強豪相手に絶対的強さを一度も見せることなく、「紅き軍団」の今シーズンは早くも終戦となった。 東西の7大学が初戦を迎える、大学選手権3回戦--。12月15日、埼玉・熊谷ラグビー場で帝京大(関東大学対抗戦3位)vs流通経済大(関東リーグ戦3位…

 強豪相手に絶対的強さを一度も見せることなく、「紅き軍団」の今シーズンは早くも終戦となった。

 東西の7大学が初戦を迎える、大学選手権3回戦--。12月15日、埼玉・熊谷ラグビー場で帝京大(関東大学対抗戦3位)vs流通経済大(関東リーグ戦3位)が行なわれた。



帝京大が流通経済大に屈し、まさかの大学選手権で初戦敗退

 2019年1月2日、無敵を誇っていた帝京大は準決勝で天理大に敗れ、大学選手権10連覇を阻止された。

「強がりではないのですが、負けたことで、チームとしての成長につながる兆しが見えてきた。帝京も勝てない時代がありましたから、これからの選手のがんばりに期待したい」

 今年のワールドカップ日本代表にHO(フッカー)堀江翔太(パナソニック)、SH(スクラムハーム)流大(ながれ・ゆたか/サントリー)、CTB(センター)中村亮土(サントリー)ら最多6人選手を送り出した名将・岩出雅之監督は、大学選手権での巻き返しを誓った。

 リベンジで挑んだ新シーズン。春から帝京大の調子は上がらず、関東大学対抗戦でも明治大、早稲田大、慶應義塾大に敗れ、4勝3敗という不甲斐ない成績に終わった。

 2連覇を目指す明治大(関東大学対抗戦1位)、昨年度準優勝の天理大(関西リーグ戦1位)、初優勝に意気込む東海大(関東リーグ戦1位)、11シーズンぶりの優勝を狙う早稲田大(関東大学対抗戦2位)……。強豪校の実力が拮抗するなか、帝京大は過去に対抗戦4位から優勝した年もあっただけに、「ダークホース的な存在になるのでは?」と予想されていた。

 試合早々、帝京大は流通経済大に2トライを奪われ、開始5分で0-12とリードされる展開となる。だが、スクラムの強さを武器にFWを軸とした攻撃を繰り出し、3トライを奪い返して25-19と逆転に成功。後半はともにトライを奪い合うものの、残り18分で帝京大が39-31の8点リードとなった。

 だが、帝京大の選手たちはどこか浮き足だっていた。昨年度の準決勝に先発していた選手は4人しかおらず、さらに5人が今年初先発だったことも影響したのだろうか。この試合に向けて、選手たちは何度も話し合って「攻撃や守備の戦い方を決めた」と言うが、ディフェンスにほころびが見え始める。

「負けたら終わり……」

 そのプレッシャーは、どちらの選手にとっても重くのしかかる。そんななか、流通経済大の主将No.8(ナンバーエイト)積賢佑(せき・けんすけ/4年)は冷静だった。

「相手が疲れているのがわかった。試合前の分析で、帝京大のディフェンスが内に寄る傾向があったので、外を攻めた」

 帝京大は流通経済大の攻撃をディフェンスしきれず、後半29分にフィジー出身のWTB(ウィング)イノケ・ブルア(2年)、後半32分にFB(フルバック)河野竣太(2年)にトライを決められて39-43。土壇場でまさかの逆転を許し、最後は流通経済大FWにボールキープされてノーサイドを迎えた。

 流通経済大に公式戦で負けるのは、帝京大ラグビー部の歴史で初の出来事。帝京大が大学選手権の初戦で敗退したのは、2006年度大会でSH田中史朗(キヤノン)を擁した京都産業大に7-10で敗れて以来、実に13シーズンぶりのことだった。

「実力不足だった。相手選手のいいランを止められなかったことが一番のポイント。積み上げてきたことがまだまだ甘かった」

 試合後、岩出監督は肩を落とした。

 過去10年あまり、帝京大はプレーだけでなく、フィジカル強化や食事・栄養面で土台を築き上げたことにより、大学ラグビー界をリードする存在になっていた。しかし、ライバル校もフィジカルトレーニングに精を出すようになり、2年ほど前から帝京大が絶対的な強さを誇る試合は少なくなってきた。

「フィジカルは強かったですが、ほかの怖さはあまり感じなかった」

 対抗戦で帝京大に40-17と快勝した明治大のLO(ロック)箸本龍雅(3年)はこう語っている。

 また、帝京大はリクルート面でも苦戦した。今年の4年生で高校日本代表に選ばれていた選手は、ケガで流通経済大戦に出場できなかった主将CTB/FL(フランカー)本郷泰司ら2名だけ。FWでの高校日本代表選手はゼロだ。さらに、昨年度のFWは4年生が中心で、今年のFW陣は経験値が高くない。その結果、ケガ人も増えてメンバーを固定することができない悪循環に陥ってしまった。

「今年の4年生は経験値が少なく、厳しいところを体験していない。連覇の苦しみというか、先輩たちの汗や悔しさを、まだこの選手たちは感じていなかった。今年の4年生の育て方を間違ったかな……。自分の指導、下級生の甘さを感じていました。簡単に勝てない。現実を直視しています」(岩出監督)

 シーズン佳境の11月、岩出監督は選手たちを鼓舞するため、本来CTBである本郷主将をFLにコンバートした。ただ、その本郷主将もケガを負い、流通経済大戦に出場することは叶わなかった。

「自分が一番出たかった。(先輩たちの築いてきた)結果は重圧になったが、それを超えていくからこそ自分たちの力になるとやってきた。情けない気持ちでいっぱいです」

 スタンドから声援を送り続けた本郷は、声を振り絞るように話した。

 また、1年生から試合に出場しているエースのWTB木村朋也(3年)も、反省の弁をこう述べた。

「(昨年度までと比べて)正直言って、練習(の雰囲気)はぬるかった……。キャプテンがひとりでがんばっていたのに、どこか(本郷)泰司さん任せだった。1年生から試合に出ているので、それを還元しないといけない。『ワンチーム』になって、根底の部分で帝京大学ラグビー部をもっといいものに変えていかないといけない」

 今年は多くの若いFW陣が大舞台を経験した。それは、彼らにとって大きな財産となるだろう。BK陣は1年~2年から出場している才能豊かな選手が揃っているだけに、岩出監督も「来年は強い」と自信を持っている。

 この悔しい経験を踏まえて、来年度は再び、強い帝京大が戻ってくるはずだ。