アメリカ・ニューヨークで開催中の「全米オープン」(8月29日~9月11日)は9日目、男子シングルスの準々決勝2試合、女子シングルスの準々決勝2試合などが行われた。 男子は第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)、第10シードのガエル…

 アメリカ・ニューヨークで開催中の「全米オープン」(8月29日~9月11日)は9日目、男子シングルスの準々決勝2試合、女子シングルスの準々決勝2試合などが行われた。

 男子は第1シードのノバク・ジョコビッチ(セルビア)、第10シードのガエル・モンフィス(フランス)が準決勝に進出。女子は元世界1位ながら現在はノーシードのカロライン・ウォズニアッキ(デンマーク)と第2シードのアンジェリク・ケルバー(ドイツ)が4強に名乗りをあげた。

 大会7日目からジュニアの部も始まり、日本勢は男子ダブルスの1回戦に臨んだ堀江亨(関スポーツ塾・T)/清水悠太(パブリックテニスイングランド)が接戦を制して2回戦に進出し、女子ダブルスで本玉真唯(S.ONE)がウクライナの選手と組んで同じく1回戦を突破した。◇   ◇   ◇

 アーサー・アッシュ・スタジアムのナイトセッションには独特の高揚感があるが、今大会の話題をさらったフランス〈三銃士〉のひとり、ジョーウィルフリード・ツォンガ(フランス)が王者ジョコビッチに挑んだ準々決勝は、試合開始から最高のボルテージを見せた。ジョコビッチのサービスから始まった試合だが、ツォンガがポイントを得るたびにスタンドが沸く。第2ゲームをツォンガがキープしたときは、特に大きな歓声が31歳のチャレンジャーを後押しした。

 まるでもう佳境かという雰囲気だったが、観客は知っていたのだろう。第1セットをジョコビッチが奪えば勝利はあっさりジョコビッチのものだということを。ジョコビッチが第1セットを奪った試合に勝つ確率は過去1年のデータでは100%。キャリア全体でも史上最高の96%を誇る。

 ジョコビッチのサービスゲームの奪取率は過去1年では87.8%で、これはジョコビッチにしては低い順位のツアー7位だが、それでも相手にしてはブレークはたやすくない。それらを考えると、ツォンガがサービスゲームを序盤から落とすようなことがあれば、もう試合は終わったようなもの。この日、高い席で約2万5000円のチケットを買った観客の、ツォンガを後押しするムードには、競った試合を見たいという欲望が込められていた。

 しかしそんな観客の願いをよそに、第6ゲームでツォンガは3つもダブルフォールトをおかしてブレークを許す。すぐにブレークバックしたのはよかったが、第8ゲームでふたたびジョコビッチがブレーク。6-3で第1セットを奪い、第2セットもジョコビッチのペースで進む。

 5-2となり、勝負の行方はもう決定的な展開の中で、ツォンガのもとへトレーナーがやって来てスタジアムの雰囲気はさらに曇る。このセットもジョコビッチが6-2で奪い、ツォンガは第3セットの1ポイント目でダブルフォールトをしたところで棄権を申し出た。

 膝のケガは右も左も過去に何度も経験しており、その痛みが何を意味するのか、ツォンガ自身がよくわかっているという。

 「膝がダメな状態では、ジョコビッチ相手に2セットダウンから挽回することは不可能」

 それは当然の決断だった。

 これで今大会、ジョコビッチの対戦相手が試合前あるいは途中で棄権するのは3度目。5試合すべてストレート勝ちでも15セット戦わなくてはならないところを、ジョコビッチは10セットしかプレーしていない。

 「こんなグランドスラムは僕も経験したことがない。でも大会が進むにつれて、調子は上がってきている」

 リオ五輪で痛めた手首の容態が心配された今大会。それを思えば、運は完全にジョコビッチに向いている。2セットを見た限り、ツォンガのコンディションが万全でなかったとしても、ジョコビッチのギアはほぼトップの状態だった。

 準決勝の相手は、2008年の全仏オープン以来のグランドスラム・ベスト4入りを果たしたモンフィス。「才能をもっとも生かせていない選手」と言われ続けてきたモンフィスの逆襲は脅威だ。しかし、それを封じるだけの経験を王者は持ち、実践する体力を温存できている。

(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)