247戦を戦って、表彰台は雨の2008年モンツァの優勝一度だけ。コンストラクターズランキング自己最高はその2008年の6位で、それ以外は7位から9位を行ったり来たり……。 それが、スクーデリア・トロロッソだった…

 247戦を戦って、表彰台は雨の2008年モンツァの優勝一度だけ。コンストラクターズランキング自己最高はその2008年の6位で、それ以外は7位から9位を行ったり来たり……。

 それが、スクーデリア・トロロッソだった。



ブラジルGPで2位表彰台を獲得したトロロッソのピエール・ガスリー

 しかし、2019年のトロロッソは違った。昨年始まったホンダとのタッグを土台に、チームの組織改革を進めてきたからだ。

 まず、昨年型レッドブルRB14のギアボックスやサスペンションなど、独自制作を義務づけられた”リステッドパーツ”以外はできるだけ多くをレッドブルから供給してもらった。結果、自分たちの限られた人的・金銭的リソースを空力開発に集中させることができた。

 これによってマシン開発が順調に進むようになると、例年であればシーズンが進むにつれて開発が鈍って速さを失っていくトロロッソが、今季はシーズン後半戦になっても中団グループ最上位を争う位置につけ続けることができた。

 加えて、1年間の実戦実績があるレッドブルRB14のパーツを使うことで、メカニカル面の性能だけでなく、マシンパッケージ全体の信頼性向上につながったことも大きかった。

 テクニカルディレクターのジョディ・エジントンはこう語る。

「今季の我々はレッドブルのギアボックスとリアサスペンションを流用したが、それは主に信頼性確保を目的としたものだ。実際にここまでトラブルはほとんど起きていないし、開幕前の時点ですでにシーズン末まで走るだけのスペアパーツも確保していた。

 これまでその開発に割いていた時間を今年は空力開発に傾注し、その結果として中低速域での空力性能を向上させることができた。それが今年のマシンのパフォーマンス向上につながっている」

 また、昨年までのイタリア・ファエンツァのファクトリー増強に続き、今年は英国ビスターの空力部門の改善にも着手した。昨年は開発した空力部品がコース上で想定どおりのパフォーマンスを発揮しない問題に何度か直面したが、シーズン終盤戦にコリレーション(誤差修正)のためのデータ収集を行ない、それを元に風洞の使い方を見直してきた。

 今年のトロロッソはひとつひとつのアップグレードが小さなものだったとしても、それがきちんと効果を発揮したことで、着実にマシンパフォーマンスを向上させていった。

 シーズン後半戦は、ピエール・ガスリーが「マシンはベルギーGPから変わっていない」と語ったこともあった。だが、フロントウイングのような大規模なアップデートはなくとも、小さなモディファイは繰り返されていた。予選パフォーマンスでは0.1秒ほどの効果であったとしても、マシン全体の安定性やドライビングの快適性を向上させるものであったり、セットアップの幅を広げるものであったりと、レース週末全体のパフォーマンス向上に確実に役立っていたのだ。

 レース現場の技術オペレーションを取り仕切るチーフレースエンジニアのジョナサン・エドルスは、次のように語る。

「今年のシーズンに際して、我々は風洞のオペレーションなどさまざまな部分においてチーム体制を変えた。正直、開幕時点では自分たちのマシンのパフォーマンスがどのくらいなのかわからなかったけど、シーズンを通してここまで高いパフォーマンスを発揮できたのは驚きだった。

 とくに、シーズン序盤に投入したアップデートがうまく機能し、安定したパフォーマンスを維持することができたことで、すばらしい結果につながった。正しいタイミング、正しい場所にいたことで、ポイントを重ねていくことができた。体制も安定してどんどんよくなっている」

 そういった背景もあって、今季のトロロッソはマシンセットアップに迷うことが少なかった。昨年は持ち込みセットアップが当たれば速いものの、外した時は金曜から日曜までの流れのなかで挽回できないまま終わることも多かった。しかし、今年のトロロッソは金曜がダメでも土曜にはしっかりと方向修正を施し、とくに決勝で安定したパフォーマンスを見せた。

