ATPの2019年を振り返ると、いくつかの激しいライバル関係が存在した。今回はその一つ、ロジャー・フェデラー(スイス)VSステファノス・チチパス(ギリシャ)のライバル関係を見てみよう。チチパス…

ATPの2019年を振り返ると、いくつかの激しいライバル関係が存在した。今回はその一つ、ロジャー・フェデラー(スイス)VSステファノス・チチパス(ギリシャ)のライバル関係を見てみよう。

チチパスは、二十代のプロ選手の中にもたくさんいる、フェデラーに憧れて育ってきた世代の一人だ。そしてチチパスは、その中でも幸運な一握り、彼のライバルに数えられる選手の一人となった。2019年、21歳のチチパスは20回のグランドスラム優勝記録を持つフェデラーと4回対戦。その対戦を観衆は満喫した。世代を超えた片手バックハンド対決。テニスファンは8月に38歳になったフェデラーにまだまだ勝ち続けて欲しい想いと、若さと野望に燃える若者を応援したい気持ちとに引き裂かれた。

「全豪オープン」4回戦 6-7(11)、7-6(3)、7-5、7-6(5)でチチパス勝利

シーズン最初のグランドスラムである「全豪オープン」で、チチパスとフェデラーは「次世代選手たちはビッグ3から玉座を奪えるか?」という2019年の一大テーマを投げかける。フェデラーが初めてグランドスラム優勝を遂げた2003年の「ウィンブルドン」からこの「全豪オープン」の前まで、グランドスラム62大会中51大会でビッグ3が優勝。2019年も、終わってみれば次世代の誰もビッグ3の優勝を阻めない結果となったが、少なくともこの「全豪オープン」では、チチパスは「全豪オープン」で過去6回優勝、2017年・2018年と連覇していたフェデラーに対し、なすべき役割を果たした。

この試合でチチパスは何度も良いサーブを決め、その後のフェデラーVSチチパスのライバル関係を垣間見させた。第1セットを6-7(11)という接戦で落とした後、第2セットも4-5と追い詰められながら、チチパスは4度のセットポイントを阻み、タイブレークの最後の4ポイントを連取して、セットカウントを1-1に戻した。フェデラーは試合後こう語った。「ものすごく悔やんでいる…第2セットを取らなければいけなかった。どんな手を使っても、取るべきだった」

第2セットを取ったことでチチパスは自信をつけ、その後は12回のブレークポイントをすべて凌いで、3時間45分の熱戦の末に、グランドスラムで初めて準々決勝に進出したギリシャ人選手となった。「感動的な瞬間だった。何か本当に大きなことの始まりだった。嬉しかった。幸せだった。安心して、肩にしょっていた重荷が消えてなくなった」とチチパスは語った。

2018年「Next Gen ATPファイナルズ」覇者であるチチパスは、その後ロベルト・バウティスタ アグート(スペイン)を破ってグランドスラムで初めて準決勝に進出。2017年の「Next Gen ATPファイナルズ」を制して翌年の「全豪オープン」で準決勝に進出したチョン・ヒョン(韓国)と同じ道をたどった。

「ATP500 ドバイ」決勝 6-4、6-4でフェデラー勝利

だがフェデラーがリベンジを果たすまでそう長くはかからなかった。3月のドバイで、フェデラーは通算109回の優勝を果たしたジミー・コナーズ(アメリカ)に次いで史上2人目の、ツアーレベルで100回以上の優勝を目指していた。

フェデラーは2018年10月に故郷の「ATP500 バーゼル」で通算99回目の優勝を遂げていた。そして彼は100勝目の初めての機会を逃さなかった。「全豪オープン」での負けなどすっかり忘れたかのように、フェデラーはチチパスに対して2回ブレークし、自身が与えた2度のブレークポイントではいずれもブレークを許さず、わずか69分で勝利を決めた。これはフェデラーの8回目のドバイでの優勝で、彼が8回以上優勝した大会は4つになった(ドバイ、ハレ、ウィンブルドン、バーゼル)。

「この優勝には深く満足している。その意味がわかっているから。こんな数字や記録が好きなんだ」とフェデラーは語った。「多くの人がグランドスラムの話をしたがる。だけど僕の戦場はATPツアーだ。ここで僕はずっとプレーしてきて、たくさんの勝利を積み重ねてきた。みんなが思っているように、グランドスラム以外の時はずっと休んでいるわけじゃないんだ。この数字が、それを証明してくれていると思う。素晴らしい一週間だった」

「ATP500 バーゼル」準決勝 6-4、6-4でフェデラー勝利

テニスでは、決して変わらないことがあるように思える。フェデラーの攻撃的なスタイルのテニスは、球足が速いサーフェスではほぼ無敵で、彼の故郷のバーゼルの会場は正にそういうサーフェスだ。フェデラーがこの大会に出場するのは19回目で、それまで20連勝中、通算成績は71勝9敗だった。

だがチチパスは、「ウィンブルドン」初戦敗退を含むシーズン中盤のスランプをフェデラーに関する本を読むなどして乗り越え、「ATP500 北京」で決勝進出、「ATP1000 上海」では準決勝進出と、再び好調の波に乗っていた。そのチチパスでさえ、バーゼルでのフェデラーを止めることはできなかった。ドバイでの決勝を再現するように、フェデラーはチチパスを2度ブレーク、79分で葬り去った。フェデラーはバーゼルで10度目、通算103回目の優勝を遂げた。この大会で昔ボールボーイを務めたフェデラーは、ボールキッズたちのためにピザパーティを開くことも忘れなかった。

「Nitto ATPファイナルズ」準決勝 6-3、6-4でチチパス勝利

しかしこのライバル関係で2019年最後に笑ったのはチチパスだった。「Nitto ATPファイナルズ」初出場だったチチパスは、この大会最多となる6回の優勝を誇るフェデラーと準決勝で対戦。フェデラーが準決勝進出を決めた、世界2位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)との試合は、今シーズンのフェデラーの試合の中でも白眉と言えるものだった。フェデラーは23本のウィナーに対しアンフォーストエラーはわずかに5本。6-4、6-3で勝利を収めていた。だが一方のチチパスも、2勝1敗でグループリーグ1位。その1敗も、世界1位のナダルとフルセットまで競り合っての末だった。

この試合でチチパスは、シーズン最初の「全豪オープン」の時に戻ったかのような戦いぶりを見せた。チチパスはフェデラーに握られた12回のブレークポイントのうち11回を凌いでストレートで決勝進出を決め、フェデラーはまたしても「もしもあの時…」と悔やむことになった。

その翌日チチパスはドミニク・ティーム(オーストリア)を破り、彼のキャリアで最高のタイトルを手にすることになる。「Next Gen ATPファイナルズ」覇者から「Nitto ATPファイナルズ」覇者へと、見事な成長を遂げた。フェデラーとの試合後、チチパスは語った。「僕もこの会場で大会を見ている子供だった。自分がここに立つなんて、想像もできなかった。だけど、それは起こった。夢は叶うんだ」

※写真は「ATPファイナル」でのチチパス(左)とフェデラー(右)

(Photo by TPN/Getty Images)

翻訳ニュース/ATPTour.com