アメリカ・ニューヨークで開催されている「全米オープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月29日~9月11日/ハードコート)の男子シングルス準々決勝。 通常、グランドスラムの準決勝に進出するには、5試合を戦い抜いて勝つことが必要となる。と…

 アメリカ・ニューヨークで開催されている「全米オープン」(アメリカ・ニューヨーク/本戦8月29日~9月11日/ハードコート)の男子シングルス準々決勝。

 通常、グランドスラムの準決勝に進出するには、5試合を戦い抜いて勝つことが必要となる。ところが、第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)はそこにたどりつくのに、わずか2試合しかプレーしなかった。というのも、3人の対戦相手が故障によって棄権したからである。

 火曜日の夜、第9シードのジョーウィルフリード・ツォンガ(フランス)が左膝の痛みのためにプレーをやめたとき、世界1位で前年度覇者のジョコビッチは、またも大きな労力を費やすことなく全米オープンを勝ち上がり、ベスト4に駒を進めた。

 この準々決勝の最初の2セットは、6-3 6-2でジョコビッチのものとなった。続くエンドチェンジの際にツォンガはトレーナーを呼び、左膝の下にテーピングを施した。彼らは第3セットをプレーし始め、1ポイントだけプレーした----ツォンガがダブルフォールトし、そこで試合から棄権したのだ。

 これに先立ち、ジョコビッチの対戦相手ふたりがすでに棄権していたために、ツォンガの棄権は特別な色を帯びた。ジョコビッチの2回戦の相手、イリ・ベセリ(チェコ)は左前腕の痛みを理由に試合開始前に棄権を表明。それから、3回戦をプレーしたミカエル・ユーズニー(ロシア)もわずか31分のプレー、6ゲームのあとに左ハムストリングの故障で途中棄権した。

 「また、決勝まであと1試合というところまできた。大会が進むにつれ、よくなってきているように感じている」とジョコビッチ。「もちろん、この大会は僕にとって非常に珍しい、独特なものとなっている。僕はこれまで、こんなことは一度も体験したことがなかった。準決勝までに対戦相手の棄権が3度もあるなんて」。

 ツォンガはその試合で痛みがきた瞬間に、「僕にとってもう終わりだと、すぐにわかった」という。

 「ただでさえ、世界最高の選手のひとりと戦うのはたいへんだが、その上、膝まで痛めてしまったのでは、2セットダウンから挽回するチャンスはまったく残されていなかった」とツォンガは言った。

 金曜日にジョコビッチは、第10シードのガエル・モンフィス(フランス)と対戦する。モンフィスは、このジョコビッチの試合に先立ち、フランス人対決となった準々決勝で、4回戦で第4シードのラファエル・ナダル(スペイン)を破ったルカ・プイユ(フランス)を退けていた。彼はほんのわずかに華やかさの味を加えただけの非常に安定したプレーを見せ、この日ミスの多かったプイユを6-4 6-3 6-3で退けて、2008年以来のグランドスラム大会準決勝に駒を進めたのである。

 ジョコビッチはフラッシング・メドウで何度も最後のほうまで勝ち上がっているが、全米のタイトルは彼の「12」のグランドスラム・タイトルのうちの、わずか2つにすぎない(2011年と2015年)。彼はここ10年で決勝で4度、準決勝で3度、敗れている。

 このところ、誰もジョコビッチがコート上でフルに戦うところを見ていないという理由から、彼が今、どれくらいいいプレーができるのかを正確に知るのは難しい。彼はここまで5ラウンドを通し、6時間半弱しかプレーしていないのだ。

 初めての全仏タイトルを獲って、男子では50年ぶりの4大会連続でのグランドスラム優勝を決めたあと、ジョコビッチはウィンブルドン3回戦で予想外の敗戦を喫した。その後、彼はトロントのマスターズで優勝し、よい復帰を果たしたが、左手首に痛みを覚えていたリオ五輪では1回戦で敗れ、それから同じ故障でシンシナティのマスターズを欠場した。

 全米が始まってからも、ジョコビッチはプレーした1回戦と4回戦でトレーナーを呼んで治療を受けていた。それゆえ相手の棄権でフリーパスを得たのは、彼にとって悪いことではなかったはずだ。

 「シーズンのこの時期に、それも、ここ1ヵ月半に僕が抱えた体の問題を考慮すれば、これは僕に必要だった、そして僕が願っていたシナリオだったかもしれない。多くのオフ日を得て、体を回復させることができた」とジョコビッチは言った。「今、僕はピークに非常に近いと感じている。それが、僕がいたいと思っているポジションだ」。

 それは、これから対戦するモンフィスにとって、恐ろしい考えかもしれない。ジョコビッチが絶好調のとき、彼のリターン、コートをカバーする能力、グラウンドストロークは、今日のテニス界で最良のものとなる。

 先週30歳になったモンフィスは、一度だけグランドスラム大会の準決勝に進んだことがある。それは8年半前で、全仏オープンのパリの観衆の前でのことだ。とはいえ、彼はこの大会を通して素晴らしいプレーを見せている。

 「今日、いいテニスができてうれしいよ。僕はいい波長、いい波に乗っていた。カウンター(受けて切り返す局面)と攻撃の間のリズムもよかった。僕のボールは、フォア、バックとも重かった」とモンフィスは試合後、手応えを口にした。

 またジョコビッチは、「ガエルのプレーを見るのは大好きだ。彼は僕がチケット代を払ってでもぜひ観たいと思う、数少ない選手のひとりだよ」と言う。「彼は非常にカリスマ的だ。彼は微笑を浮かべながらプレーする。テニスを、人生を楽しんでいる」。

 一方、ここに至るまでに5セットマッチを繰り返してきたプイユは、燃料切れとなってしまったようだ。準々決勝での彼は44対15と、モンフィスの3倍はアンフォーストエラーをおかした。しかし、敗れたとはいえプイユが先週まで全米オープンで1勝をしたことも、5セットマッチに勝ったこともなかったことを考えれば、彼の成長を認めてしかるべきだろう。

 日曜日のナダルに対する4時間を超えるフルセットのバトルは、プイユにとって連続3度目の5セットマッチだった。1968年に始まったオープン化以降の時代に、グランドスラム大会において4度連続で5セットマッチに勝った選手はひとりも存在しない。

 「確かに、ナダル戦のあとには疲労困憊していて、夜もよく眠れなかった」と、プイユは試合後に打ち明けた。

 「ここまでの試合のせいで、今日もかなり疲れていた。大会開始から、たぶん13時間はコート上で過ごしていたからね。だから今日、ガエルと戦うのにほしかったエネルギーが残っていなかった。歯がゆいし、がっかりだけど、でも今日できるベストは尽くした。最後まで挽回しようと努めたんだ」。(C)AP