 たとえばシーズン中盤までは、暑いコンディションでレースペースに苦戦していた。しかし、それに対処するためのセットアップ、つまり予選と決勝の正しい妥協点を見極めることができるようになった。それが、暑かった第20戦・ブラジルGPで中団グループ最上位を走り、結果的に上位勢の自滅によって2位表彰台(ガスリー)を獲得できた理由だろう。

 また、トロロッソはレース戦略の運営面でも飛躍的な進歩を遂げて、確実にポイントを獲るレースができるようになった。

 雨で荒れた第11戦・ドイツGPで11年ぶりの表彰台(3位=ダニール・クビアト)を獲得することができたのも、運営面の進歩の賜物だ。アレクサンダー・アルボン(当時トロロッソ/第13戦からレッドブル)とクビアトにそれぞれ異なるギャンブルを打たせ、レース序盤はアルボン、レース終盤はクビアトが上位にくるように、どちらの展開になっても結果を残せるレースをしていた。

 最終戦アブダビGPでは、ルノーとランキング5位を8点差で争うところまできた。それが果たせれば、トロロッソにとっては自己最高位の結果となったはずだ。

 しかし、今年のトロロッソは冷静だった。

 Q3に進出したマクラーレン勢やルノー勢のことは考えず、16点差で追いかけてくるレーシングポイントとの争いだけを考えていた。純粋なマシンのパフォーマンスでは、「ルノーには敵わず6位」という現実的な見方をしていたからだ。

「我々はレーシングポイントだけを見てレースをした。チャンピオンシップ6位を確保したかったからね。1台は彼らと同じ戦略、そしてもう1台は異なる戦略を採ることで、たとえばセーフティカーがレース序盤に出ても終盤に出ても対処できるようにしておいた。

(レーシングポイントに完敗して)コンストラクターズランキング6位を失うことはないようにしたかったし、現実的に考えても我々の実力はランキング6位が妥当だ。シーズンを通してルノーのほうがマシンのパフォーマンスは優っていたからね」(エドルス)

 また、レッドブル・ホンダの成功によって、ホンダとの関係値がトロロッソによりメリットのあるものになったことも大きい。これは、ホンダがレッドブルとのタッグを決めた時からフランツ・トスト代表が繰り返し語っていたこととも合致する。

 完成品のパワーユニットを受け取ってマシンに組み込むだけの他カスタマーチームと違い、トロロッソはパワーユニットの開発段階からレッドブルテクノロジーを通してレッドブルとともにホンダと直接話し合いができる。レッドブルとトロロッソのテクニカルディレクター両名も、ファクトリーや現場で頻繁に話し合えた。これは、普通のカスタマーチームにはない大きなメリットだ。

 ホンダとしても、F1撤退の危機に遭った自分たちに手を差し伸べてくれたトロロッソには、大きな感謝の念を持っている。レース週末のパワーユニットの運営面でも、他メーカーがカスタマーチームに最小限の人員数やモード数で対処しているのに対し、ホンダはレッドブルとトロロッソで同じ体制を敷いた。

 トロロッソとのタッグ3年目、そしてレッドブルとのタッグ2年目でさらなる飛躍を目指す2020年には、「アルファタウリ」と名を変えるトロロッソにとってもマシン開発やレース運営面で大きな追い風になる。

 2020年、トロロッソはただ名前が変わるだけではなく、チームとして生まれ変わるような大きな成長を遂げる。トスト代表はその成長を楽しみにしている。

「トロロッソにとっては2度の表彰台を獲得し、これまでで最も成功に満ちたシーズンになった。コンストラクターズランキングでも5位とわずか数点差の6位だ。ドライバーたちは献身的で成熟したパフォーマンスを発揮し、空力部門のもたらしたアップグレードもすべてうまく機能した。

 信じられないほどすばらしい仕事をしたホンダにも、大きく感謝したい。来年はさらに強くなると自信が持てる。2020年が楽しみだよ」