シーズン終盤、イ・ボミからは笑みがあふれていた。以前から交際していた韓国の俳優イ・ワン氏との結婚式を控えていることもあって、その笑顔はいつになく柔和な感じがした。「結婚生活がどうなるのかは、初めてのことなので、あまり明確には想像できません…
シーズン終盤、イ・ボミからは笑みがあふれていた。以前から交際していた韓国の俳優イ・ワン氏との結婚式を控えていることもあって、その笑顔はいつになく柔和な感じがした。
「結婚生活がどうなるのかは、初めてのことなので、あまり明確には想像できませんが、これまで以上に楽しく過ごしていきたいと思っています」
そう語ったイ・ボミに、結婚相手にしてあげられることは何か? とあらためて尋ねると、少し考えてこう言った。
「いつも笑わせてあげられることです(笑)。私、笑わせてあげるのが得意なんですよ!」
ファンを大切にし、人当たりがよく、誰に対しても分け隔てなく接するイ・ボミ。イ・ワン氏も、彼女のそういうところに惚れたのかもしれない。
イ・ボミがこうして結婚話を楽しくできるのも、すべては今シーズンの成績によるところが大きい。
なにしろ、2018年シーズンは不調に陥って、賞金ランキング83位と急降下。2011年に日本ツアー本格参戦を果たして以来、初めて賞金シードを得られなかった。2016年に賞金女王となって付与された3年シードのおかげで、今季もツアーにフル参戦できたが、もし復調が叶わなかったら、来季のシードを失う--つまり、崖っぷちの状態で、今季を迎えていたわけだ。
そうして、最終的に賞金ランキング21位となり、来季のシード権を得ることができた。彼女にとって、それは何より大きく、トレードマークの笑顔を取り戻す最大の要因となった。
今季、復調気配を見せたイ・ボミ。完全復活も近い
崖っぷちのシーズン前、2年連続で賞金女王に輝いた時の専属トレーナーを再びチームに招き入れ、オフはトレーニングを徹底して行なった。そのうえで、悩んでいたショットの精度を高めるため、スイングを見直して、何度も、何度も打ち込んだ。
それでも、決して自信を持ってシーズンを迎えたわけではない。復調できるのかどうか、それは序盤戦の成績次第だった。
迎えた開幕戦のダイキンオーキッドレディスは、34位タイで終えた。その後の試合でも、30位~50位前後の成績にとどまり、6月のアース・モンダミンカップまでに13試合に出場し、予選落ちが5回もあった。
そんな序盤戦を、イ・ボミが振り返る。
「とにかくしんどい時期でした。成績を残すことよりも、自分のスイングの感覚を取り戻すことに集中していました。コースの中では、あまりにも不安要素が多くて、『どうにか、スランプから脱出したい』という思いが強かった。そんな時に出会ったのが、イ・シウコーチでした」
イ・シウ氏は、韓国でも指導力に定評があるコーチのひとり。現在の女子世界ランキング1位で、今季米女子ツアーの賞金女王になったコ・ジンヨンのコーチとしても有名だ。
苦悩を続けるイ・ボミにとって、そのイ・シウコーチとの出会いが、間違いなく復調への分岐点となった。イ・ボミが言う。
「(イ・シウコーチから)とくに何かを具体的に教わった、ということでもないんです。シンプルに、スイングに関するアドバイスを受けながら、ひたすら打ち込んでいました。(イ・シウコーチからは)ワンポイントのアドバイスがほとんどで、細かいことは何も言われていません」
イ・シウコーチのアドバイスが、イ・ボミにはうまくハマったのだろう。そこで、スイングに関する悩みが解消されると、気持ちにも余裕ができた。さらに、試合でも結果が出るようになり、よりポジティブな思考を持てるようになった。
「(イ・シウコーチに)教えてもらうと結果が出るので、ゴルフ場に行くのが楽しみになったんです。今までは、本当に嫌で、嫌で……。そんな私を見て、コーチも練習量や質をしっかりと調整してくれていました」
かつて専属キャディーだった清水重憲氏は、「ボミは成績が出るたびに、気持ちが乗ってくるタイプ」と話していたが、事実、イ・ボミは試合で好成績を残し始めると、一段と調子を上げていった。
7月の資生堂 アネッサ レディスから3試合連続でトップ10フィニッシュを飾ったイ・ボミ。精神的にも完全に落ち着きを取り戻すと、8月のCAT Ladiesでは単独3位となり、復活を予感させた。
その後もコンスタントに結果を残し、所属先のトーナメント、NOBUTA GROUP マスターズGCレディースでは、柏原明日架と熾烈な優勝争いを演じた。結局、柏原に1打差及ばず2位となったが、今年最高のプレーができたことに、イ・ボミは満足気だった。
「(優勝争いの)緊張感のなかでも、しっかりとしたプレーができた試合でした。悔しい気持ちがないって言ったらウソになりますけど、それは、ほんの少しだけ。満足している気持ちのほうが大きいです」
今季を振り返って、「納得の一年だった」というイ・ボミの表情は、まさしく晴れやかだった。ようやくスランプから脱出できたことを、素直に喜んでいた。
とはいえ、彼女の戦いがこれで終わるわけではない。結婚生活がスタートして環境も変わる来シーズンは、”ミセス”として新たな一歩を踏み出すことになる。晴れてシード権も得たことで、ここ数年は口にしてこなかった「優勝したい」という言葉も自然とこぼれた。
「(結婚しても)まだまだゴルフは続ける気持ちでいますし、これからも日本でプレーしていきます。(旦那さんとなるイ・ワン氏からも)『納得するまで(ゴルフを)続ければいい』と言われているので、心強いです。そして、試合に出るからには、優勝したい。また、みんなの前で優勝する姿を見せたいです」
日本ツアー本格参戦から、ちょうど来季は節目の10年目となる。心機一転で迎える2020年、最高の笑顔でカップを掲げる”新生”イ・ボミの姿が見られることを期待したい。