アヤックスがホームのヨハン・クライフ・アレナで大事な試合を落としてしまい、場内がしばらくシーンと静まり返ったあと、ファンがスタンディングオベーションを贈ることがある。 12月10日のチャンピオンズリーグ(CL)グループステージ第6節、…
アヤックスがホームのヨハン・クライフ・アレナで大事な試合を落としてしまい、場内がしばらくシーンと静まり返ったあと、ファンがスタンディングオベーションを贈ることがある。
12月10日のチャンピオンズリーグ(CL)グループステージ第6節、アヤックス対バレンシア戦もそうだった。ここまで勝ち点10を積み重ねてきたアヤックスは、ホームでバレンシアに引き分ければベスト16進出を決めることができた。しかし、彼らは0-1で敗れてしまった。
試合終了のホイッスルが鳴り、ピッチに座り込むハキム・ツィエク
アヤックスが実力を発揮した試合とは言えなかっただけに、ファンも言いたいことはいっぱいあったはずだ。しかし、選手たちが全力を尽くしたことだけは、たしかである。ピッチ上に崩れ落ちたまま立ち上がらない選手を前に、5万人を超す観衆は批判を後回しにして、まずは精一杯ねぎらう――。それが、ヨハン・クライフ・アレナでの作法なのである。
アヤックスのサポーターたちは、「不条理な敗退だ」と感じていたことだろう。なにせ、勝ち点10も稼いだのに、バレンシアとチェルシー(ともに勝ち点11)の後塵を拝し、ヨーロッパリーグに回ることになってしまった。しかも、バレンシアとチェルシーの得失点差はたった「+2」なのに対し、アヤックスのそれは「+6」もあったのだ。
アヤックスの攻撃サッカーは、今季も健在だった。だが、バレンシア戦のアヤックスは攻撃が湿っていた。この伏線は4日前のオランダリーグ、アヤックスのホームで行なわれたヴィレムⅡ戦にあった。
ヴィレムⅡのアドリー・コスター監督は、「アヤックスを恐れるな。ヤツらのカウンターはスピードがないぞ」と選手に言い聞かせ、ヨハン・クライフ・アレナのピッチに送り出した。アヤックスはサイドアタッカー陣のうち、ダヴィド・ネレス、クインシー・プロメス、ザカリア・ラビアドの3人をケガで欠いていたからだ。
とくにネレスとクインシーの不在は、アヤックスの攻撃から速さ、爆発力、攻撃の奥行きを欠くことにつながった。近年のアヤックスは、ボールを奪ったあとの攻撃への切り替えの速さを武器にしていたが、「今日は恐れるに足らない」とコスター監督は見抜き、大胆に攻撃を仕掛けてヴィレムⅡを勝利に導いた。
バレンシア戦でもアヤックスの攻撃には、速さ、爆発力、攻撃の奥行きがなかった。ネレス、プロメスを同時にケカで欠いた影響は、アヤックスにとって大きすぎた。結果、チャンスメーカーのハキム・ツィエクのパフォーマンスも下がってしまった。
サッカーには、監督の意図とは無関係に、選手同士に阿吽の呼吸が生まれてチームの大きな武器になることがある。アヤックスにおいてツィエクとプロメスの関係は、その最たるものだ。
11月だけで、ツィエクの蹴る鋭いクロスに対してプロメスがファーでゴールを決めたことが5度もあった。あまりに息のあったツィエクとプロメスのコンビネーションに、「フットボール・ツインズ(サッカーの双子)」という言葉もオランダで生まれた。
また、ツィエクはネレスとのコンビネーションも熟成させていた。ネレスもプロメスもいないヴィレムⅡ戦とバレンシア戦でツィエクが精彩を欠いたのは、けっして偶然ではない。
アヤックスのCLグループステージ敗退は、11月5日に行なわれたチェルシーとのアウェーゲームで、一時は4-1とリードしながら、最終的に4-4で引き分けた試合が転換点になったのではないだろうか。
恨めしいのは、4-2で迎えた68分の出来事だ。チェルシーに与えられたPKのシーンで、ジョエル・フェルトマンとデイリー・ブリントのCBふたりが同時にレッドカードとなり、ひとつのプレーで5重罰(PK、退場2名、出場停止2名)を受けた。この判断にオランダ人は怒り狂い、SNSは大炎上。この試合を勝ちきっていれば、アヤックスは最終節を待たずしてグループステージ突破を決めていただろう。
この試合、アヤックスは数的不利でチェルシーに押されながらも反撃し、終盤にはあわや勝ち越しゴールを決めそうになるなど、逆境でも彼らのサッカー哲学をプレーで表現した。だからアヤックスには、「不可能を可能にするかもしれない」という期待を抱いてしまうのである。
今季のアヤックスは昨季のチームに比べて、完成度でははるかに劣る。なにせ、1年前のアヤックスは、CL予備戦・プレーオフの時点でサプライズを予感させるようなチームを作り上げていた。それに比べて今季は、徐々に選手のパズルをはめ込みながら、チームとしての完成形を探していく面白みがある。成長の過程は今後、年明けのヨーロッパリーグで楽しむことになるだろう。
だが、そんな悠長なことを言っていられない事情もある。現行のCLのフォーマットはそろそろ終わり、早ければ2024年にはヨーロッパ・スーパーリーグが生まれる可能性が高い。スーパーリーグはビッグクラブ優遇の色合いが濃く、オランダのような中堅リーグ勢は取り残されるかもしれないからだ。
アヤックスはエドウィン・ファン・デル・サール社長のネームバリューを生かしてロビー活動を進めながら、CLでも結果を残すことによって、スーパーリーグ誕生の際にはその一角に潜り込みたいという野望を持っている。そういう意味でもアヤックスとしては、今季もせめてベスト16には進みたいという気持ちが非常に強かった。
しかし、一番よくないのは、負けを引きずることだ。12月15日には、オランダリーグ2位のAZとの首位攻防戦がある。両チームの差はわずか勝ち点3しかなく、ホームのAZが勝てば優勝争いの行方がわからなくなる。
「CL敗退のショックを拭い去るのは簡単ではない。だが、我々はプロフェッショナルだ。木曜日まではガッカリしていてもいいが、金曜日の練習からはAZ戦に向けて、しっかり気持ちを切り替えないといけない」
バレンシア戦後、アヤックスのエリック・テン・ハーフ監督はチーム立て直しを誓った。