはチャンピオンズリーグも制している。それが、今年の夏、サガン鳥栖で現役を引退したフェルナンド・トーレスだ。


2019年8月に、日本で現役を引退したフェルナンド・トーレス

 photo by Kyodo News

 長年、世界のトップレベルでプレーし続けてきた彼には、たくさんの強力なライバルがいたはずだ。なかでもとくに印象に残っているのは、こんなディフェンダーたちだという。

「プレミアリーグでプレーしている頃は、マンチェスター・ユナイテッドのネマニャ・ビディッチやリオ・ファーディナンド、チェルシーのジョン・テリーらが手強かった。なかなか自由にさせてもらえなかったよ。僕はキャリアを通じて、よきライバルたちに恵まれた。だからひとりを選ぶのは難しいけれど、どうしてもというなら、バルセロナのカルレス・プジョルだと言おう。

 彼はタフでハードなディフェンダーだけど、フェアな選手でもあったから、いつも清々しい対戦ができた。その頃の僕にとって、プジョルとのマッチアップは大きなモチベーションになっていた。いつも本当に楽しみにしていて、最高の準備をして試合に臨んでいたよ。彼のような難しい相手のマークを振りほどいてゴールを決めることが、最高の喜びだった」

 そして、現役引退までの1年ほどを過ごしたJリーグにも、彼を悩ませた守備者がいたと言う。

「とくに印象に残っている相手は、浦和レッズの槙野(智章)だね。彼もすごく厄介な相手だった。でも試合が終わると、互いを称え合い、時にはピッチの外でも顔を合わせて、いろんな話をしたよ」

 また、サガン鳥栖に移籍する前からたくさんのJリーグの試合を観ていたというトーレスには、お気に入りの日本人選手もいる。やはりというべきか、それは黄金時代のスペイン代表にも通じる、スキルフルなMFだ。

「川崎フロンターレの中村憲剛。彼のプレーは観ていて楽しいし、飽きないよね。大好きだよ。常に落ち着いて相手のライン間でボールを受け、美しいターンをして、相手の間隙に鋭いパスを通す。そんな選手は、ずっと観ていられるよ」

 またトーレスは日本が誇る10代の特別な才能についても、しっかりと認識している。今まさに彼の母国スペインで研鑽を積んでいる久保建英のことを、次のように語った。

「彼は今、スペインで貴重な経験を積んでいるところだ。間違いなく、大きな才能とポテンシャルを備えているから、それに見合う選手に成長してほしい。彼はとても賢い青年だ。インタビューを見ると、地に足がついていることがよくわかる。それから、バルセロナのアカデミーに何年もいたから、すでにスペインのことはよく知っているはず。

 つまり、彼には成功するための要素がすべて揃っている。だから継続的に試合に出場していけば、その特大の才能が開花していくはずだ。すばらしい未来が待っていると思うよ」

 そして鳥栖のアドバイザーになった今、クラブだけにとどまらず、日本全体の育成について思うところがあるという。トーレスの提言はこうだ。

「日本にもよい選手はたくさんいる。ものすごいポテンシャルを感じさせる若者も目にしてきた。ただ、それをしっかり伸ばせているかといえば、そうではないと思ってしまう場面もあった。

 フットボールを好きになり、ボールを蹴り始め、プロの選手になりたいと夢を持つ少年たちには、正しいことを教えなければならない。それはトレーニングだけではなく、生活や行動など、多岐にわたる。実際、僕は日本でプロになった若手をたくさん観てきたけれど、なかにはまだまだ子どものようなメンタリティーの選手がいる。これは変えなければならないことのひとつだと思う。

 フットボールはエンターテイメントというよりも、コンペティションだと理解する必要がある。日本のフットボールをさらに向上させていくには、こうしたメンタリティーをなるべく早く変えたほうがいい」



自らプレーしたJリーグについての印象を語るフェルナンド・トーレス

 またJリーグについても、正直な印象をこう述べた。

「選手の能力をチームの力にできていないチームがあると思う。よい選手が何人かいたとしても、チームとして機能していなければ、トップチームにはなれない。あるいは、そのようなチームでも1度くらいは優勝できるかもしれないけれど、次のシーズンに降格してしまったりする。それは実際に日本で起きてきたことだよね。

 フットボールでカギとなるのは継続性だ。これはすごく大事なことなんだ。たとえ能力が劣るチームでも、団結力と継続性があれば、リーグ優勝だって不可能ではないからね」

(つづく)

フェルナンド・トーレス
Fernando Torres/1984年3月20日生まれ。スペイン・マドリード州出身。数々のビッグクラブでプレーし、スペイン代表での多くのタイトルを獲得したFW。2018年7月にサガン鳥栖への移籍を発表し、Jリーグでプレー。2019年8月に現役を引退した。アトレティコ・マドリード→リバプール→チェルシー→ミラン→アトレティコ・マドリード→サガン鳥栖。