福田正博 フットボール原論■現在、イタリア、セリエAのボローニャでレギュラーの座をつかんだ冨安健洋。日本代表DFとして、また五輪代表世代の期待の若手として、これからがますます楽しみな逸材だ。その冨安の特長を、元日本代表の福田正博氏が考察…
福田正博 フットボール原論
■現在、イタリア、セリエAのボローニャでレギュラーの座をつかんだ冨安健洋。日本代表DFとして、また五輪代表世代の期待の若手として、これからがますます楽しみな逸材だ。その冨安の特長を、元日本代表の福田正博氏が考察した。
ボローニャで右サイドバックとして活躍する冨安健洋
日本代表にとって、選手層に厚みがあることはW杯で勝ち上がるために不可欠な要素だ。また、登録できる選手数と交代できる枚数には限りがある以上、選手交代ではなく、局面に応じて複数のポジションをこなせる選手の重要性がさらに増してきている。
その象徴的な存在が、21歳の冨安健洋だ。日本代表ではセンターバックを務めることが多い冨安は、イタリアのボローニャに移籍してからは右サイドバックで起用されている。これは彼の成長過程において意味の大きいことだと思う。日本代表でセンターバックもサイドバックもできる選手がいることは、監督にとって、チーム全体の構築を考える時に大きなメリットになるからだ。
冨安は身長188センチと高さもある。センターバック(CB)は相手の攻撃に対応しなくてはいけないポジションであり、「高いボールは嫌なので対応しません」というわけにはいかない。「スピードのあるFWは無理です」と言えるわけもなく、止めなくてはいけない。すべてのことに対応できなくては務まらない。高さもスピードも求められる。それが守備の要であるCBであり、そのための能力を冨安は高いレベルで備えている。
日本の場合、体のサイズやフィジカルの強さが強豪国に比べると弱点になり、そのことはロシアW杯決勝トーナメント・ベルギー戦の後半最後に失点した局面にも表われている。世界のトップレベルでは、CBには高さも強さもスピードも必要になっている。森保一監督もサイズのことは相当期待しているはずだ。
さらに、CBはフィード能力も必要で、カバー能力も必要だ。それができたうえで、攻撃参加も求められるサイドバックもできるということは、相当能力が高いということ。しかも、冨安は守備的MF、ボランチもできることを考えると、まさにユーティリティーな選手であり、どこのクラブの監督にとっても、獲得したい選手だろう。
現代サッカーの強豪クラブは、試合中にフォーメーションや選手の並びやポジションを変える。たとえば、ドイツ・ブンデスリーガのライプツィヒが好例だろう。ライプツィヒは頻繁にシステム変更をするので選手が混乱しているという議論もあり、一部の選手からはユリアン・ナーゲルスマン監督に対する不満の声もあるという。「テレビゲームではないし、選手は機械じゃない」と。たしかに、あまりにもコロコロと布陣や並びを変えるのは混乱を招く部分もあるかもしれないが、対戦相手がこちらの戦術に対応をしてきたら、それに素早く対応していく重要性が増していることも事実だろう。
とくに日本代表の場合、W杯という舞台では強者ではなくむしろ弱者なので、戦術は臨機応変に変えられたほうがいい。つまり、戦い方の引き出しを増やすことで相手に揺さぶりをかけて、先手を取って仕掛けていく必要がある。
多くの選手が戦い方のバリエーションを増やし、複数ポジションをこなせるようになることで、選手交代をしないで布陣を変更し、戦い方を変えていくことができれば、ゲームの流れを変えていくこともできる。そうした戦い方は、日本に向いていると私は思っているし、そういうサッカーを構築していかなければ、世界の強豪国には追いついていけないのではないか。
その意味でも、複数のポジションをこなせる冨安が、日本のキープレーヤーと言える。冨安は、ボローニャで右サイドバックを任されても、まったく問題なく質の高いプレーができている。こうなってくると、酒井宏樹(マルセイユ)とのポジション争いにもなってくるかもしれない。
センターバックには、吉田麻也(サウサンプトン)はもちろん、昌子源(トゥールーズ)のほか、植田直通(サークル・ブルッヘ)、三浦弦太(ガンバ大阪)、畠中慎之輔(横浜F・マリノス)らも実力を示している。そのため、冨安がセンターバックではなく右サイドバックで出場する可能性は十分ある。
酒井に問題があるのではく、これだけ長い間、代表とクラブでコンディションをキープし続けることは相当な苦労があるはずなので、ローテーションという観点から冨安の右サイドバックは現実的に考えてもいいだろう。もちろん、酒井の実績は申し分ない。それでも、日本代表の将来を考えた時に、来年30歳になる酒井がより長くプレーできるためにも、若手の突き上げがさらに必要とも言える。
ほかに、ボランチで冨安を起用する選択肢もある。柴崎岳(デポルティーボ・ら・コルーニャ)と組むもうひとりとなると、サイズがある選手のほうが、バランスが取れるからだ。
そして、W杯や五輪などの大舞台に立つ時、タフなイタリアのセリエAで経験を積んでいることは非常に大きな糧と言える。つまり、今の冨安は常にアウェーの環境でプレーして生活もしているということ。そうやって日々厳しい環境でプレーを続けて適応できているからこそ、さらに成長している。
21歳の冨安は、日本代表にとっても五輪代表にとっても、これからさらに重要な選手になっていくはずだ。